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ステージ終わりの帰り。
疲れてフラフラしながら皆について車に乗り込む。そのまま空いている席に座って、窓際に頭を預けた。
今日は横に動くときの足の向きが綺麗にできなかったし、腕をもう少し大きく上げられたと思うし、それに立ち位置が若干ずれてた気がする。
いつもこの瞬間、自分の今日の踊りが頭を過ってしまう。
あぁ、自分はまだまだだななんて思っていたとき、隣に重心がかかり、誰かが座った気配がして横眼を向けると其処にいたのは意外な人物だった。
「……今日さ、身体平気なの?」
「あ、はい…特には」
「そうなんだ」
まさかジョングクさんとまた隣の席になるとは。それどころか向こうから声をかけてくるなんて思わず、無駄に声を張ってしまった。
「あのさ、俺も…」
「?」
その声はか細く、自分以外のメンバーは別の話に盛り上がっていて聞こえていないようだった。ジョングクさんは顔を下に向けているから、本当に自分に話しかけてくれているか不安にも感じたけど。
「俺のことも…頼っていいから。一緒にがんばろ」
最後はちゃんと目を合わせて言ってくれて、初めて自分を見てくれているような気がした。
***
「ジョングクとなんかあったのか?」
ユンギさんから急に言われた言葉に頭がフリーズした。
今日は一日オフの日。自分はユンギさんに私用があったので、作業室の方に特別にお邪魔させてもらっていた。
ユンギさんは作業室にいるときは殆ど人を入れたがらないけど、自分は何故か特別に入り浸らせてもらっているのだ。パソコンから顔を離さないユンギさんの後ろで、自分はiPadを抱えながら動画を見る(極力邪魔にならないように)。
「お前ら急に仲良くなったよな」
「そう、ですか?」
「仲良くっつーか、オフでも話すようなったぐらいだけど」
それでも仕事の建前でしか話してなかったしな、と続けるユンギさんに私は特に言葉を返さなかった。
それもその筈で。最近、ジョングクさんが優しい、というかオフでも少しずつ声をかけてくれるようになった気がする。
否、彼はもともと優しい人なのだけれど。こんな自分にも優しくしてくれているから、戸惑っている。どうしたのだろう。自分のことは無関心だと思っていたし、実際の態度とかでそう感じていた。自分とジョングクさんにだけ距離があったし、彼がそうやって距離を置くならそのスペースを勝手に潰してはだめだと思ったから、自分も特にアクションを起こさなかった。
「何があったんですかね…」
「俺に聞くなよ。まぁ、あいつも少しは大人になったんだろ」
「大人?」
「内面的なとこ」
ユンギさんの言葉に疑問符を浮かべながら、再び画面に意識を向けた。画面には海外アーティストのライブが映し出されていて、ダンスや表情、歌い方などが見えてくる。オフの日でも、休みながら勉強することはできるからこういうことは欠かしたくない。そうしてユンギさんがマウスを動かす音や、口ずさんでる音をbgmにしてると、
コンコン、と扉が叩かれる音に意識が戻された。
「…あ?」
面倒くさそうに返事をするユンギさん。すると扉が遠慮がちに開けられ、現れたのはつい先ほど話題に上がっていたジョングクさん本人だった。
「ヒョン、すいませ……」
部屋に顔を出したジョングクさんと目が合い、お互い静止してしまった。すると用件を早く済ませてほしいユンギさんが催促し出した。
「なんか用か?」
「あ、さっきマネヒョンから連絡あって、ヒョンに携帯見るようにって」
「ん?やべ、着信あったのか。悪いな、ジョングガ」
知らない間に携帯をマナーモードにしていたユンギさんは、マネージャーさんからの着信に返事をするため小走りに部屋を出ていった。作業中は邪魔されたくないからと、基本マナーモードにして画面だけ見えるようにしているらしいけど、今日は近くに置いていなかったので気付かなかったようだ。
部屋の主がいなくなったことで自分もそろそろお暇しようかと、立ち上がったところで扉のところに未だジョングクさんがいたことに少し驚いた。まだ何かあるんだろうか。
「…ヒョンのとこにいたんだ」
「はい。…あ、自分にも何かありましたか?」
「いや、今日、宿舎で顔見なかったから…何処いるのかなって」
「すいません…何も言わず」
「ううん、俺が勝手に……、でもなんか意外だ、ヒョンってあんまり人を入れたがらないから」
「静かに気配を消していればそんなに嫌がられないですよ」
「器用だな。……ねぇ、何見てるの?」
ジョングクさんが自分の手にあるiPadを指さして言う。そのまま部屋に入ってきて、自然な流れのように隣へ腰かけた。こんなに近くでお互い座るのは車以外では初めてかもしれない。
「海外のアーティストさんのライブ特集です」
「ふぅん、いつもこういうの見てるんだ」
「このバックダンサーの人が凄いんですよ。足の回し方がとても迫力あって、」
「え、バックダンサー見てるの?」
「はい、勉強になりますから。特に全体で合わせて踊るって中々難しいじゃないですか。そういうのをこの人たちは一切のズレなく踊れてますし」
「でもユリも昔、アメリカでバックダンサーしてたんだよね?」
「まぁそうですね。まだ子供みたいものでしたけど。この人たち程じゃなかったと思います」
「そうなんだ……。そっちのイヤホン片方貸して」
「あ、どうぞ」
自分が使っていない片方のイヤホンをジョングクさんがつけることで、さらに距離が近くなってしまい、肩が当たらないようできるだけ身体の重心を反対に傾ける。
チラリと横目にジョングクさんを見ると、その視線は動画に集中していた。
一方自分の方は、二人だけの空間というのは初めてだったので、珍しく集中できなかったけど。