また金銭感覚狂ってる
期末試験が終わり、短い冬休みがやってきた。試験中何が私を苦しめたかというと、試験が簡単すぎて開始10分で終わったときには残り時間が退屈過ぎて死ぬかと思ったことだ。それでも結果はミスなしの満点だったようなので、予想通り学年主席を頂くことができ、今度からは問題を解いたらさっさと退席しようと考えた次第である。
冬休みとはいえ私に休みという休みはさほどない。クリスマスと年末年始は実家で過ごすと決めているが、それ以外は海外に渡って仕事をする予定。
…の筈だったのに。
「まさか年明けをこっちで迎えてしまったとは…」
思いのほか仕事に時間を要してしまい、しかしこのまま中途半端で帰るのも自分としては許せず、仕事を完璧に終わらせるまでそのまま日本に帰らずに海外で年を明けてしまったのだ。
日本に帰るときにはお土産をたくさん買って帰ろう。
結局、家に帰ってこれたのは新年が明けて三日後となってしまった。母からのメールでは今日は親戚である従妹の家族も家に顔を見せにきているらしく、ついでにお土産も渡せそうだから丁度良かったかもしれない。
玄関から家に入れば中から笑い声が聞こえてきた。見慣れない靴もたくさんある。私の家は二階建てで、下の階は主に祖父母が使っており、上の階を主に私たちが使ったりこうやってお客を招いたりするようになっている。
荷物を持って階段を上っていると、誰かが音に気付いたのかリビングに繋がる引き戸を開いて顔を出してくれた。
「静ちゃん!」
「ただいま」
「帰ってくるなら時間寄こしてくれれば迎えに行ったのに!」
「忙しいかなって…」
顔を出してくれたのは案の定、母だった。子供思いの優しい母はそのまま階段を下りてきて、私の荷物を少し持っていこうとする。
「あ、こっちでいいよ。お土産だから皆に」
「えーまた買ってきてくれたの?」
「そんな大したものじゃないよ」
海外を渡って戻ってくる時、こうやってお土産を買ってくることはよくあった。母はお金がもったいないからいいのに、と言うが、今日みたいに予定外の時間に帰ってきてしまったりするから、私としてはお詫びの意味も兼ねているから気にしなくていいのだけれど。
母のあとに続いてリビングルームに入れば、テーブルを囲んでいた顔が一斉にこちらを向いた。
「明けましておめでとうございます」
「あ、はい、おめでとうございます」
「お仕事お疲れ様でした」
「いや、そんなに大変なものじゃなかったので…」
「どこに行ってたの?」
「ちょっとフランスの方に。翻訳の仕事で」
「わおー、フランスで年越しってこと?」
「はい、まぁそんな感じです」
「そりゃまたお洒落なとこじゃん」
「静ちゃん、これはもう皆に分けちゃっていいの?」
「うん。任せるよ」
「何々?」
「お土産買ってきてくれたんだって」
「えー凄い、かわいいー、お菓子だぁ」
親戚の従妹家族は母の妹さんたちの家族だ。三姉妹の長女の母が実家に住み、父は婿養子。だから正月や盆にはこうやって母の姉妹家族が顔を見せにきてくれる。
そして面白いことに次女の叔母さんの子供二人は見事に男だけで、反対に三女の叔母さんの子供は全員女の子。母の子供である私たち兄弟だけが男と女の両方いるのだ。
男兄弟の方は二人とも私より歳が上。さらに女の子兄弟の方は全員私より歳が下。つまり私だけが従妹全員の間に挟まれているのである。
「ご飯は食べてきたの?」
「まだ、実はお腹空いてたんだ」
「ほら食べて食べて。お寿司まだたくさんあるから。お餅も焼こうか?」
「うん。食べたいかな」
「静ちゃんの席は…、」
「二人の間でいいんじゃない?」
「女の子同士で固まった方がいいら」
私の席は従妹の女の子たちの間になった。まだ小学生の二人はとても大人しくて静かだ。まぁ喋れる同年代の子が他にいないし、大人ばかりの場所でゆっくりしろという方が難しいだろう。
「二人はえっと、何年生だっけ?」
「小5で、こっちが小2」
自分が彼女たちと同じ年頃にはもうちょっと背丈があったから、この子たちは大分小柄なんだろう。母の妹の叔母さんも小柄だし。
可愛いなぁ。自分に妹がいないからこういう子は余計に可愛がってあげたくなる。
そして、ふと、あるものを思い出した私は荷物が置かれている方へ戻った。折角だからあの子たちに渡しておきたいものがあったのだ。
「女の子たちにはこっちのお土産もどうぞ」
「え、悪いよ。そんなうちの子たちだけ」
「いえ、自分の分と友達の分とか、まぁ結構買ってきたんで、…ついでみたいで寧ろ申し訳ないですよ」
私が彼女たちに持ってきたのはパリのお土産で人気のマルセイユ石鹸だ。肌に優しくて洗浄力も優れているこれは私も重宝している。肌の敏感な赤ちゃんでも使えるし、何より女性人気を意識した可愛らしいデザインはきっとこの子たちにも似合うだろうから、ついあげたくなってしまったのだ。なのに、
「小学生に渡すお土産のレベルじゃない」
「金銭感覚が相変わらずぶっ壊れてる」
何故か兄たちからは呆れた言葉を投げかけられてしまった。確かにそこらの石鹸より高級品だけど、私的にはそこまで高くないし、ていうか女の子はこういうの好きじゃん。え、なんで。
その後、両親からも、もうあまり買ってこなくていいよ、と言われてしまった自分。何故。