だから引いちゃうんですって
二年になってから体育の授業は他のクラスと合同になった。私たちは3組と一緒だ。3組といえば私のお気に入りの子、福原薫ちゃんがいる。相変わらず笑顔を浮かべながら友達となにやら楽しそう。
そしてこのクラスにはもう一人、顔見知りの人物がいる。熊崎くんの幼馴染である菊池くんだ。彼はクラス委員を務めているだけあって、クラスメイトの男子を上手にまとめていた。
春には毎年クラスマッチがあり、二、三年はバスケと決まっている。だから今の時期の体育はそのための練習を兼ねていて、女子と男子でグループを作り、試合に備えるのだ。私は去年のこの時期まだクラスにいなかったので、今年初めての経験となる。
授業の流れとしてはまず基本的な動きを練習して、間に実技の小テストを挟み、皆の実力を見てグループを作ってひたすら練習試合をするらしい。
私はとりあえず田辺さんとペアを組んで、パスやドリブル、シュートなどの基礎練習を行った。
アメリカに住んでいた頃、ストリートダンスをする友達のなかにバスケのやたら上手い子がいて、その子と遊ぶときはしょっちゅうバスケに誘われていたな。流石本場のアメリカはストリートバスケだけでもレベルが高すぎて、初めの頃はついていくので精一杯だった憶えがある。でも教えてもらううちに、皆についていくどころか、有力な戦力に認められて、どこかのストリートチームと試合をするときは必ずと言ってもいいほど呼び出されていた気がする。
そんな風に遊びの一環でバスケが上達した私が、この日本の学校でバスケをするとなれば、やはり面白味は感じられなくて。こんな基本中の基本を繰り返し練習してもな。
うちのクラスにもバスケ部は一人いて、その男の子は時々クラスメイトに教えてあげながら、そして自分も活き活きと練習していた。バスケ部なだけあって普通の子より上手だ。でも多分、あの子と私が1on1をすれば、私は簡単にあの子を負かしてしまうだろう。
「あ!ごめん静ちゃん!」
「いいよ、取ってくる」
つい考え事をしてしまっていた私の横をボールが勢いよく飛んで行く。田辺さんがパスを出したボールはコントロールよくいかなかったようだ。
大きな体育館を女子と男子に分かれて練習しており、ボールは男子生徒たちが練習しているコートに転がっていった。小走りで駆けて行けば、転がっていくボールを拾ってくれた生徒が。
「どうぞ」
「あ、どうもです」
「全然いっすよ」
拾ってくれたのは菊池くん。私がこっちのコートに駆けていたのを見ていた彼は、すぐにそれを察してボールを拾ってくれたようだった。人付き合いに慣れた笑顔を浮かべて相変わらず変な敬語を使う彼に、私は小さく頭を下げて、田辺さんのもとへと戻った。
「あの人、静ちゃんのこと好きなんじゃない?」
「…唯ちゃんはその話好きだね」
「だって明らかに態度違うじゃん。さっきも直ぐに動いてたし」
「案外人に優しく生きようとしてるのかもよ」
「えー。絶対そうだって」
田辺さんが彼の方を面白そうに見るから、つられて私もそちらに視線をやってしまったのだ。すると菊池くんもちょうどこちらに顔を向けたものだから、目が合った私はとりあえずもう一度会釈した。菊池くんの方は照れ隠しなのか、笑顔を浮かべながらも数回ほど頭を下げていた。
そしてそんな私たちを交互に見ていた田辺さんは、「ね?」と、随分楽しそうに言ってきた。