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それから暫くユリは感情が抜けた人形のような日々が続いていた。元々静かな彼女だけど、ぼーっとしたように一点を見つめて固まっているときはどうしようかと思った。声をかければ答えるけど、その声にさえ力がなかった。
事務所からはカウンセラーを勧められていたらしいけど、本人は頑なに大丈夫だ、の一点張りらしい。
ただそんな中でも俺が感心してしまったのは、カメラを向けられたときはちゃんと表情をつくっていたことだ。歌にダンス練習だって休まず、まるで“いつも通り”を必死に続けようとしているようにも見えた。
健気にも見えて、痛々しくも見える彼女の姿に、テヒョナは連日裏で泣いているらしく、リーダーのナムヒョンも責任を感じたとかで前よりメンバーをよく見るようになった。
俺たちの間でも、ユリが部屋で休んでいる間に彼女を除いたメンバーで話し合って決め事をしたのだ。
彼女が必死に“いつも通り”を演じているなら、俺たちもそれに合わせようと。変に気を遣ったり、必要以上に干渉しないようにしようと。
そして、あの事件はテレビのニュースにはならなかったけど、ネットニュースを通してファンや業界の間じゃ大きく知れ渡っていた。心配する声も多いらしく、これを機に事務所の方針として移動中の警備体制の見直しもさせられた。
そんなときにまた飛行機での移動となる時があった。あれからまだそんなに日が経っていないのに。ヒョンたちはユリが少しでも乗り気じゃなかったら、今回は中止にしようと考えていたらしいが、ユリは特に嫌な顔ひとつ見せず、いつも通りに仕事に向かう姿勢を見せていた。
でも、いざ飛行機から降りてホールの方に向かっていくと、ユリの足取りが重くなっていくような気がして。最初は前の方にいた筈が、いつの間にか前方にいるヒョンたち後方にいる俺とユリという形になっていた。
だから傍にいた俺は彼女の様子を横目に見ながら、意を決して、その白い手を取った。
手を握ったとき、ユリはビクッと肩を強張らせていたけど、直ぐに俺だと分かると灰色の瞳を見開かせながらも何も言わずこっちに顔を向けてくれた。
「傍にいるから、もう大丈夫だよ」
そう言って笑いかけたら、
灰色の瞳が少しだけ潤んで、
真っ白い手が優しく握り返してくれた。