七十六

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 木ノ葉隠れの大門前。その場にじっと佇んでいたサクラは、何十分もそこで門外の風景を見つめていた。

 ーーーサクラはもう何人もの仲間を見送った後だった。
 引き止めたかったサスケ、"一生のお願い"を誓ったナルト、いつもの温かい手でサクラを撫でてから彼らを追いかけたカカシ。
 今も涙を堪えるのに精一杯なサクラの瞳に、その全員の背中が焼き付いていた。

 いつからこうなってしまったのか、サクラにはわからなかった。ただ確かなのは、昨日の時点では既に手遅れだったということだけ。
 昨日には既に全てが狂っていたのだーーーサスケの復讐に取り憑かれた心、それに真っ先に気付いていたのは恐らく。

 「(多分、トモエだけ......!)」

 唱えたサクラは、ぎゅっと両手を組んでいた。

 そうしてから、すぐだった。
 自分を呼ぶ声がその耳に届き、サクラはハッとして振り返っていた。

 「サクラさん…」

ーーー今まさに考えていた、トモエ。

 サクラの瞳に映ったトモエは、いつもと何ら変わらないように見えた。それこそ、昨日のほうがよっぽどおかしかったほどに。

 「トモエ......!」

 通りを歩いてきたトモエはサクラの前に立ち、微かながらに浮かんでいる、微笑み。
 
 それを見たからか、サクラの中の感情は決壊し、何度目か知れない悲鳴を上げたーーー涙が零れ落ちた。

 「サスケくんが......サスケくんが、里を抜けちゃったのよ......!
 それで、ナルトとカカシ先生が追いかけて...!私、もう、みんなを見送ることしかできなくて!!」

 止めどなく溢れる涙が頬を濡らしていく。既にこれでもかというほど流したはずが、溢れる想いは枯れないというのか。

 だが、必死でそれを拭うサクラが違和感を覚えたのは、そう遅くはなかった。潤む瞳を腕で擦ったサクラが、今一度確かに見たのはーーー沈痛な笑みを零す、トモエの顔だったのだ。

 「(え......)」

 サクラは呆然とする。
 トモエはすっとサクラを通り過ぎて行った。振り返ったサクラが見たものは、大門を出る間際で立ち止まった、トモエの背中。

 「......多分。私は、分かっていた」

 それは確かにトモエの声。しっかり聞き取ったサクラは、しかし、その言葉の意味をすぐに理解できなかった。「な、なに......どういう、意味?」と確認するように問いかける。
 すると、トモエは少しだけ振り返って、その憂いを帯びた笑みをサクラに見せていた。


 「知っていました............“あの人”がもう、この里から、離れてしまったこと」
 
 サクラは暫く何も言えなかった。ただ信じられなかった。仲間を失うことに対して、人一倍敏感なはずのトモエが、そうして落ち着いている事が。
 サクラは自身の中にもたげる不安を信じたくなかった。

 「な......何で......?」
 「......」
 「何で......知ってたっていうのなら、何ですぐ追いかけようとしなかったの......!?」
 「......ごめんなさい」
 「違う!!!私が聞きたいのはアンタの謝罪なんかじゃない!理由を聞いてるのよ、ねえ、どうして!?」



 ザアアア____



 風が吹き、二人の髪を揺らす。突発的に上がったサクラの体温が冷やされていく。
 サクラを見ていたトモエは、相も変わらず状況に似合わない小さな笑みを浮かべながら、また前を向いていた。再び、サクラの目が捉えるのは、トモエの背中だけになった。

 「ごめんなさい......だから、今から私は、動く」
 「!」
 「絶対に。絶対に、サスケと無事に、帰ってきますから。約束する」

 サクラの心情は嘘のように静かになっていった。
 だが、同時にずきりと痛んだ胸を、サクラはぎゅっと押さえ付けた。

 「(なに......?)」

 その原因は自分でもわからなかった。そして、サクラはある一点に目を落としていた。

 トモエのすぐ下の地面。舗装されたそこが、不意に何かで滲んでいた。
 だが、それが何か、サクラが理解する前に。

 聞こえてきたトモエの声は、今までのどれよりも凛とした言葉だった。


 「行ってきます」


 一瞬で、トモエはその場から消えていた。

 「トモエ......?」

 呟いたサクラの声は、風に消えた。
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