25
午後は二人で宿舎の掃除と干しておいた洗濯ものを取り込んだ。ユリは自分がやると言って最初は俺に掃除機すら持たせようとしなかったけど、俺も絶対に引かなかった。俺の方が仕事忙しいからとか、疲れを取ってとか、そんなの関係ないでしょ。一緒に使ってる宿舎なんだから、ユリだけにやらせるのは違うじゃん。
「ユリー、布巾ってタオルと一緒の場所に入れとけばいい?」
「二枚ほどキッチンの引き出しにもお願いします」
「掃除機向こうまで届かない…」
「ここのコードをそっちのコンセントにさして使えば大丈夫ですよ」
「この雑誌って誰の?」
「多分、ジンさんだと思います」
「待って、同じ下着二枚あるんだけど」
「こっちがテテオッパで、こっちはナムジュンさんかな…。二人とも同じ籠に入れちゃったのかもしれないですね」
「…………」
「………ねぇ、」
「?」
「残りはヒョンたちにやらせようよ、うん、それがいいよ」
まるでこの家で知らないことは何もない、っていうぐらいに把握しているのは素直に凄い。でもさ、日々のトレーニングと仕事の過密スケジュールの合間を縫って、家の世話までなんて。家事してくれてるのは有難いけど、きみは家政婦じゃないんだから、全部をこなす必要ないじゃん。
「でも、仕事で疲れて―――「甘えさせちゃダメだって。ユリだって忙しいんだから、もっとハッキリ言わないと。ていうか今更だけど何であの人たちユリに洗濯もの任せてんの?恥じらいとかないわけ?」
「うぅん…と、でも、やっぱり年上だし…ジョングクさんならまだしも、目上の人にものを言うのは勇気がいるというか…。
……あ、ジョングクさんならっていうのは、生意気言いたいわけじゃなくて…えっと、同い年だし、頼りになるから…それで…」
「………」
「あの…?」
「……よし、片付けようじゃないか」
しょうがないなぁ。ヒョンたちの私服も黄金マンネの俺が畳んであげるよ。
だって俺はヒョンたちと違ってね、“頼りになる”男らしいからね。
私物だってとりあえずこの辺置いておいてあげようかな。今日の俺はすこぶる機嫌がいいからさ。
「ジョングクさん、さすがにコンロの上に置くのは危ない気が…」
夕方、仕事からヒョン達が一斉に帰宅してきた。さっきまで静かだった宿舎が五月蠅くなっていくのを見ると、やっぱりうちの騒がしさってヒョン達がいてこそなのかって思う。
「お?もしかして掃除してくれた?」
「はい。僕とユリでやったんですよ」
「おー偉いじゃんジョングガ〜!」
「ヒョンたちも普段からもっと片付けて下さい!いつもユリがやってくれてるんですよ!」
「いやあ、申し訳ないとは思ってるんだけど、つい甘えちゃってさ」
「おい、どいてくれ。俺は早くソファにいきたいんだ」
「ヒョン………いつにもまして年寄り感が…」
「ジョングクくーん?」
俺とホソギヒョンの間をふらふらした足取りで通っていたユンギヒョン。その疲弊し切った後ろ姿に思わず本音を言ってしまったらホソギヒョンに叱られた。
ユンギヒョンはその足取りでソファにたどり着けば、どこから出る声なのか分からないけど、何かを叫びながらソファに身を投げ出した。
「こらーユンギ、そんなとこいたらまた眠っちゃうぞ。寝るならベッドいきなさいって」
「その前にシャワー浴びた方がよくないですか?」
「……もう何もしたくないんだよ…動けん…」
仕事で相当疲れたらしいヒョン。時々こうやってどっと疲れがくるらしいけど、今日がその日らしい。ジンヒョンたちに色々言われてももう動ける気力はないみたいで、電気の光でさえ眩しいらしく、かろうじて目元を腕で隠しながら横になっている。
そんなヒョンの元に寄っていったのがユリだった。手にはストローのささったコーヒーカップ。ユンギヒョン愛用のものだ。
「ユンギさん、アメリカーノです」
「おぉー…すまん」
「枕とってきますか?」
「頼むわー…」
それからユリはヒョンの部屋から毛布と枕を持ってきて、毛布をヒョンの上にかけ、枕をヒョンの頭の下に持ってきて……え、なにこの一連の流れ?なんか当たり前みたいにユリは動いてたけど、俺は一体何を見せられているの?
さらにユンギヒョンはちまちま飲んでいたアメリカーノを傍にあったテーブルに置こうと手を伸ばすけど、あとちょっと身体を動かさないと届かない位置で、ヒョンはそんな面倒くさいことすらしたくないみたいだった。するとすかさずユリがヒョンからカップを受け取ってテーブルに置いた。しかも今度はちゃんとヒョンからでも手が届く位置にテーブルをずらしてたし。
「相変わらずだなぁこの光景」
「こうして見てると老人と介護士ですもん。ユリも慣れたものだなぁ」
その光景をヒョンたちはまるで日常の一コマみたいに笑ってたけど、正直俺は暫く放心状態が続いていた。ユリが誰かのために動いている姿は今日だっていっぱい見てたけど、こうやって直接その人のためだけに動いている姿には、疑問のような、苛立ちのような、今まで彼女に抱いたことのない感情が出てきた。
「…ユリぃ……」
「はい。何か取ってきますか?」
「……結婚しようかぁ…」
「……え?」
「そんで俺の世話を頼むわー……それがいいわ……」
ぼそぼそと小さな声で喋っていたユンギヒョンの言葉は、その時だけ何故かリビング内によく響いた。
―――え、ていうかこのひと………今なんて…、
「ヒャハハハッ、どんなプロポーズだよ?!全然かっこよくないし!」
「世話って動物じゃないんだから」
「だめです!ヒョン!ユリは俺と結婚するんですから!ね?ユリ!」
「そ…そうでしたっけ?」
「この間言ってたじゃん!忘れたの!?」
「すいません、いつの話ですかね。あと現実的に考えて結婚は無理だと思うんですけど…」
「……ユリに遊ばれたぁああ!ジミナァアア!」
「え?そういうわけじゃ…っ」
「テヒョナ、それは普通女の台詞じゃないのかー?テヒョナー?」
「いやーそうかーユリも大人になったってもんだね。兄さんは嬉しいよぉ」
ヒョンたちが楽しそうにユリをからかっていて、それに対しユリは真ん中で一生懸命弁解をし始めて、その横でテヒョニヒョンを慰めるジミニヒョンがいて、ソファには完全に寝落ちしたユンギヒョン。いつもならそこに俺も交ざって皆とバカ騒ぎしてた筈なのに、俺だけはひとり背を向けて自室に戻った。
そしてその日一日、俺の頭の中は、
ユンギヒョンの言葉で頬を赤らめていたユリの表情がずっと浮かんで、離れようとはしなかった。