木ノ葉隠れの大門前。その場にじっと佇んでいたサクラは、何十分もそこで門外の風景を見つめていた。
ーーーサクラはもう何人もの仲間を見送った後だった。
引き止めたかったサスケ、"一生のお願い"を誓ったナルト、いつもの温かい手でサクラを撫でてから彼らを追いかけたカカシ。
今も涙を堪えるのに精一杯なサクラの瞳に、その全員の背中が焼き付いていた。
いつからこうなってしまったのか、サクラにはわからなかった。ただ確かなのは、昨日の時点では既に手遅れだったということだけ。
昨日には既に全てが狂っていたのだーーーサスケの復讐に取り憑かれた心、それに真っ先に気付いていたのは恐らく。
「(多分、トモエだけ......!)」
唱えたサクラは、ぎゅっと両手を組んでいた。
そうしてから、すぐだった。
自分を呼ぶ声がその耳に届き、サクラはハッとして振り返っていた。
「サクラさん…」
ーーー今まさに考えていた、トモエ。
サクラの瞳に映ったトモエは、いつもと何ら変わらないように見えた。それこそ、昨日のほうがよっぽどおかしかったほどに。
「トモエ......!」
通りを歩いてきたトモエはサクラの前に立ち、微かながらに浮かんでいる、微笑み。
それを見たからか、サクラの中の感情は決壊し、何度目か知れない悲鳴を上げたーーー涙が零れ落ちた。
「サスケくんが......サスケくんが、里を抜けちゃったのよ......!
それで、ナルトとカカシ先生が追いかけて...!私、もう、みんなを見送ることしかできなくて!!」
止めどなく溢れる涙が頬を濡らしていく。既にこれでもかというほど流したはずが、溢れる想いは枯れないというのか。
だが、必死でそれを拭うサクラが違和感を覚えたのは、そう遅くはなかった。潤む瞳を腕で擦ったサクラが、今一度確かに見たのはーーー沈痛な笑みを零す、トモエの顔だったのだ。
「(え......)」
サクラは呆然とする。
トモエはすっとサクラを通り過ぎて行った。振り返ったサクラが見たものは、大門を出る間際で立ち止まった、トモエの背中。
「......多分。私は、分かっていた」
それは確かにトモエの声。しっかり聞き取ったサクラは、しかし、その言葉の意味をすぐに理解できなかった。「な、なに......どういう、意味?」と確認するように問いかける。
すると、トモエは少しだけ振り返って、その憂いを帯びた笑みをサクラに見せていた。
「知っていました............“あの人”がもう、この里から、離れてしまったこと」
サクラは暫く何も言えなかった。ただ信じられなかった。仲間を失うことに対して、人一倍敏感なはずのトモエが、そうして落ち着いている事が。
サクラは自身の中にもたげる不安を信じたくなかった。
「な......何で......?」
「......」
「何で......知ってたっていうのなら、何ですぐ追いかけようとしなかったの......!?」
「......ごめんなさい」
「違う!!!私が聞きたいのはアンタの謝罪なんかじゃない!理由を聞いてるのよ、ねえ、どうして!?」
ザアアア____
風が吹き、二人の髪を揺らす。突発的に上がったサクラの体温が冷やされていく。
サクラを見ていたトモエは、相も変わらず状況に似合わない小さな笑みを浮かべながら、また前を向いていた。再び、サクラの目が捉えるのは、トモエの背中だけになった。
「ごめんなさい......だから、今から私は、動く」
「!」
「絶対に。絶対に、サスケと無事に、帰ってきますから。約束する」
サクラの心情は嘘のように静かになっていった。
だが、同時にずきりと痛んだ胸を、サクラはぎゅっと押さえ付けた。
「(なに......?)」
その原因は自分でもわからなかった。そして、サクラはある一点に目を落としていた。
トモエのすぐ下の地面。舗装されたそこが、不意に何かで滲んでいた。
だが、それが何か、サクラが理解する前に。
聞こえてきたトモエの声は、今までのどれよりも凛とした言葉だった。
「行ってきます」
一瞬で、トモエはその場から消えていた。
「トモエ......?」
呟いたサクラの声は、風に消えた。
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