性格悪いのはどっちだ

 「静ちゃんとあんま仲良くすんのやめてよね」

 その日の放課後、早速、山瀬麻有さんが私のことを話しているのを偶然にも耳にしてしまった。そもそも何故、私が放課後にまで学校に残っていたか、話を遡るとこうだ。
 
 私が転入してくる前、体育の授業で体力テストを測っていたらしく、しかもそれが今学期の評価に必要なものだそうで、私は急遽、体力テストで最低限必要な項目を測定することになった。体育の授業中、先生が時間を作って直々に測定してくれたのだが、できなかった分もあったのでそれを放課後に回してもらえないかと言われたのだ。別に急ぎの用事もなかったので二つ返事で了承し、放課後に少しだけ時間を割いて学校に残った次第。

 そうして測定をさっさと終わらせて、教室のロッカーに置いてきた制服に着替えようと戻ってきたのだが、ドア越しに伝わってきた人の気配に思わず立ち止まってしまったのだ。
そして聞こえてきたのが冒頭にあった通り、麻有さんの言葉。

 「はあ?なんでよ?」
 「いいから。てか考えれば分かるだろ、馬鹿」
 「なにが?え、なんで急に馬鹿呼ばわりされた?」
 「亮介のそういうとこ、マジで腹立つわー」

 言葉だけ並べていたら喧嘩しているようにも見えるが、笑い声を交えているからあくまで冗談で言い合っているらしい。ていうか麻有さんが話しかけていたのは、やはりというか、あの松田亮介くんだった。
 どうやら教室にいるのはこの二人だけのよう。にしても入りづらい場面に遭遇してしまったな。幸い隣のクラスにも人はいないし、廊下に人影もない。仕方なく私は教室の壁に寄りかかって、入れそうな雰囲気になるまで待つことにした。
 
 私と仲良くするなと釘をさす麻有さんと、それを不思議に思う松田くん。やはり私のことは気に入らないようだが、それを松田くんにまで強要してくるとは。あの子らしい行動だ。

 「俺、静のこと好きなんだけど」
 「知ってる。でもさ日向のことちょっとは考えてみなよ。可哀そうじゃん」
 「だから俺、友達としてか考えられないって」
 「まだ亮介のこと好きなんだよ?あの子。なのにお前が静ちゃん好きになるから、ほんと可哀そすぎる」
 「んなの俺に言われたってしょうがないじゃん」
 「だから仲良くするなっつってんの」
 「なんで?」

 なるほどそういうことか。麻有さんの友達で松田くんのことを好きな子がいて、その子は未だに彼のことを好きなのに、中学に入ったら松田くんが私のことを好きになってしまい、その友達のために麻有さんは、私と松田くんがこれ以上仲良くならないようにしたかったようだ。こういう学生多いんだよな。キューピッドになりたがる、頼んでもいないのにお節介を焼く女子。

 しかし、その“日向さん”とやらに言いたい。
 安心して下さい、私は彼とこれ以上仲良くなる気はありませんので。

 「てかあの子、この前なんかサッカー部と一緒に帰ってたんでしょ?」
 「俺目の前で見てたぜ、その時」
 「男好きかよ」
 「違くね?2組のサッカー部に幼馴染がいるんだってさ。その人と帰ってたらしいよ?」
 「うるせぇ」
 「だからなんで?」

 若干かみ合っていない二人の会話に思わず笑いそうになってしまった。しかし男好きと言われてしまうとは、これは相当根に持たれているな。
 この学校では、特に女子に人気な生徒が多いのがサッカー部だ。前世でも私たちの代で話題になるのは大体がサッカー部の人たちだったし。一年生の彼らはまだまだ花形ではないけれど、そのうち体格も成長するにつれ人気はさらに上がっていくだろう。そんな彼らの一部と一緒に帰ってしまったと知られれば、同性の怒りを買っても仕様がないことかもしれない。
 でもあの状況がどうして出来てしまったか、弁解するのも面倒くさいので放置しておく。同性の反感を買おうが、私にはどうでもいいことだ。

 彼らの話も区切りが良さそうになってきたので、私は今まさに此処に来ましたよという顔を作って、教室の扉を開けることにした。これ以上無駄な時間を潰されたくないし。

 「うお、静じゃん。え、今来たの?」
 「着替えを取りに来ただけだよ。そんなに驚かなくても」

 私が教室に入れば、松田君は驚いた顔を見せ、麻有さんはやけに静かにこちらを見てきた。

 「それじゃあまた明日」
 「一人で帰んの?」
 「そうだけど…」
 「え、俺も一緒に帰っていい?…ってぇ!!」

 何を言い出したかと思えば今度は急に奇声を上げた松田くん。どうした落ち着け。
 松田くんが向う脛を痛そうに抱えている辺り、机の下で麻有さんが足で蹴ったのだろう。しかし向う脛は痛いだろうな、弁慶の泣き所だもの。

 「じゃあ私はこれで。お大事に」

 痛みと必死で闘う松田くんを華麗にスルーし教室をあとにする。その間も麻有さんは終始、こちらをじっと睨んでいた。まるで蛇みたいに。
 きっとああやって人を脅してきたのだろう。だからそれに全くひるまず、余裕そうな私がさらに気に入らないに違いない。

 前世で散々な目に遭わされた私としては、寧ろそんな彼女が面白くてしょうがなかった。

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