待つ間
結局私はその日、部活に行ってしまった熊崎くんに弁解もできなかった。これは完全に嫌われましたな。まぁ好かれようと嫌われようとどうでもいいのだが、彼の場合、明らかに態度に出てしまうので、佐々木さんのように他のクラスメイトに無駄に気を使わせる場面が出てしまうかもしれない。それは避けたかった。つまりこの面倒くさい状況を早めに何とかするしかないのだ。
一先ず私は今日中に片付けようと思った。こういうのは後を引くほどより面倒さが増すのだ。しかし彼はもう部活に行ってしまったため、仕方ないので私は部活が終わる時間まで何処かで時間を潰すしかない。
そこで考えた結果、図書委員らしく図書室で時間を過ごすことにした。教室は放課後になった途端、基本的に使用禁止になるので(吹奏楽部が使ったりするから)、他に行く場所もなかったし。
つい先刻まで委員会で使用していた図書室は、放課後になるとさっきとは全く違う姿を見せる。当番らしい図書委員の女の子が一人いるだけで、他に生徒は見当たらない。当番の生徒も委員が使える奥の司書室にいるから、実質、図書室はもぬけの殻だ。
私は図書室の奥にある机を使い、今日出された課題を終わらせることにした。この席なら校庭がよく見えるから。
基本的に出された課題は休み時間に終わらせたり、授業中に出されたものなら残り時間を使って取り組んでいい時があるのでその間に終わらせたりしている。しかし中にはそれだけで終わらないものもあるので、できるだけ手早く終わらせるようにしている。
それから30分ほどで課題も終わったので、それからは常備しているノートパソコンで仕事に取り組んだ。私だけは諸事情もあって先生の許可を貰い、パソコンの所持ができるようにしてもらっている。今まで学校で使用したことはなかったが、学校帰りに直接契約相手に会いに行くともあるし、基本学校が終わればすぐ取り組めるよう毎日所持はしていた。
アメリカにいた頃より仕事は減ったが、今の自分でもできる仕事を選んだ結果だ。メールに返信したり、送信された資料を読んで添削したり、やることは案外多い。忙しい時は家にも帰らず深夜まで作業してしまっているときもある。
何しに日本に帰ってきたんだと母に怒られたこともあるが、それでもこれは私の性格上やめられないものなのかもしれない。やりがいを感じてしまうと自分でも驚くほど没頭してしまう。
そして気付けば時間は一時間以上過ぎていて、慌てて校庭に目をやれば、ちょうどサッカー部が片付けをし始めた様子が見えた。私はノートパソコンを閉じて、とりあえず図書室を出ることにした。司書室にはまだ明かりがあったので、鍵は閉めなくても良さそうだった。
校舎を出てから、校庭の出入り口にあるポールに腰かけた。外は気温がグッと下がっていて、防寒着などを一切持っていない私には極寒にも近かった。
それから少しして運動部の生徒たちが一斉に帰宅し始め出した。帰宅時間はどこの部活も同じだ。校舎に人が残らないよう半ば追い出されているようにも見える。そんななかポールに腰かけて明らかに人を待っている様子の私を、すれ違う生徒たちはじろじろと見てきて、居心地が悪いにも程がある。
そしてようやく、私の目的としている人物がこちらへ歩いてくるのが見えた。彼は同じサッカー部の部員と一緒で、おそらく帰る方向が一緒のメンバーなのだろう。中には私の幼馴染もいた。そのため私も熊崎くんと帰る方向は同じ。
だから私も一緒に帰りながらついでに謝罪すれば、事は解決すると思っていた。しかし、安易に考えすぎた計画だったために早速綻びは生じてしまったのである。
「よぉ、静。誰か待ってんの?」
「…まぁそんなところだね」
「え、もしかして俺のこと待っててくれた?帰る方向一緒だよな?」
「ごめん、違うんだ」
「まじかーフラれちゃったわ俺」
隣の席の松田くんがいつものように飄々とした態度で声をかけてきた。陸上部の彼が校庭から同じ時間に出てくるなんて普通に考えれば思いつくことなのに、否、松田くんが声をかけてくると思わなかったのだ。いやいや、でも松田くんだしな。
松田くんの周りにいる友達と思われる生徒たちが面白そうに見てくる。お前たちじゃない。私が今、用があるのは、
「…っ、考紀くん」
「え、何、びっくりした」
何故か幼馴染の腕を掴んでしまった。というのも目的の相手が松田くんと話している間に、スタスタと私の横を通り過ぎてしまったからだ。そこで咄嗟に、彼と時間差で通り過ぎた考紀くんを頼るしかなかったのである。
考紀くんを呼び止めたことで、考紀くんの近くにいたサッカー部の人たちも驚いて足を止めていた。若干の視線を感じるが、ええい、ままよ。
「一緒に……帰ってもいいですか」
「は?まぁ…別にいいけど…」
「考紀〜、俺ら先行ってるわ」
「いや、すみません……あの、皆さんに混ざって帰ってもいいでしょうか?」
もっとこじらせてしまったのは完全に自分のせいだろう。