彼の背中を見るのは、初めてだっただろうか。
そんなふうに思ってしまうほど、サスケはまるで変わってしまったのだと、トモエは今、思い知っていた。
「......待ってください」
サスケは確かに立ち止まった。だが、振り返ってはくれない。
二人を打ち付ける冷たい雨。埋まらない距離。違ってしまった。全てが最早、何もかも。
「キミは相変わらず冷めてますよね、何も言わずに出ていくなんて」
トモエは強がった小さな笑みを浮かべる。雨に打ち消されない声を張って。
だが、サスケの返事はない。何も言われない。帰れとも、何をしにきたとも、一言も。
それでもトモエは笑みを絶やさずーーー背後から、サスケの首にクナイをかけていた。
ぴくりとも動かないサスケへ、静かな声色で言う。
「隙がありすぎますよ。私が攻撃をしかけないと思ったらおおまちがーーーー」
しかし、全てを言い終わることはできなかった。サスケが唐突に動いたかと思うと、その手でクナイを持っているトモエの手首を捻り、トモエの首筋にあてていたのだ。
キリ、と小さな痛みが襲ったが、しかしトモエはそれほど動じることもなかった。その目はやっと向き直ったサスケの顔を見つめているだけ。
無表情で、サスケはぼそりと口を動かす。
「隙がありすぎるのはお前のほうだ......トモエ。お前じゃオレには敵わない」
まるで長い年月がいきなり過ぎ去ったかのように、サスケの声からは今まではあった幼さが抜けていた。
サスケの手はあっさり外れ、トモエもクナイをホルスターに戻す。
「......知ってる。そんなコト」
呟いたトモエの声は、雨に消え入りそうなものだった。トモエは自分の体に籠る熱をじりじりと感じていた。
「トモエ、俺と一緒に里を抜けよう」
「!!」
里を抜ける サスケと一緒に
それがどんなに重い言葉か、彼は分かっているのだろうか。
「お前も俺と同じ、イタチに肉親を殺された………なら、」
「言うな!!」
サスケの言葉を遮った、トモエの叫びが響いた。
そしていつの間にか彼女の肩は震え、聞きたくないとばかりに耳に手を当てている。
「…それ以上、言わないで…ッ」
サスケが彼女の泣き顔を見たのは、あの日以来二度目だった。父親が殺された次の日、病室で泣きじゃくるトモエに声をかけることができなかったサスケは、その泣き声を病室の外でただ聞いていただけだった。
思えば、あの日からだ
自分と彼女の間に見えない溝が生まれてしまったのは
彼女が自分を他人行儀で呼ぶようになったのは
彼女が自分から――離れていったのは。
「…お前は俺が嫌いなんだろ」
「ちが…ッ」
「“父親を殺した男の弟”、憎んで当然だ」
「そうじゃない…!」
「じゃあなんで離れてった!!」
今度はサスケの叫びが木霊した。
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