悪友

 二年になって最初の席替えが行われてから、私は小早川良太という人と隣の席になった。この人はクラスの男子のなかじゃ基本静かで、女子が話しかけるとちょっとどもってしまうのに、何故かクラスの上位男子と仲が良く遠巻きにつるんでいるイメージの生徒だ。
 色素が薄いため髪と瞳の色が茶色系で、おまけに鼻が高いから最初見た時はハーフなのかと思った。ただ、私も瞳の色は薄い方なので純粋な日本人という説もある。しかし彼とまともに話したことがないので真相は知らない。

 小早川くんと隣の席になって私の彼への印象は、うちの長男に似てるな、というものだった。大人しいのに言うこと一つ一つが的を得ていて、ぼそっと言う言葉が結構辛辣で面白かったりする。私の上の兄もそういう人だ。頭の回転が速いから冗談がうまくて、静かなのに無駄に存在感がある。小早川君がクラスの上位男子と一緒にいるのは、もしかしたらそのためかもしれない。
 小早川くんは成績も良いし、足も速くて陸上部に所属している。おまけにハーフみたいに綺麗な顔をしているからさぞモテるのかと思いきや、私はこの人と隣になってから知ったのだが、コイツ結構ヤバいやつだったのである。

 英語の授業の時間中、今日習った形容詞を用いて隣の人と挨拶文を考えてみようという出来事があり、私はこういうので良いんじゃないかと頭の中で適当に考えていれば、小早川君が低い声で笑いながらこう言ってきたのだ。

 「遠回しにこういうの言いたいんですけど」

 彼が見せてきたノートに書かれていたのは、絶対中学の教科書には載らないであろう単語。

 「これ使って文とか考えられないですか?」
 「あー…まぁできないこともないよ。やってみる?」

 多分、彼にとってもこの授業は退屈なのかもしれない。だからできるだけ面白くしたかったのだろうか、悪戯を思いついた子供みたいな顔をしていた。
 まぁ確かにどうせやるなら、それどこで使うんだよっていう丁寧すぎる言葉より、海外の若い人たちが実際に言うような言葉を使ってみるのも勉強になるだろうし、何より私も悪戯心に火がついてしまったのだ。

 「じゃあ次のペアは、間門さんと小早川くんにお願いしようかな」

 二年になってから英語の先生は新しくなり、この人はそれなりに私を気に入ってくれていた。外国語がペラペラな私によく問題を振ってくるし、授業以外でも声をかけてくれることが多い。だから今回も発表するペアの一つに選ばれるだろうなと思っていた。
 そして早速、小早川くんと席を立ち、先ほど作り上げた文を読み上げた。

 M:Hey dude.What’s up? 最近どう?
 K:Not much. 変わりないね
 M:How did you spend the vacation? 休み中何してた?
 K:I had too much fun. 遊び過ぎたー
 M:Awesome. ヤバいじゃん。
   How long have you been studying? 勉強したの?
 K:No way. まさか、するわけないじゃん。
 M:You idiot. 馬鹿だなーお前
 K:The fucking test is like fucking nothing for my fucking future. 俺の未来にテストなんかクソくらえなんだよ

 「ストップ!!」

 そこまで読んだところで先生からストップがかかった。ここからが面白いところなのに。スラングや冗談を踏まえたこの例文はなかなかに実践向きだと思うがな。意味を知っている先生に止められてしまい、私の力作はここまでとなってしまった。ていうか隣の人は笑いを堪えているんですけど。肩震えてるし。

 「なんて言ってたんだよ、コバー」
 「杉谷くん、聞かなくていいです」
 「え、なんで先生?めっちゃ気になるんだけどぉ!」
 「間門さん、小早川くん、もうちょっと丁寧な言葉を使いましょうね」
 「最初に吹っ掛けてきたのは小早川くんです」
 「え、いや、あの、間門さんも考えてました。ハイ」

 結局、二人して先生に注意されてしまった。でも、堅苦しい言葉じゃなくて、こういう汚い言葉を授業で言うなんて、ちょっとスリルがあって面白かったな。
 それからも何故か、英語の時間では小早川くんが時々悪口や冗談に使う言葉を無駄に聞いてきたり、どこから持ってきたのか数学の難問を私に解かせようとしてきたり、頭の良い彼の悪戯ともいえる楽しみに振り回されていくようになってしまったのである。これは所謂、悪友というやつでしょうか。

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