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女の子なら月に一度訪れる“それ”を、知らなかったわけじゃない。でも異性の交遊関係がない俺には、そういうものがあるぐらいにしか認識がなかったから、まさかこんなに大変なものとは思いもよらなかったんだ。
あの後、ユンギヒョンにこっぴどく叱られたらしいテヒョニヒョンがしゅんとした様子で戻ってきてから、練習終わりに医務室へとみんなで行くことになった。
医務室の白いベッドに横たわっているユリ、その背中をさすっているジンヒョンと傍にいるナムジュニヒョン。医務室といっても男7人が来たら流石に大所帯で、俺はヒョンたちの後ろの方で隙間から様子を覗くしかできない。
JM「ユリ、まだつらい?」
「いえ、薬をいただいてから大分楽になりました」
YG「いつも飲んでねぇのか?」
「普段はここまで酷くないので薬も飲んでなくて…時々あるんです、すみません…練習中に…」
TH「騒いじゃってごめんね、ユリ。ユンギヒョンから聞いた。女の子ってこういうのはデリケートだから大袈裟にされたくないんだよね、ごめんね本当」
「そんな、別にもう……うん、大丈夫です。自分が悪いだけなので」
TH「でも月一回の頻度なんでしょ?」
「あ、はい…まぁ…」
TH「じゃあまたなんかあったら、「オメーは全然わかってねぇじゃねーか」え、僕また何かした?!嘘!?なんでですかヒョン!?」
「何がいけないの!?」と言うテヒョニヒョンの、二度目の連行を静かに見送るメンバーたちだった。
JH「…普段平気ならいいんだけどさ、これからは万が一にも今日みたいな日があったら、直ぐに教えてね。別にメンバー全員にじゃなくて、誰か一人にでもいいからさ」
JN「言いづらかったらオッパに暗号でもいいよ、あ、何かポーズとか決めとく?」
JM「ポーズって何ですかヒョン。まぁ、でも本当、直ぐに言うんだよ?特にユリは顔に出さないからヒョンたち分かんないよ〜」
「はい…ありがとう、ホープさん、ジンさん、ジミンさん」
NM「キミは女の子一人だから、どうしても不便なことがあると思うけど、そういうのは遠慮なく言っていいからね。僕たちは同じグループじゃないか、助け合っていこうよ」
ヒョンたちは俺とは違った。
女の子に優しくするのは男として勿論立派だけど、その後ろで俺は彼女に何も言えなかった。多分、言おうと思えば何か口に出せたと思う。でも、嘘でもそれを言えるほど自分は大人じゃなかった。
ところが、ある出来事がきっかけで俺の意識に変化が起きたのだ。
***
それは事務所の方に用があったから偶然立ち寄っただけだった。
何処からかキュッキュッと床を滑る独特の音が聞こえてきた。それは事務所内でも一番小さなレッスン室からで。俺たちメンバーはその真反対にある大きなレッスン室をいつも使うから、殆ど意識したことのない場所だ。いつもなら気にも留めない自分だっただろうけど、何故かその時だけは違った。
その力強い音には聞き覚えがあったから。
そうしてチラッとレッスン室を覗いたら、白いTシャツを着て汗を垂れ流しているユリがいた。やっぱり。
必死に踊っている。その踊りは女よりも力強く、男よりも艶やかで、他の人は真似できない、ユリにしか見せられないもの。目を引くのは、もう才能なんだと思う。ちょっとVヒョンに似たものを感じる。所謂天才ってやつ。
とか思ってたら、レッスン室の隅の方にテヒョニヒョンが壁に寄りかかりながら座って携帯を弄っているのが見えた。二人がグループ内でも仲が良い方なのは知ってたし、ユリが唯一オッパ呼びするのも今のところテヒョニヒョンだけだから一緒にいるのは不思議じゃないけど。てか、あの人の方は何やってんだ。
「ユリ―、まだやってく?」
「オッパ、あの、自分に合わせてもらわなくてもいいですよ。自分は一人でも…」
「うーん?何か言った?」
「…いえ、何でもないです」
そのまま自分は打ち合わせとかいろいろ、別の部屋でやって。そろそろ頃合いになっているかと、またレッスン室を覗く。
「…まだやってんの」
もう雨を浴びた人みたいになっているくらい髪もビッシャビシャになって。必死に鏡を見て踊っている。
いつもこうやって練習していたんだろうか。天才だといわれる彼女、いつも冷めたように練習していた彼女の裏の姿。
「ヒョン」
「お、ジョングガ。打合せ終わり?」
レッスン室から出てきたヒョンに声をかけた。ヒョンは飲み物を取りに出ただけで、廊下に立っていた俺を見て特に驚いた様子はない。
「はい。あの、ユリっていつもこうやって練習してるんですか?」
「こうやって、って?」
「いや、こんな小さなとこで、こんな時間まで…」
「あー、うん、そうだよ。メンバーの誰かを誘うのは勇気が必要だからって。俺は勝手について行ってるだけ」
「そうなんですか…」
「女の子だからって足並みを揃えなくていい理由にはならないから、絶対に手は抜きたくないんだって。クールですっごくシャイなんだけど奥底にはびっくりするぐらい熱があってさ、それがあの原動力になってるんだよなぁ。尊敬するよ。
でも、時々オーバーワークしそうになってるから、見張っててあげるんだ。俺、それぐらいしかできないから。この間も、セイ……じゃなかった調子崩したときあったから心配だし。守ってあげなきゃね」
ヒョンが傍にいた理由はそれだったんだ。
いつものようにテヒョニヒョンがいひひって笑いながら話す内容は案外しっかりしてて。俺が感じたことのないユリをちゃんと見て感じていたんだって思って、なんだか置いて行かれた気がした。
本当は誰よりも努力家。いつも一人で練習しているのは自主練にすらメンバーを誘えない消極的な性格だから。そして、女だからって甘えたくはないという頑固な一面がある。それが彼女だったらしい。
そして、それを知って急に自分が恥ずかしくなった。先日、ユリが体調不良を起こしていたとき何も言えなかった自分を思い返すと。
知らなかったこととはいえ、実はこんなに裏で葛藤していた彼女がいたと分かれば、罪悪感が募っていく一方だ。ていうか体調不良なんて、誰にだって起こることなのに。何で俺、こんな簡単なことにも頭が回らなかったんだろう。