車運転させたかっただけ

 この春、無事、十四歳になった私は元雇い主からまさかの車をプレゼントされた。流石に電話でその連絡を受けたときは、いやいや申し訳ないですと連呼したのだが、断り続けるのも逆に失礼なので、折角ならと最終的にはご厚意に甘えることにした。
 贈られた車は日本車で別段高級車というわけでもない一般的な車。元雇い主曰く、いきなり高級車は流石に運転しづらいだろうし、世界でも信頼性の高い日本車が良いだろうということで、どこまでも私のことを考慮してくれた彼に感銘さえ受けた。

 日本では車の運転ができるようになるのは18歳からだが、アメリカは州によっては13歳から免許が取得でき、自分で運転できるようになるのだ。自分で運転できた方が何かと便利なのは間違いないので、私もアメリカにいた時に免許を取得して、自分の車ではなかったけれど何度か運転していたことがある。しかしそれを日本でもできるようにするには複雑な手続きと、超難関な実技試験をクリアする必要があった。
 日本で運転する予定はそれまでなかったのだが、まさか車をプレゼントしてもらえるとは思わず、宝の持ち腐れになりたくもなかったので、私はすぐさま手続きを済ませ、実技試験を1発でクリアしてやったのだ。

 それからは時々、自分で運転して仕事に向かったり、家族を乗せたり、制服姿を隠して学校へも通ったりした。最初、先生に許可を貰いに行ったときは、何言ってんだこいつ、という顔をされたが、国の正式な書類を見せたら唖然としていたな。
 流石に先生たちと同じ駐車場を使うのは他の生徒の目もあるので、私だけは、学校から道を渡って直ぐにある公共の体育館横の駐車場に料金を払って使わせてもらっている。

 私が大人びた顔をしているから、世間の人は運転している私を見ても何も驚かない。しかし学校までの通り道は当たり前だけど生徒が登下校をしているから、運転している私を見かけた生徒は、書類を見せたときの学校の先生と同じ顔をしていた。クラスメイトたちからも怒涛の質問攻めを受けたし。運転しているだけなのに注目されるだなんてたまったもんじゃない。

 そんな私は今日、初めて家族以外の人間を自分の車に乗せる。

 「よろしくお願いします…」
 「え、何で急にかしこまったの」
 「…俺はもしかしたら今日死ぬかもしれない」
 「乗る前にそれは失礼過ぎやないでしょうかね」

 幼馴染の考紀くんを練習試合のあるグラウンドまで送迎するのだ。しかし乗せてもらう側だというのに、事故る心配をしているとは良い度胸ではないか。私の運転をどんだけ信頼していないんだこの人。

 考紀くんのご両親は仕事で忙しく、今日みたいに遠くまで送迎できないことも珍しくないらしい。今まではサッカー部の友達の親御さんに頭を下げて乗せて行って貰っていたらしいが、流石に何度もお願いするのは気が引けるだろうから、偶然練習試合があることを耳にした私から送迎を申し出たのだ。

 そして私の送迎を絶対に嫌だと言っていた考紀くんに対し、ご両親はまさかの即答で「ありがとうね」と感謝すら述べてくれた。この違いは何なんだ。

 「まぁまぁ安心して。一応、初心者じゃないんでね」
 「ていうか中学生が運転って聞いたことないんだけど」
 「向こう(アメリカ)じゃ、ざらにいたけどね。あ、でもセレブの子供が大半だよ」

 子供に車を買ってやれるなんて相当お金を持っていないとできないことだ。だからアメリカでは金持ちの親を持つ子は誕生日に車を買ってもらうことが多い。
 私はまさかの元雇い主の方から頂いたけれど、まさか車をプレゼントして貰えるとは。
もしかして自分のことを子供同然で見てくれているのかな、なんて。

 そうこうしているうちに目的地のグラウンドの方までやってきた。練習試合のあるグラウンドは、隣の市が所有している公共の大きな体育館とセットで設営されている。この体育館は前世での私が大変お世話になった思い出がある。

 「じゃあ予定の時間にまた来くるね」
 「うん。ありがと、じゃ」
 「あ、待って待って」

 着いて早々に降りようとした考紀くんを引き留めて、私は鞄からとあるものを取り出した。

 「今日、帰りにここでご飯食べていこうよ」
 「なにそれ?」
 「通り道にあったレストランのお食事券。昨日、お婆ちゃんから貰ったんだよ、どうせなら行っておいでって。普通の大衆料理屋さんらしいから、お肉とかがっつり食べられるみたいだよ。どうかな?」
 「いいんじゃないの。無料なら」
 「決まりだね。じゃあお腹空かせられるよう頑張っておいで」
 「ん」

 そっけない返事ではあったが、お肉ががっつり食べられると聞いて少しはやる気が出たようだ。体育館前の駐車場からグラウンドまでは高い石畳の階段を上っていかなければならない。階段を駆け足で登っていく彼の後ろ姿に、素直じゃないなぁと溜息が出る。

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