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『そういえば今日、地元でそれなりに大きいお祭りあるんですけど、行きます?』
『行きたい、日本のお祭り見てみたい』
『じゃあ…駐車場に車停めれるか分からないので、電車で行きましょうか』
この後の予定をそんなに細かく考えていなかったので、どうしようかと思っていたら、街中に貼られているポスターが目に入り、今日はお祭りがある日だったことを思い出した。それもこのあたりの地域じゃ一番大きいお祭りだ。
今世では夏休みに殆ど海外にいた自分は、何気にこのお祭りに来るのは一回あったかないかぐらいかも。折角だし、私も久しぶりにお祭り気分を味わってみたくなった。
前世での経験上、この祭りはとにかく人がたくさんくるし、車の規制もかかる。だから祭り周辺に家がない人は電車で来るのが殆ど。例に漏れず、私もジョングクさんを連れて電車に乗って、お祭りの開かれる街の駅についた。
『すごい人…ソウルみたいだ』
『ジョングクさん、離れちゃダメですよ。私、流石に探し出せませんからね』
『離れないよ。俺、子供じゃないし』
ちょっとだけムッとしたジョングクさんが可愛くて、小さく笑ってしまったのはここだけの話。
『屋台がたくさんある』
『日本ではこういう時だけ屋台を出すのが普通ですね。お腹空きましたか?』
『うん』
『甘いものと、塩辛いもの、どっちにします?』
『うーん…今は塩辛いもの』
『じゃあ串焼きにでもしますか』
お肉が大好きなジョングクさんにピッタリかもしれない。私たちは早速、屋台巡りに向かうため、たくさんの人混みの中に入っていくことに。今は日も暮れて、暑さも殆どなくなり、時折冷たいそよ風がふいて気持ちいいぐらいだ。
歩いてくる人を上手に避けながら歩かなければならないのだけど、しかし、かっこいいな、この人。私は自分の隣にいる人に、改めて惚れ惚れしてしまった。
まだ高校生なのに、平均的な日本人男性より身長があり、尚且つこんなに端正な顔立ちをしているんだもの。通り過ぎる女性たちが時折、彼の方を二度見してくるのも頷ける。
でも、ダメですよ。この人は私のですから。
『シズちゃん?』
『こうしていたらはぐれませんから。…ダメですか?』
『だ、ダメじゃないよっ』
私が彼の腕に、自分の腕を絡めてからその手を恋人つなぎで握れば、ちょっと驚くジョングクさん。普段、人前で私から彼の方にくっついていくことは殆どないだろうし、あまり見ない私の行動に戸惑うのは仕方ないけど、私が下から見上げたらまた顔を赤くさせて、ぎゅっと握り返してくれてそれが嬉しかった。
その後、ジョングクさんが気になったものを屋台で買い、何処か落ち着いた場所で食べようと、近くにあった広場のベンチに座ることにした。
ジョングクさんはそのほっぺを食べ物でいっぱいにしながら、人々の行き交いや、踊りをする人たちを観察していた。初めて見た日本のお祭りに興味津々といった感じだ。
『どうして女の人はああいう格好をしている人が多いの?』
『あれは“ユカタ”と言って、日本の伝統衣装の一つです。夏に着ても涼しいようにできていて、皆あの華やかさに憧れて着るんですよ』
『ふーん…シズちゃんも似合いそう』
『ありがとうございます。また今度お祭りに来る機会があったら、その時に着ましょうか。ジョングクさんも』
『俺も?男なのに?』
『女性がユカタで、男の人は“ジンベイ”というものを着るんですよ。ほら、あのカップルみたいにお揃いで』
『へー、韓国もああいうのあった気がする』
『ジョングクさんも絶対似合いますよ。でも、格好良すぎて他の女の子が寄ってくるかもしれないから、私もおめかししなきゃ』
『シズちゃんの方こそ、それ以上可愛くなったら……ダメだよ、俺、もっと頑張らなきゃじゃん』
そう言って下を向くジョングクさん。前に自分なんかが一緒にいていいのか、と言っていた時もあったし、やっぱり自分に自信があんまりないのかな。
私からすればこんなにかっこいい人は他にいないのに。
『あ、ごみ…どこに捨ててくればいい?』
『私、捨ててきますよ』
『いいから、俺に行かせて』
もしかしてこういうのも気を遣っているのだろうか。頑ななジョングクさんに、私は通る時に見た公共のごみ箱の場所を教えることにした。
***
僕の恋人はびっくりするぐらい綺麗で、可愛くて、素敵な人だ。年下とは思えない程しっかりしているし、とにかく考えが大人っぽい。
人見知りで引っ込み思案の僕とは比べ物にならないぐらい凄い人なのに、僕を好きだと言ってくれたシズちゃん。はじめは何かの冗談かと思った。でも、嬉しくて、今までないぐらいずっと心臓が脈打つっていうか、身体中の血液が一気に流れていくような感覚がした。
それからは自分でも知らないうちに彼女に夢中になっていた。恋人になってからも、僕はどんどんシズちゃんという沼にはまっていって、同時に不安になった。
