17

 土曜日。三人で某高級家電ショップにやってきて、早速商品を見渡し始めることにした。しかしここで問題発生。いや、問題ではないかもしれないけど。

 「お前ここ(2階)だろ。俺ら3階にいるから、買ったら1階のカフェ集合な」
 「あ、はい…」
 
 そうでした。俺はスピーカーを買いにきたので、ヒョンたちとは目的がちょっと違うんだった。ここの店は高級なものを取り扱っているためか、店内を贅沢に使っていて、階層ごとに置いてあるものが異なっていた。そしてヒョンとユリが買うヘッドホンと、俺が買うスピーカーは階層が違っていたのだ。

 ヒョンとユリが並んでエスカレーターで昇っていく。隣に並びあって。

 別に新しいスピーカーが欲しかったわけじゃない。ほんとはあの時いつの間にか出た口実だったのだ。とりあえずその辺の商品を見てみるけど、やっぱりさっきの二人の姿ばかりが頭に浮かんで集中できない。
 
 「…何しに来たんだろ、俺」
 
 その後とりあえずフロアを一周してみたけど、このまま目的もなくダラダラ時間を過ごすより、二人のところへ行って様子でも見てこようと思った。
  
 3階に上がって辺りを見回す。ヘッドホンが並んでいるコーナーに来たけど、何故か二人の姿が見当たらない。変だなと思って歩いて探していれば、見覚えのある後ろ姿。あの服はユンギヒョンだ。やっと見つけたと近づいていけば、ヒョンの直ぐ傍にユリもいた。
でも二人は肩と肩がくっついているぐらいに至近距離で。
顔だって、なんでそんなに近いの。
 
 「画質が凄い綺麗」
 「けどちょっと大きくないか?それに重い」
 「動画をよく見る人におすすめってところでしょうか」
 「俺は軽い方がいい」
 「ユンギさん、持ち歩けそうにないですもんね」
 「おい、生意気を言うのはこの口か?」
 「冗談ですよ」
 
 楽しそうに新作のスマートフォンを見ている二人。同じ画面を見ているからどうしたって距離は近くなるだろうけど、そんなに顔を寄せ合ってたら、なんか、

 ―――すごく嫌だ。

 JK「ヒョン、」
 YG「うお、ジョングガか。もう買ったのか?」
 JK「いえ、その、良いのがなかったので僕も一緒にこっちで見てようかなって」
 YG「なんだそりゃ。まぁいいんじゃないか、俺らもまだ見てないし」
 「すいません、自分がこっち(携帯)も見たいって言っちゃったから」
 YG「いいだろ他のを見たって、買い物なんだし」

 その後二人はようやくヘッドホンのコーナーで物色し始めたけど、やっぱり二人の距離が近いように感じてしまう。

 ユリはユンギヒョンの前だと冗談を言ったりするんだ、兄さんの前だと礼儀を体現したようなイメージなのに。それにヒョンも、普段はあんまり見られなさそうな優しい目で話してる気がする。 
 ヒョンの作業室に一緒にいるのを初めて見たときから、何となく感じてたけど、ユリがヒョンの中で一番心を開いてるのって実はユンギヒョンなんだろうな。
 テヒョニヒョンみたいに(無理やり)懐かせるのと違って、ヒョンは本当にユリの方から信頼している気がする。それで、きっとそれはヒョンも同じで。
 
 そうじゃなきゃ、作業室に人を入れたがらないヒョンが、ユリにだけは許可している理由が分からない。
 
 それにユリがヒョンを頼るのも分かる気がする。
 ユンギヒョンはグループで二番目に歳が上だけど、正直最年長より年上っぽい時があるし、人生何周してんだろうなっていうぐらい落ち着きがあって、大人ってこういう人を言うんだろうなって思った。特にうちのグループのメンバーは基本騒がしくて、その中でユリとユンギヒョンは静かな方だからよく一緒にいたのを見てきたし。(でもたまにユンギヒョンもテンション暴走するときがあるから、そういうときはユリひとりになってたけど。)

 「ユンギさん、これはどうですか?」
 「あー…それはやめとけ、あんまお勧めしない」
 「そうなんですか。……ユンギさんのそれは?」
 「これか?」

 ヒョンの試している商品を指さしたユリ。俺はちょっとだけ離れた場所で二人の様子を横目に伺っていると、ヒョンが自分の試していたヘッドホンを外してそのまま彼女の耳へと持っていったのが見えて、

 また二人の距離が近くなってるけど、それだけじゃなくて。さっきと違って、お互いの顔を真正面に向き合っているから視線が重なっているんだ。

 最初はユリも分かりやすいくらいに肩をビクつかせていたから、彼女なりに驚いてはいたんだろう。ヒョンはそんなユリが驚いた様子が面白かったのか、からかうように笑っていた。

ユリは普段から物静かに周りを傍観している人だ。
俺はそんな彼女の心を揺さぶるものは音楽性とかダンスみたいな表現力とかだけだと思っていた。
 だから、あの子のああいう表情を引き出せるユンギヒョンが、

 ただただ羨ましかった。

 
 「ヒョン、すいません、僕のも見てもらっていいですか」
 「あ?どんなのだ?」

 まるで口が勝手に動いたみたいに、いつの間にかヒョンを自分の方に呼んでいた。ヒョンは面倒くさそうに頭をかいてたけど、呼んだらちゃんと来てくれるあたり、やっぱり面倒見が良くてほんとに優しい。

 「全く、お前ならそんなに知らないわけじゃないだろ」
 「いや、でも、なんかヒョンの意見も聞きたくなったから」
 「そんな頼られてもな」

 それなのに嘘ばっかり言ってしまう自分が恥ずかしくて堪らなかった。

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