七十三

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 風に揺れて、葉が踊る。大木の枝の上にサスケは座っていた。じっと思い返すはイタチとの邂逅、だが同時に、そこにはナルトの顔も浮かび上がっていた。

 どうしようもない感情が、サスケの脳裏を占領していた。

 その時、ハッと気がついた先には滑らかなカーブを描いている手裏剣があった。反応する前にその手裏剣に絡んでいたワイヤーがピンと張り、サスケの体を幹に縛り付けていた。

 「何のマネだ」
 「こうでもしないとお前、逃げちゃうでしょ。大人しく説教聞くタイプじゃないからね、お前は」

 現れたのはカカシ。ぎりぎり、とワイヤーが鳴る。サスケは無理矢理にでも抜け出そうと試みるが、上忍相手にそれが敵うはずがない。チッと舌打ちするサスケ、その首元の呪印を見ながら、カカシは言った。

 「サスケ............復讐なんてやめとけ」
 「なんだと......!」

 今まで以上に眉を寄せ、憎々しそうに、カカシがイタチにでもなったかのように睨むサスケ。だがカカシは泰然とした態度でサスケを見下ろすだけだった。

 「ま!こんな仕事柄、お前のようなヤツは腐るほど見てきたが......復讐を口にしたヤツの末路は、ロクなもんじゃない。悲惨なもんだ......今よりもっと自分を傷つけ、苦しむことになるだけだ。たとえ復讐に成功したとしても......残るのは、虚しさだけだ」
 「黙れ!!アンタに何が分かる!知ったふうなことを、オレの前で言ってんじゃねェよ!!」

 今まで以上に感情を露にしたサスケがカカシに吠える。「落ち着け」とカカシは宥めるように言うが、サスケは今までにないほど悪辣な表情をする。

 「何なら今から、アンタの一番大事な人間を殺してやろうか!今アンタが言ったことがどれほどズレてるか、実感できるぜ...!」

 カカシは沈黙した。教え子を見るその目には憂慮が滲んでいる。カカシの瞳の中で、サスケはギラついた眼光を見せているが、そのくせサスケは分かっているのだ。こんな問答が無駄だということぐらい。

 「ま、そうしてもらっても結構だがな。生憎オレには、一人もそんなヤツはいないんだよ」

 カカシから出た言葉は単なる皮肉じゃなかった。

 「もう......みんな殺されてる」

 笑ってーーカカシはそう言った。
 サスケは目を見開く。カカシの言葉の重みを知り、復讐に滲んでいた顔が幼さを取り戻した。サスケは知らず知らずの内に俯いて、顔に影を落とす。

 「オレもお前より長く生きてる......時代も悪かった。失う苦しみは、嫌ってほど知ってるよ。オレもお前もラッキーなほうじゃない。そりゃあ確かだ。でも、最悪でもない......オレにもお前にも、もう大切な仲間が見つかっただろ」

 サスケの目に思い浮かぶ。どこまでも真っ直ぐに突っ走っていく少年と、花のような笑顔を浮かべる少女。仲が良いと言えるほどサスケは素直ではなかったが、それでもサスケが居心地の良さを感じていたのは確かだった。
 ーーーそれから。

 「それに、お前にはいるはずだ。仲間という言葉だけでは言い切れない、あの子が」

 銀色の、柔らかく温かい、サスケがずっと共に歩んできた少女が目に浮かび、サスケは目を強く瞑った。しかし、

 「アイツは俺のことなんざ、どうとも思ってねーよ。……トモエにとって俺は、
 
 “父親を殺した男の弟”―−それだけだ」

 あの事件以降、トモエはうちはの集落には近づかず、またサスケとも距離を取るようになった。
 今でこそ同じ班の仲間として一緒にいるようにみえるが、それがなかったら今頃自分と彼女は―――

 「トモエはお前を大事に思ってるよ、なーんでそんな簡単なことにも気付けないのかねぇ」
 「同情されるぐらいなら、」


 「砂が攻めてきたとき、お前を一番最初に案じていたのはトモエだったんだぞ」
 
 「!!」

 大切な人、大切な者たち。彼女の存在は、確かにサスケの心を包んでいた。

 「失ってるからこそ分かる。千鳥は、お前に大切な者ができたからこそ与えた力だ。その力は、仲間に向けるものでも復讐に使うものでもない......何のために使う力か、お前なら分かっているはずだ」

 ぷつりとワイヤーが切れ、解放されるサスケ。しかしサスケは無言でただカカシの声を聞いていた。

 「オレの言ってることがズレてるかどうか。よく考えろ」

 そうして、カカシはその場から消えた。

 サスケは踞る。決闘の時のナルトの、身を挺して止めようとしたサクラの、あの表情。
 そして、トモエのあの、異常に暗かった瞳の色。

 サスケの頭に、それらがずっと焼き付いていた。
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