レベル別授業
今日から数学の授業は学年全体でレベル別に分かれての一斉授業となる。言ってしまえば頭の良いクラスからそうでないクラスに段階別に分かれて、それぞれのレベルに合わせた授業を行うのだ。
学年トップの私はもちろん一番頭の良い階級に振り分けられた。この階級が授業を行う場所は幸いにも私たちの教室だから移動する必要もないし。
うちのクラスからこの階級に振り分けられたメンバーの中には一緒で良かったと思える人もいれば、あんまり嬉しくないなという人もいる。そして席がまだ定まっていないので私はとりあえず自分の席に座っていた。
「コバ、お前席ここなの?」
「え、なんすか?なんで急に来たんすか?」
「はぁ?別に、てか俺このクラス初めてきたし」
隣の席の小早川くんも同じ階級だ。彼に声をかけてきたのは確か5組の生徒。大きな眼鏡をした文学少年に見えるが、意外にもサッカー部に所属している。
男子生徒に対し小早川くんはからかうかのように気味の悪い笑みを返していた。まぁ小早川君も気づいているんだろうな、男子生徒が何で自分の方にきたのか。私がちらりと隣へ視線をやったら目が合ったし。要はそういうことだ。
「おーい、席ついてー」
「先生、席が分かんないです」
「あぁ、そうか。じゃあ1組から名簿順でこっちから座っていって」
教室に入ってきた先生は二組の担任。学年主任もやっていて、この学校じゃ校長や教頭並みに歳が大きい。先生に言われた通り、私たち1組から廊下側の席に順番に座っていった。私は今いる1組のなかだと一番最後の方になるから、前にいるクラスメイトたちが自分の席を定めたところでようやく座ることができた。廊下から二列目の後ろから二番目。まぁまぁ悪くないかな。
「じゃあ今からプリント配るから後ろに回してー」
先生から配られたプリントを後ろの人に渡そうと振り返ったところで、思わず一瞬固まってしまった。私の後ろの席はなんと考紀くんだったのだ。
彼は苗字からして名簿も前の方だとは思っていたけど、まさか私の後ろ、2組の一番最初が彼だったとは。普段ならあり得ないこの光景も合同授業ならではか。
「えー、このクラスはぶっちゃけ言って俺があんまり教えなくても、ちゃんとついてきてくれるだろうと思っています。なので、とりあえずここのクラスは、教科書の範囲を進めてからその都度小テストを行ってひたすら問題を解く、というような感じになります」
ベテランの筈なのにどこか気が抜けた喋り方。それから先生が予定通りに授業範囲を進めていって小テストをしてから自己採点を行い、早めに切り上げたい先生の要望で今日の授業は終わった。
「でもチャイム鳴ってからクラス戻れよー」
授業は終わったのにチャイムが鳴るまではこのままいろというお達しがあったので、先生が教室を出てから、生徒たちは各々お喋りに時間を使うことにしたらしい。色々なところから話し声が聞こえてきた。
「席が前後って小学校以来だね」
「そうだっけ?憶えてない」
「うん。私も憶えてない」
「は?」
「言ってみたかっただけ」
「意味分からんよ」
私も椅子に横向きに座って、後ろの彼に話しかけてみることにした。本当に適当な話題を振ってみたから、心底訝しげな顔をされてしまったけど。
「この筆箱まだ使ってるの?物持ちいいね」
「別にいいじゃん」
「でも鉛筆は使ってないんだね」
「流石に中学じゃシャーペンでしょ(笑)」
「小学校の頃は皆鉛筆持たされてたもんねぇ(笑)」
「あれは意味不明だったくない?(笑)」
「まぁ子供にちゃんとした持ち方を憶えて欲しい先生の計らいだよ。仕方ないさ」
「たまに思うけど、静ちゃんって言ってることおばさんみたいだよね」
「折るよ?」
「なにを?」
考紀くんと他愛ない話をしていれば授業終了のチャイムが鳴った。まだ少し時間はあると思っていたんだけど。楽しい時は時間が速く過ぎるように感じるというし、これは認知的に見た、時間の「相対性理論」というものかな。