六十七

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 ガイと共に木ノ葉に帰還したトモエは、病院に連れて行かれるサスケに迷わず付いて行った。入院の為の様々な手続きをしたガイには礼を言って別れ、そうして今はサスケの病室の前の椅子に座っている。検査の為と医者に待つよう言われたためだ。

 病院の匂いに浸り、トモエはじっと床を見つめていた。

 その脳裏に甦っていく出来事は全て今日の出来事。イタチの顔を思い出し、服の裾を掴む力が強くなる。

 過去、無邪気に兄弟と遊んでいたトモエは、いつかこんな想いを抱くことになろうとは塵ほども想像しなかった。イタチの深い黒の瞳と、ガイに背負われていたサスケの表情。サスケはどれほどの想いで兄に再会したのか。それは計り知れない。
 そしてトモエもまた、イタチが関わる運命に巻き込まれている。

 更にトモエの頭に道中の自来也の台詞が流れる。極秘情報とはいえお前は知っておくべきだ、と自来也は前置きしていた。

 『イタチ......それからあの鬼鮫というヤツは、"暁"という組織に入っとる。詳しいことはワシもまだ掴んでいないが、大蛇丸もその組織に入っていた』
 『!! 大蛇丸も...?』
 『......それだけ危険なヤツらが集まっとるという事だ。お前もナルトも、覚悟せにゃならんぞ』

 普段気の軽い自来也でさえ深刻な表情をしていた。大蛇丸の顔を思い出し、身震いしたのをトモエは覚えている。だが、同時に不思議にも思った。
 ーー何故ナルトが狙われているのか?聞けば、イタチと鬼鮫の本来の目的はナルトだったという。それは、何故なのか?

 その時ちょうど病室のドアが開き、ぱっと立ち上がった。出てきた医師を迎える。

 「あの、サスケくんは......」

 言外の問いに、医師は小難しそうな顔で応えた。その結果にトモエは眉根を下げる。済まなさそうにする医師に頭を下げ、それから病室に足を踏み入れた。

 ベッドに寝かされているサスケの髪が揺れている。開いている窓から訪れた風は、そうしてトモエの銀色も揺らす。
 丸椅子に座ったトモエは、そうっとサスケの頬を撫でていた。サスケの顔は蒼白だった。外傷もあるけれど、主に負ったのは精神攻撃だと聞いた。全ては、イタチの手によって。
 トモエの記憶は朧気だった。だがナルトから聞いた話がある。サスケは頑なにイタチに向かって行ったという。実力の差を知ってもなお、その憎しみは、抑えきれていなかったという。

 『オレは、アンタの言った通り......アンタを恨み、憎み、そしてアンタを殺すためだけにオレは......生きてきた!!』

 ーーーその為に、本当にそれだけの為に、生きていくのか。

 その憎悪の想いを知っていたとはいえ、トモエを襲った痛みは半端なものではなかった。酷く暗い灰色の霧が、トモエの心を覆った。サスケがどれだけイタチを憎んでいるかだなんて、知っていたはずなのに。

 「…それでも、私は」

 白い病室に、二人。窓から差し込んでいる日の光が唐突に弱くなっていく。太陽が陰り、病室は徐々に、だが確実に暗くなっていく。くしゃり、と布団を掴むトモエの手。銀色の髪が顔を隠す。その瞳に今宿っているのは確かにーーー暗い色。

 トモエの脳裏に甦ったのは、何者をも逃さない、爬虫類のギラつく刃。

 「サスケ......」

 小さく、ぽつりと、だがはっきりと、呟いた。

 「私たちは…きっと…」



 しかし、そのセリフは最後まで続かなかった。

 「サスケくん!!」

 血相を変えたサクラが病室に駆け込んできたのだ。
 驚いて振り返ったトモエが「サクラさん?」と漏らせば、サクラも気がつき「トモエ...!」と動揺する。だが、サクラは眠っているサスケを見てハッとし、すぐさま駆け寄っていた。

 「サスケくん...!!トモエ、サスケくんは...!」
 「......お医者さんにはもう看てもらったんですけど、どうにもできないと。暫く安静に休ませておくしかないそうです......」
 「ガイ先生が教えてくれたのよ、でも、全部は言ってくれなくて......どうしてサスケくんが...!?」
 「......ごめんなさい、私もよくは......」

 そう応えるしか、トモエにはできなかった。全てを教えるにはサスケの事情が深すぎ、正直に言えないと告げるにはサクラのサスケへの想いが強すぎる。
 「...ごめんなさい、サクラさん」ともう一度謝るトモエに、しかしサクラは「...ううん」とぼやいていた。少しは落ち着いたのか、サクラは暫く黙り込む。トモエはそんなサクラにかける言葉もなく。
 再び、「トモエ」とサクラが声をかけるまで、トモエは俯いていた。

 「大丈夫よね......サスケくん......」
 
 か細い声に、そっとサクラを見上げた。ーーそして思った。サクラは本当に、サスケが好きなのだと。

 「......えぇ、きっと......」

 胸が酷く熱い。トモエはそれ以上の言葉を口にできなかった。
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