番外編:ハロウィン
番外編:ハロウィーン
今日収録するダンス動画はハロウィンバージョンで撮ることが決まっていた。メンバーがそれぞれの仮装をして踊るもので、過去にも数回行われている。最近は色々な趣向の仮装をしているけど、確か最初の時はお化けとか映画の悪役とか、ハロウィーンにちなんだ仮装が選ばれていたのだ。
そして、
「ユリはジョーカー役の俺を一番気に入ってたよねー」
「違いますよ、僕のウサギの着ぐるみが一番に決まってるでしょ」
「そんなわけないしっ、あの時のユリは俺をキラキラした目で見てたもんね!」
「ハッ、そんなん言ったら僕なんて抱き着かれてますけど!?」
どっちの仮装がユリに気に入られたかで揉める二人の光景は、もう恒例になってきていた。
事の発端は、僕たちが初めてハロウィーンバージョンの収録をした日からだった。
***
「…っ、テテオッパ…!」
TH「んー?」
「か…かっこいいですね…っ」
TH「、んが…ッ!?」
メイクを施されていたテヒョンは、まさかユリからそんなストレートに言葉を貰うとは思わず、驚きのあまり豚鼻が鳴ってしまったらしい。
「ジョーカーとっても似合ってます」
TH「ほんと?!」
「はい。こんなに似合うのテテオッパだけですよ」
TH「いひひ、照れちゃうな〜」
ユリはクリスマスの次にハロウィンが大好きだ。あとは同じぐらいイースターも大好きだとか。子供の頃は近所の子たちと仮装をしてお家を練り歩いてはトリックオアトリートをしていたらしいし、昔からの馴染みある行事なのだろう。
そんなわけでいつもより楽しそうに仕事をするユリが見つけたのは、アメリカ映画で有名なジョーカーに変身したテヒョン。
ユリに褒められて上機嫌になったテヒョンはすっかり役になり切って色々なポーズを見せてあげている。
「お写真撮ってもいいですか?」
TH「いいよ〜好きなだけ撮りな」
そしていつの間にか始まったユリによるテヒョン撮影会。ユリがスマホのカメラでシャッターを押す度に、どっから出てくるんだソレはという感じでテヒョンがモデルさながらのポーズを決めていった。こんな風に誰かを夢中に撮るユリの姿は中々見られないから、テヒョンもつい嬉しくなっちゃったんだろうな。
しかし、そこにやってきたのは―――
「わ…っ、びっくりした」
TH「ちょっとー邪魔しないでよジョングガ」
JK「………」
真っ白な顔に目元と口が黒で塗られた、まさに“死神”の格好をしたジョングクがユリの持つスマホに顔を近づけて現れたのだ。そこに立っているだけでも絵になるが、無言で立たれるといっそ恐怖にも感じる仕上がりとなっている。
JK「ユリ、何してんの…」
「テヒョンオッパのジョーカーが格好良かったので、写真を撮らせて貰っていたんです」
TH「そういうことだから、ほらどいてよ」
JK「え?嫌ですけど?」
TH「あ?」
それからもジョングクがユリの前から動こうとせず、「どいて!」「やです」というテヒョンとジョングクのどうでもいい攻防が続き、結局、ユリがジョングクの写真も撮るということで決着はついたのであった。
一方でユリはキョンシーへと変身。アイドルなので顔は隠せないということで、お札の位置は正面より横にして目元が見えるようにしているが、中国の伝統衣装に身を包んだユリ。すると、そんな彼女をここぞとばかりに連写する人が一人。
JM「…ジョングギ」
JK「……」
JM「撮るのが好きなのは分かるけどさ、…無言で連写してると逆に怖いよ」
JK「うっわ、マジ可愛い………」
JM「聞いちゃおらんのか」
スタイリストに衣装を整えて貰っているユリの近くで、スマホを両手で構えたジョングクが周囲を回りながらひたすら彼女の姿を写真に収めていたのだ。それも無言で。かなり集中しているせいか、もはや専属カメラマンのようにも見えてくる。
当のユリは気付いていないのか、寧ろいつも近くにいるジョングクを疑問にも思わないのか、動揺することなく為すがままだ。
JK「ハロウィンって最高ですね、ヒョン」
JM「そう?良かったじゃん」
JK「はい。だってこんな可愛いユリが見れるなんて……次は一眼持ってこよう」
JM「…なんかお前だけ趣旨違ってない?」
JK「でも次は俺のだけ気に入って欲しいな」
そんなジョングクの願いが叶うのも、そう遠くない話となる。
***
JN「お〜!ユリ、それ恐竜?」
RM「着ぐるみパジャマかぁ。いいなぁ、身軽で」
JN「僕の馬みたいにもっと派手にすればいいのに」
