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「ただいま…っ!」
「え、おかえり、なさい」
いつもよりトレーニングを頑張ったことで予定より大分早く宿舎に戻ってこれた。そのせいかな、リビングへの扉を思いきり開けたとき、キッチンに立つユリが驚いたように固まっていた。
「…早いですね」
「うん。トレーナーさんが“今日はよく頑張った。もういいぞ”って」
「そうだったんですか……あの、実はまだご飯できてなくて…」
「全然大丈夫。俺が早かっただけだしね」
キッチンの方に向かえば、均等に切られた材料たちに計量された調味料、でもユリがやると散らかってない。ヒョンたちが何か作ろうとすると、爆発でもあったんじゃないかっていうぐらいの惨事なのに。
「実は今日、良くしてくれてるスタッフさんから、お野菜頂いたんです。ご実家の方から送られてきたものでたくさんあるからお裾分けって」
「へぇー、その人ってユリが前に話してた事務の人?」
「はい。それで折角だから今日は材料を使わせてもらおうかなって」
ユリが言う“良くしてくれているスタッフさん”とは、会社で事務を担当しているおばさんのことだ。多分、俺らの母親と同年代くらいの人で、先日ユリは偶然にもその人と話が合ったみたいだ。それ以降は会社で時々会話をする仲らしい。
にしても、女子なら同年代の子と化粧品とか恋愛とかの女子トーク的なことをしそうなのに、おばさんと料理や趣味の話で盛り上がるってところがユリならではだろうなぁ。
「でも一人分作るのは意外と難しいから、それでジョングクさんならいっぱい食べそうだし、あ……すいません、誘った動機が不純でした」
「なんで謝んの。こっちは寧ろ作ってくれてほんと良かったよ、お昼どうしようかなって考えてたし、ケータリングとかより健康的じゃん」
「そう言ってもらったほうがありがたいです。あとはこれを入れて炒めるだけなので、座ってて貰って大丈夫ですよ」
「俺もなんか手伝う。って言っても、洗い物ぐらいしかできないんだけどね」
とりあえずシンクに入っていたお皿やまな板を洗うことにした。ユリは絶対、休んでてください、とか言いそうだから有無を言わせる前にささっと動いて洗い物をする。
「何作ってくれてるの?」
「プルコギです」
「やば、めっちゃ旨そう。おかわりできる?」
「そう思ってちょっと多めに作ってありますよ」
「やった」
慣れた手つきで料理をするユリ。子供の頃に家政婦さんに料理を教わったって言ってたし、昔からの経験値によるものだなこれは。
それに別段凄い料理を作ってくれてるわけじゃない。ていうか付き合う彼女が作ってくれるなら、無理に凝ったものより、こういう素朴で家庭的な料理の方が俺は好きだ。出来あいのものでササっと作れるとか、お腹空いて家帰ったらこういう奥さんいたら最高かも。
あー、テヒョニヒョンの言ってたこと分かるかもな。くそ、分かりたくないのに分かってしまうのがちょっとムカつく。
―――……あれ?ていうか俺、さっきからなんか変なこと考えてない?
「…さん、ジョングクさん」
「え?」
「すいません、そこのお皿取ってもらってもいいですか?」
「あ、お皿?はい」
「ありがとうございます」
考え事をし過ぎて反応に遅れてしまった。結局、自分の考えていたことはよく分からず、横を見ればいつの間にかユリの手にはご飯と一緒に乗ったプルコギが。そこにサラダも添えられてあって、どうやらワンプレート式みたいだ。
そしてユリのプルコギは予想通りめっちゃ美味しかった。余計な味がしないっていうか、実家の母親の味とはまた違うのに懐かしさがあるっていうか、とにかくおかわりできる美味しさには違いない。
今までもユリの手料理を食べたことは何度かあるけど、ヒョンたちのいない宿舎で、こうやって二人だけで顔を合わせて食べるのは初めてだ。
多分、今までの俺だったらユリと二人きりでご飯を食べるなんて気まずくて、さっさと食べて自室に戻ってただろう。でも今は二人きりでも落ち着く。騒がしいヒョンたちもそれもそれで楽しい、一方でユリは静かで同い年だからそんなに気を遣わなくていいから自然体でいられるし。沈黙になるときもあるけど、お互い全く平気になってきた。なんていうか、ユリといると心が安らぐんだよな。
一般人とはいえない非日常を過ごすことの多い自分。正直ストレスも溜まりやすい。でも、彼女と一緒に時間を過ごす時間が最近は一番のメンタルケアになってる気がする。