六十八

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 「……どちら様でしょうか?」

 何だかデジャブを感じる言葉だった。
 容態もだいぶ回復したトモエはサスケの見舞いの後、同じ病院に入院していたカカシの元へも訪れていたのだ。そして目的の病室に入ろうとした際、突然目の前に現れた金髪の女性に声をかけられた。

 「お前が雪箆トモエか。ほう…存外にも祖母に似ているな」

 自分の名前を知っている女性。一体誰なのか、と不審気味に思うトモエ。

 「私は綱手、ついでだ。お前も来い」

 綱手――その名前を聞いてハッとした。それは伝説の三忍の一人で、医療忍術のスペシャリストである女性の名だ。確かナルトと自来也が連れ帰ってきた、とかなんとか。

 ***

 「たかが二人の賊にやられるとはお前も人の子だねェ…天才だと思ってたけど」

 綱手による治療で目覚めたカカシはやはりボーッとしている。その隣にはトモエの姿も。

 「こんな奴のことより次は我が弟子リーをみてやってください!」
 「わかったわかった、そう急かすんじゃないよ。トモエ、カカシのことよろしく頼む」
 「畏まりました」

 よほどリーのことが心配なのだろう。ガイは必死な顔をして綱手を連れ出て行った。トモエもリーが心配ではあったが、今はガイ達に任せるのが一番だろうと無理について行こうとはしなかった。
 それよりもまずは、いまだ辛そうなカカシの看病をするのが先だ。

 「カカシ先生、大丈夫ですか?」
 「……んーー」

 どうやら大丈夫ではないらしい。身体を起こし座ってはいるが目を閉じている。あのカカシでさえこうなってしまうのだ。トモエはイタチの術の強力さに身震いした。

 「ごめんね、トモエ」
 「え…?」
 「あのとき。本来、俺がお前を守らなきゃならなかったのに」

 あのとき、それはおそらくイタチと鬼鮫二人と対峙したときの話だろう。
 トモエが偶然彼らに出会ったとき、カカシはすでにイタチに術をかけられていた。それでもなお戦わんと立っていただけで奇跡だ。

 「いえ、私は術を解くだけで精一杯で、先生たちのように戦闘力があったわけではないですし」
 「あんな奴らを目の前にしてひるまなかったトモエには少し驚いたよ」
 「怖くて仕方なかったですよ。でも、……見過ごすことはできませんから」

 そう言って笑みを浮かべるトモエ。いつもと同じ笑顔だ。
 しかし、どこか影が差しているように見えたのは、担当上忍だからだろうか。

 「トモエ、おいで」

 カカシがちょいちょいと手招きをする。トモエは頭にハテナを浮かべながらもうながされるままベッドに腰掛けた。

 「トモエ、お前は強くなった。でも俺は怖いんだ」
 「カカシ先生…?」
 「キミはサスケみたいに無鉄砲な性格はしていないけど…」

 トモエの目を見ながらカカシがそう呟く。

 「誰かの為に戦おうとするその優しさを、“自分”にも向けて欲しい」

 カカシは笑っているが真剣な顔をしている。
 優しさを自分に向ける、その言葉の意味がどういうことなのか分からないほどトモエは馬鹿じゃない。
 でも――

 「…私は、大切な人たちを守るためだったら自分のことは後回しにしてしまうかもしれません」
 「……」

カカシは何も話さない。

 「私は木ノ葉が、木ノ葉のみんなが大好きです。私のせいでまたみんなが危険にさらされるくらいなら私はこの里を…」


 抜ける

 しかしその言葉はカカシに遮られた。

 「そこから先は話さないで」
 「え…?」

 ベッドに腰掛けうつむきながら話していたトモエは突然背中に温もりを感じた。カカシが後ろから抱きしめてきたのだ。

 「せ、先生…?」
 「トモエは勘違いしてるよ」
 「…?」
 「トモエがいなくなって喜ぶ人間がこの里のどこにいる?そうなったらみんな血相変えて君を探すよ。たとえ君がいなくなることで木ノ葉が狙われなくなったとしても、そこに幸せはない」

 トクントクンとカカシの鼓動を感じるとともに、トモエの顔もどんどん熱くなっていく。

 「す、すみませんカカシ先生、私に非がありました、だからその、もう離してください…!」
 「なんで?」
 「なんでって…」

 カカシはくつくつと笑い出した。ひとしきり笑ったあと、トモエはようやく解放された。


 「トモエ、中忍試験を受けることになったときのこと覚えてる?」
 「…カカシ先生が私に受験資格があるって教えてくれたことですか?」
 「そう。そのとき俺言ったよね。俺がトモエを応援するときはハグするって」


 トモエは記憶をたどる。
 カカシはたしかに言っていた。それでは今のは単なる叱咤激励のハグだったというのか。

 「あぁなるほど、先生は里を抜けると言おうとした私を止め、この里でがんばれって伝えようとハグしたんですね」
 「ざんねーん、違います」

 カカシがもう一度トモエの手を引きよせる。

 「俺がただそうしたかっただけ」

 今度は正面から、トモエは身動きもできずカカシに抱きしめられた。

 「な、な、なにを…!」
 「んー…しばらく眠ってたからね。トモエ、久々に会えて嬉しいよ」
 「答えになってません…」

 わざわざ中忍試験のことを持ち出したにもかかわらず応援のハグではないというカカシにトモエは困惑するばかりだった。
 からかわれているのはわかっている。悪夢を見続けようやく目の覚めたカカシが人肌を求めたくなるのもわかる。しかしなにも私じゃなくていいじゃないか。トモエはそう思えてならない。

 「カカシ先生、いい加減にしないとアスマ先生に言いつけますよ」
 「げ、それはやめて。面倒なことになりそうだから」
 「だったら離れてくださいね」
 「えー、ケチ」

 諦めたのか、トモエを離すカカシ。どこか不満そうではある。

 「ところで、このあとも任務があるの?」
 「あ、いえ。同期に会おうかと」

 カカシは一瞬黙り、そしてすぐニコリと笑った。

 「羨ましいなあ」
 「はい?」
 「あ、いや。同期の奴らとも久々だろうしね。みんな心配してたはずだ。無事を伝えてやってくれ」
 「分かりました。それじゃあカカシ先生、お大事に」

 トモエは扉をあけて出て行った。
 しばらく扉を見ていたカカシだったが、またゴロンとベッドに横になる。


 『羨ましいなあ』


 さっき不意に出た言葉がカカシの頭の中でグルグルと回る。
 いやいやいやいや、羨ましい?なにが?
 トモエと歳の近い子供たちが?トモエを好きになってもなにも問題がない子供たちが?
 え、ていうか俺ってトモエのこと…?いやいや、さすがに問題あるでしょうよ。教え子だよ?

 トモエが言っていた通り自分はまだ錯乱しているに違いない。さっきのもただ彼女をからかった、それだけだ。
 カカシはそう自分に言い聞かせ、静かに目を閉じた。
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