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その日はいつものように仕事の予定があった筈。なのに俺は珍しく寝坊をしてしまって、起きたときには完全遅刻の時間だった。いつもなら誰かしら起こしに来てくれるのに、それもなかったなんてヒョン達も寝坊したのかなんて考える余裕もなく、とりあえず着替えてリビングに走っていった。
すると何故かそこにいたのは確か俺と同じく、予定がある筈のユリがいて、テーブルを布巾で拭いていた途中だったみたいだ。え、どゆこと。
「あ、おはようございます」
「………おはよう」
「今日、ジョングクさんもオフになったそうです。今朝がた、マネージャーさんから連絡ありました。他の皆さんは変わらずそれぞれ仕事があるみたいでしたけど」
その間もユリはテーブルを拭いていて、先ほどまでヒョン達がそこでご飯を食べていたことが伺える。俺も、って言ってたからきっとユリも急遽オフになった組なんだろう。
「ぐっすり寝ていたようなので…すみません、起こしませんでした」
「…いや、…別に…そっか……オフだったんだ…」
「朝ごはん食べますか?」
「え…あ……うん、ありがと…」
起きて直ぐだったから頭の回転がうまくいかない。俺がしどろもどろに返答していても、ユリはてきぱき動いて、何も言わず俺の前に温めた朝食を持ってきてくれた。折角の貴重なオフなんだから、自分の好きなことをすればいいのに、自分じゃない誰かのために動くのは彼女らしかった。
実家の母親のような感じ。でも母と違ってユリは静かだ。
俺がもそもそとご飯を食べている間も、何かを持って行ったり来たりしてるけど、足音も静かで忙しなくない。実家だったら、さっさとご飯食べてとか、何かに追われるようにバタバタとスリッパを鳴らす母に朝からうんざりしていたかもしれない。
まるで寝起きの俺に気を遣ってくれているようで、俺はいつの間にか、そんな彼女の様子をじっと目で追ってしまっていた。
朝食を食べ終わってから、とりあえず突然の休日をどうしようかなと考えていれば、やっぱり目につくのはユリの姿だった。
「ユリ」
「?」
「…今日、なにするの?」
「午前中はトレーニング、午後は掃除ですかね」
そう言いながらも手には籠に入った洗濯ものたち。自主練に行く前に洗濯だけはやっておくらしい。それだけじゃない。さっきは皆の食器を洗ってたし、リビング内に無造作に置かれたヒョン達の私物をまとめていたし。どうしても男所帯だから散らかりがちだけど、こういうのをささっと片づけられる子がいるおかげで、ここはなんとか成り立っていると思う。
しかもユリの場合、そういうのを知らないうちにやっているって最近気づいた。俺も使ったものをそのままにしておいて元の場所に戻さなかったとき、次に使うときは元の場所にちゃんと置いてあったから当たり前のように、疑問にも思わず使ってたけど、今考えればユリがさり気なく元に戻してくれていたおかげだ。ユリを目で追うようになって、やっとそれに気づけたんだけど。
本当にユリは私生活での自己主張がない。控えめっていうか謙虚っていうか。
片付けもヒョンたちにちゃんと言えばいいのに、それか気を付けるように言うとか、何も言わないからあの人たち学習しないよ絶対。
ていうかあの服って…
「ねぇ、その洗濯もの…もしかしてテヒョニヒョンの?」
「昨日回せなかったみたいで、できたらやっておいてって…――「俺がやる」
ユリから洗濯籠をぶんどった。なんで女の子に男物の洗濯を干させるんだよ、家族ならまだしも。しかもやっぱり、ほら。
「……パンツあるじゃねーかよ」
当たり前だけど中には下着だってある。洗濯したとしてもコレをユリに触れさせるのはなんか癪に障った。
「あの、私やっておきますけど…」
「いいから。これはダメ。ユリは自分のやってて」
「…はい」
ちょっとだけ強めの言い方になっちゃったけど、寝起きのせいで頭がちゃんと働かないんだ。ごめん。
さっきからムシャクシャする自分が上手に制御できなくて、とりあえずヒョンへの当てつけに洗濯ものは皺とか伸ばさず適当に干しておいた。
それからユリは自分のことをやってからトレーニングに向かったから、午前中は俺もジムに行くことにした。宿舎に帰ってくるのは午後になってからになるだろうし、お昼はケータリングでもしようかなと思ってた。ユリから連絡がくるまでは。
【午後、宿舎に戻りますか?】
【うん。1時過ぎにはなると思うけど】
【お昼作るんですけど、もし良かったら食べていかれますか?】
「え!!」
ジムの休憩中、スマホを片手にでかい声を出した俺にトレーナーさんは驚いていたけど、そんなこと今はどうでもよくて、とりあえず急いで返信を送る。
【食べる!】
【簡単なものになっちゃうと思いますけど】
【なんでもいい!すごいお腹空いてるから!】
【分かりました】
「うぉおおおお!!」
「い、いいぞジョングク!なんか知らんが嬉しいことあったんだな!?」
その後のトレーニングはいつも以上にやる気が出て、トレーナーさんにも褒められました。