SG「ヒョンのはいっそ邪魔ですよね」
JN「いいじゃん。ワールドワイド級で」
またある日のハロウィンバージョンの撮影の日。兄さんたちに感想を述べられているなか、ユリの視線は一つに絞られていた。
TH「ジョングクの衣装はおっきいな〜」
JK「でもこれ頭動かしにくいです」
JM「僕のと互角にやり合えそう。ていうか僕のって白菜?ネギ?…一体どっちなんだ」
「………(じー…っ)」
JH「おーい、ユリちゃん?どこ見てんの?」
JN「こ、これは…!」
JH「なんなんですか…っ、ヒョン!」
JN「っ…間違いない…、ユリのこの生まれたての赤ちゃんみたいにキラキラした目は……世界一有名な遊園地にいらっしゃる、あのネズミの王様に会ったときの目と同じだ!」
SG「は?」
RM「あー!そういえばトウキョウに行ったときに遊びに行きましたね〜。あの時のユリは本当、小っちゃい子みたいで可愛かったなぁ…」
JN「“あっちでお写真撮るんですよ”って張り切る姿がなんとも言えなかったよ」
JH「確かに〜、ぬいぐるみ真剣に選んでたもんねぇ」
SG「で、ユリは結局なに見てんの?…え、俺だけ?話進んでるの」
そして撮影が一括りついたところで、ユリが何をそんなに見つめていたのかようやく判明したのである。
「ジョ、ジョングクさん…っ」
JK「は、はい!」
「………抱きしめても、良いですか?」
JK「………はい?」
至って真面目な顔をしたユリと、その真正面で口をぽかんと開けたまま硬直しているジョングク。暫くお互いにそのままの姿勢だったため、二人の間にだけ時間が止まっているかのようでもあった。
JK「よ………喜んで!!」
「ありがとうございますっ」
初め、ジョングクは完全に思考がフリーズしていたが、目の前の愛しい子が抱き着いてくれるなんて(大変美味しい)状況に、もはや頭なんて回らなかったのだ。
そして最終的に腕をこれでもかと大胆に広げたことで、華奢な彼女がぎゅっと自分の方へ身体を密着してきたのである。ジョングクの表情は管理できないほど緩み切っていた。
「…モ、モフモフだ……真ん丸くて…可愛い」
JK「はぐぅ…ッ」
いつかのハロウィンの時はテヒョンにべったりだったユリが、今は自分の方へ関心を向けてくれている。
天国とはここですか!?―――と、心の中で叫ぶジョングクであった。
ふわふわとしていたり、モフモフしていたり、フォルムが丸まっているもの、素朴で可愛いもの、それがユリの好みでもあった。
普段からスカートよりパンツ、ピンクより白や黒など、可愛いよりクールな印象を持たせる彼女からはあまり結びつかないことかもしれないが、それは本人の部屋を見れば分かることかもしれない。
特別女子らしい部屋というわけではないが、シンプルな中に一点だけちょこんと可愛らしいぬいぐるみがあったり、アクセントで淡い色を置いていたりと。ほんの小さい部分ではあるけれど確かに女性らしさを感じさせる部屋で、寧ろジョングクは“ザ・女子”という部屋より、ユリの部屋の方が居心地が良くて好きなのだ。
…多少脱線してしまったが、今のジョングクが着ているウサギのぬいぐるみの仮装を大変お気に召したらしいユリは、某ネズミの王様に会ったときのような嬉しさを前面に出している。普段はあまりお目にかかれない表情に、ジョングクは下心さえ出てきそうになっていた。
しかし、至福の時間を過ごしていたジョングクに悪魔の囁きが。
スタッフ「ジョングクさーん。そろそろ着替えてくださいね」
JK「嫌です!!」
スタッフ「何故に」
JN「こーら。スタッフさんが片付けできないでしょうが」
NM「残っているのはあとお前たちだけだよ」
JK「嫌ったら嫌です!見てください!ユリがこんなにも僕を求めています!」
YG「いやドヤ顔のとこ悪いけど、今はお前ががっちりホールドしてるように見える」
TH「いい加減離れてよ。ていうかジョングギばっかりずるい」
JK「ハンッ、テヒョンイヒョン、どの口がそれを言いますか。前にハロウィンやったときはテヒョンイヒョンの方がユリに気に入られていたでしょ!僕まだ根に持ってますからね!」
TH「あ…根に持ってたんだ」
JM「いいから着替えなよって!」
JK「絶対に着替えません!僕は一日これを着るんです!」
JN「え、逃げた」
YG「でかいわりに俊敏だな」
――その後、スタッフの賢明な捜索により、華奢な恐竜を誘拐した巨大ウサギは無事捕獲されました。ご協力ありがとうございました。
