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 その日のテヒョンは機嫌が良かった。可愛い妹メンバーが先日雑誌で見たのをきっかけに興味を示していたお店のカップケーキが手に入ったからだ。なんでもアメリカで大人気となった店が韓国に進出しきたそうで、アメリカ育ちのユリなら興味を持たない筈がなかった。
 それだけじゃない、お土産はもう一つある。この間アカデミー賞を受賞し世間を騒がせている大人気映画のDVD版が手に入ったのだ。いつか見たいね、と家でゆっくり見れるときを二人で楽しみにしていたのも覚えている。
 これならあの子も絶対喜んでくれるし、快く部屋に入れてくれるだろう、それでまた一緒に夜まで映画を見るんだ。

 と、数分前までのテヒョンは思っていた。

 「なんでジョングガがいるの?」
 
 しかしお目当ての部屋をノックすると、中にいたのは彼女と同じ末っ子メンバーのジョングクだった。しかもテヒョンがいつも座っている定位置に、ユリと色違いのクッションを下にして彼女の隣に。

 JK「一緒に映画見ようと思って」
 「オッパも見ますか?まだ始まったばかりですよ」
 TH「本当?じゃあ俺も、………って違うよ!!なんでジョングガがユリの部屋で、ユリと一緒に映画見てるの!?しかもその映画、俺も借りてきたやつなんだけど!被ってるじゃん!」
 JK「自分の部屋で見ればいいじゃないですか」
 TH「俺がユリと一緒に見たかったの!もう!」
 「落ち着いてください、オッパ。一緒に見れば問題ないですよ」
 TH「そうなんだけど…なんか考えてたのと違う…」
 「……オッパ、それって…」
 TH「あ、そう!そうなの!こっちもユリに!取り寄せてもらったんだ、ユリ食べたがってたでしょ?」
 「はい…っ、わざわざありがとうございます」

 こっちを見てくるジョングクを他所に盛り上がる二人。テヒョンがカップケーキの入った箱を床に置き、中から出てきたのはアメリカンらしいカラフルなカップケーキたちだ。今時の女の子たちがこぞって買うのは、この可愛らしい見た目もあるだろう。ユリも嬉しそうに色とりどりのケーキを見つめる。
 
 「ジョングクさんもどうですか?…あ、自分が勧めるのは変ですよね、買ってきてくださったのに」
 TH「いいよ。でも、ユリが先に選んで。ユリのために買ったから」
 「ありがとうございます。…どれにしようかな」
 TH「これがイチゴ味なんだって。色がピンクのやつ」
 「そうなんですか、それじゃあお言葉に甘えて」

 JK「イチゴ好きなの?」
 
 突然入ってきたジョングクの言葉に、ユリはカップケーキに伸ばそうとした手を止める。ジョングクの方は変なことを言ったつもりはないが、彼女が不自然に固まっていることが不思議だった。

 「あ、えっと…」
 JK「前にドーナツの差し入れがあったとき、イチゴ味の取ってなかったから好きじゃないのかなって……違った?」
 「その…」

 何故か罰が悪そうに視線を逸らし、言葉を濁らせるユリ。すると様子を見ていたテヒョンが間に入った。

 TH「いいじゃん。その時の好みとかってあるし」
 JK「ヒョンに聞いてないですけど」
 TH「最近お前生意気、反抗期?」
 JK「不思議に思ったから聞いただけです」

 どうしてこうなった、としか言えない険悪の空気。そんなふうに喧嘩腰に会話する二人の間に挟まれたユリは視線を泳がし、やがてジョングクの方に向き直った。

 「あの、本当はイチゴ好きです」
 JK「そうなんだ」
 「でも今は隠してて…」
 JK「隠すって、なんで?」

 「イメージ的に避けようかなと。勝手な偏見かもしれないですけど、女の子にとってイチゴ=可愛らしいものなんです。男性がそれを好んでも、男性なのに可愛い一面もあるって思われるぐらいですが、自分の場合、男装してても生物学的には女だから、できるだけ女性が好むようなものは避けてます。
ファンの子たちが望んでいるのはあくまで中性的な自分ですから」
 
 JK「……そんなに深く考えなくても、」
 TH「ユリにしたら大事なことなんだよ。男性グループに所属した女の子が、同じ女の子に夢を与えるって生半可にはできないから」

 ファンの女の子たちは“中性的な美貌を持つ少年”というイメージをユリに持っていて、ユリもそのイメージに従う。しかし男装をしていても女であることは避けられないので、本当の男性には適わない部分もある。だからこそ私生活から気を付けている。生真面目な彼女らしい考えだった。

 「こういう好みを知っているのはテテオッパだけで、…だから時々こっそり差し入れしてくれて…いつもありがとうございます」
 TH「俺、ユリのために何かするの大好きだもん」

 練習生時代から特別仲が良かった二人。秘密を知っているのも頷ける。

 JK「ふぅん…」
 TH「ジョングガ!他の人には言っちゃダメだぞ!知れ渡ったら、頑張ってるユリの努力が無駄になっちゃうから!」
 「大丈夫ですよオッパ。ジョングクさん、別にいいですからね、誰かに言っても」
 TH「ユリぃ!」
 JK「言わないよ。…その代わり、他にも教えて」
 「…はい?」

 JK「俺が知らない、ユリの好きなもの。そしたら俺もこっそり買ってくるから」

 にっこり笑って言うジョングクにユリはまたも固まってしまった。予想だにしていない返答だったからだ。そしてそれに反応していたのはテヒョンだけで。

 TH「…だ、ダメ!!俺だけ知ってればいいの!ジョングガはいいじゃん別に!」
 JK「むしろヒョンの方が心配ですよ。ポロっとばらしちゃいそう」
 TH「そんなヘマは一度もない!とにかくダメだから、俺の特権がなくなっちゃう!」
 JK「メンバーなんだから助け合うのは当然でしょ。俺だけ仲間外れですか?」
 TH「いやそうじゃないけどさぁ……ユリー!!」

 その後、三人でたくさん話をした。ユリだけじゃない、それぞれの趣味嗜好を話し合って、笑って、いつの間にか映画は最終章を迎えていた。

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