僕でいいのかな。隣に並んだときに、僕はちゃんと恋人として映るのかな。
本当に僕のことを好きでいてくれるかな、愛してくれているかな。
シズちゃんが話してくれる日本の話のなかには、時々幼馴染の男の子の名前が出てきた。シズちゃんはその子を家族みたいに思っていて、恋愛感情は持っていないようだったけど、僕よりシズちゃんと長く時間を過ごしているその人に勝手に嫉妬してしまっていた。僕の知らない彼女を知っているだろうし、何よりその人の話をするシズちゃんは楽しそうだったから。
歩いているだけで一目を引くシズちゃん。
ほら今日だって、こんなに身体のラインが出るものを着てるから、チラチラ見られてる。中学生とは思えないスタイルをしてるし、お腹が見えるようなその服は、シズちゃんの細い腰をちょっとだけいやらしく見せているようだった。
彼女にとってできるだけ頼られる男になりたかった僕はごみ捨てだって率先して行った。でも、後になってそれを後悔することになったのだ。
少しその場を離れただけなのに、彼女の方に戻ってくれば、シズちゃんの背中越しに、彼女の目の前に立っている男の子たちが見えた。おそらく同年代ぐらいの子たちだろうけど、可愛いあの子を一人にしたら声をかけられても不思議じゃないことぐらい、考えれば簡単に出てくる答えだったのに。日本語の分からない僕は、彼らを追い払おうにもきっと言葉が伝わらない。
―――だからって見過ごせる程、馬鹿な男じゃないんだよ。
彼女の元に駆け寄って、その華奢な腕を掴んだ。そんな僕の慌てた様子を察してくれたのか、シズちゃんは一瞬だけ驚いただけで、また直ぐに落ちつた声色で答えてくれた。
『あ、この人たち私の学校の知り合いです』
『そう…なんだ…』
ナンパではなかったようだ。かといって、彼女に好意がないわけではないようで。僕がシズちゃんの隣に座っても彼らは去ろうとしない。シズちゃんも話しかけてくる男の子たちをあしらう様子もなく、言葉の分からない僕だけが蚊帳の外状態だった。
だから彼女の気を引くために、僕ができたことは、彼女の膝に置かれたその白い手に自分の手を添えることだけだった。
僕がその手を上から包み込めば、シズちゃんもそれに応えるように、また恋人繋ぎをしてくれた。普段は僕からやるその握り方を、シズちゃんが人前でしてくれるなんて滅多にないことだ。
それから一言二言交わした彼らは、やっとその場を去っていった。
『すみません、ああいうの嫌ですよね。一人だけ取り残されたら…』
『でも僕が日本語分からないのは本当だし。シズちゃんは人気者だろうし、きっと仕方ないんじゃないかなって…』
嘘だ。本当はこんな綺麗ごと、思っていない。
でも、僕はシズちゃんが大好きで、彼女に軽蔑されたくなくて、咄嗟に取り繕うしかなかかった。
『……私だったら嫌ですけど』
『え?』
『好きな人が異性と話してるのに、何とも思わないわけないじゃないですか』
シズちゃんの唐突な言葉に脳の処理が追い付かずフリーズしてしまう。だってシズちゃんはいつもクールで、僕なんかよりずっと大人で、そんな彼女の意外な姿。
『私だって不安になったり、嫉妬も抱いたりします。でも、人間だったら誰だって持ってる気持ち……恥ずかしいものなんかじゃない。。
それに、この気持ちはきっと、私がそれだけ貴方が大好きっていう裏返しだから』
ちょっと頬を赤らめて髪を耳にかけたシズちゃん。これは照れ隠しのときの彼女の癖だ。
本当はさっきみたいな、僕以外の男の人と仲良くしてほしくない。
学校の友達だとしても、今、キミの傍にいるのは僕だから。
それなのに、僕はずっと自分に自信がなくて。完璧な彼女の隣に立ってても恥ずかしくない男でありたくて。
こんな重い気持ちは引かれちゃうかも、面倒くさがられたくない。
―――だから言えなかった。
『ジョングクさん、私は別にスーパーマンみたいな人を求めているわけじゃないですよ?私は映画に出てくるような何でもできる超人じゃなくて、
傍にいたいって思える、私がキスしたくなる人、それがいいんです」
シズちゃんはそう言うと、僕の頬に両手を添えて世界一優しいキスをしてくれた。
彼女は全部分かっていたんだ。
自信のない僕が、本音を言えない僕がいるって。
それなのに呆れることもせず、こうやって優しく受け止めてくれた。
僕の恋人はびっくりするぐらい綺麗で、可愛くて、素敵な人だ。
僕は、そんな完璧な彼女のスーパーマンにはなれない。
映画や漫画に出てくるようなかっこいい男にはなれないかもしれない。
でも彼女が選んでくれたのは僕だから、今の僕だから。
他の人にとって凡人な僕でもいいや。
『シズちゃん』
『はい』
『大好きだよ』
『私もです』
『他の男の子とあんまり仲良くしないで。僕が傍にいるときは僕だけ考えてて』
『ジョングクさんも、他の女の子に隙を作らないでくださいね。もっと自分がかっこいいのを自覚してください』
『…寧ろ僕はもっとかっこよくなりたいよ。こんなに綺麗で可愛い彼女がいるんだから』