サングラスかけたかっただけ
午後は彼女たちの方が先に試合となり、私は脚を組んでそのまま席に座らせてもらいながら目の前の試合を見させてもらうことにした。すると隣の男子卓球部も同じ学校として彼女たちを応援するらしく、この周辺の席を広々と使うために女子たちが使っていた席の方までやってきた。私の前を通るひとたちは何故か頭を下げて、視界が邪魔にならないよう配慮してくれたのか小走りで通っていく。そしていつの間にか、男子たちの中に埋もれた私が出来上がっていたのだ。
「差し入れありがとうね」
「あ、いえ、大したものじゃないんで」
「今日一人で来たの?」
「途中まで友達がいて、帰りも一緒の予定です」
嘘は言っていない。実際、ここに来たときは考紀くんも一緒だったし。
私に声をかけてきたのは椅子ひとつ空けた隣の席に座っていた上級生の人。ちょっとチャラそうな雰囲気がする。卓球部にもこういう人いたのか。同年の子ならまぁ適当に返してもいいのだけど、先輩だとちょっと気を遣わねばならないから面倒くさい。これは二階で大人しく見ていた方が良かったかもしれないな。
試合が始まれば上級生も教師の目があるから前に向き直ってくれて、それからはまた女子の応援をしたり、他の学校の様子を見たりして、なんだかんだ最後の方まで居座ってしまった。
結果、女子は団体戦第三位という中々好調な成績を残せていた。
前世では、一年の夏に唯一の先輩が早々に引退してから、最低限の部員数しかいない分レギュラーには無条件で選ばれるも、大会では上級生とばかり試合するしかないので、初めのうちは連敗ばかり。でも反対に私たちは“経験”という貴重なものを得ることはできたのだ。同年代の子たちより試合経験が豊富だった分、実力も否応なしについていったから、次第に団体戦では優勝することもあった。
三年生になった頃にはこの地域の学校では殆ど負けなしだったから、彼女たちもこの調子ならきっと良い成績を残していけるだろう。
今世では其処に自分はいないけど、こうやって応援する側として見守るのも悪くないかもしれないな。
そろそろ考紀くんの方も終わる時間だ。最後に篠原さんたちに挨拶をしておきたかったが、大会が終わってからは他の学校もそれなりに片付けを手伝わねばならないそうなので、私はひとり静かに体育館をあとにした。
階段上にいるであろう彼が降りてくるのを、携帯をいじりながら待つ。帰りに寄るレストランにはもう予約してあるので問題ない。どんなメニューがあるか軽く見ておこう。
「静ちゃんっ」
「あ、お疲れ様。今日は皆さんかっこよかったね」
私が長いこと待っていたのか、彼女たちの片付けが早かったのか、時間をちゃんと見てなかったので分からないが、いつの間にか玄関口には女子卓球部の子たちが出てきていた。
「今日はありがとー」
「迎えくるの待ってる?」
「ううん、ちょっと人を待っててね」
「もしかして車運転してきた?」
「うん」
「えーかっこいいな」
「今度うちも乗せてよ」
「そのうちね」
彼女たちと話していると階段上の方から声が聞こえてきた。どうやら彼らも終わったみたいだ。
「あれサッカー部じゃない?」
「マジだ。ここで試合とか?知らんかった」
偶然にしてもこんなに近い場所でお互い部活動があったとは驚きだろうな。私もそうだし。
サッカー部の子たちも若干驚いたような視線を送りながら幾人か降りてきた。そしてそのうちの一人に紛れ、ようやく降りてきた幼馴染。
「じゃあ私はこれで。また学校でね」
皆に挨拶をしてから車の方に向かう。すると考紀くんがサッカー部の輪を外れてこちらに向かってきた。別に走ってこなくてもいいのに、律儀にも私に合わせようとしてくれた。
お疲れ、と声をかけてからお互い車に乗り込む。日が傾き始めている今の時間、西日が強く差し込んでくるためサングラスをかけることにした。このヴィンテージ系の色付きレンズはシンプルだけどお洒落でお気に入りのもの。
体育館前を横切るとき、未だに玄関口にいた彼女たちに片手を挙げて挨拶した。多分、後部座席に座る幼馴染の姿にまたも驚いていただろう。でもそんなことを彼は意外と、いや全然気にしていなかったりするのだ。
「めっちゃかっこいい〜っ、サングラス超似合ってたし」
「同い年には見えねーな、ほんと」
「ねぇ2組の人後ろに乗ってなかった?」
「あれ児嶋くんでしょ?あの二人って本当に付き合ってないの?あれで?」
「みたいだけど、あれで付き合ってなかったら何なんだろうな」
「てかさ今日、間門さん他の学校の男子にもめっちゃ見られてたよね。あんだけ可愛い子って中々いないもんねー。今日うち初めて話したけどさ、間門さん目も凄い綺麗じゃなかった?あんなに色薄いんだね」
「うち、さっき緑中の旭さんに静のこと聞かれたよ。あの可愛い子誰だって」
「女子にもモテモテか」