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三回目となる病院訪問。いつもの如く、振り回されるようにしてついてきた僕。しかし桐山さんの用があるのは間宮さんではなく、
「こんにちは。橘考紀くん」
今日も病院の中庭で、一人ベンチに座っていた考紀くんだった。
「今日もここからお見舞いかい?熱心だねぇ」
考紀くんは桐山さんが苦手なのか、話しかけられても顔を合わせることはなく、何なら隣に座ってきた桐山さんと少しだけ距離を取ろうとしていた。
でも桐山さんはそれを分かっていて尚、彼に問いかけていく。
「キミは彼女のこと、ただの友達って言ってたけど…それだけじゃないよね」
「……」
「前に言ってたね。彼女の家に落書きされたとか、歩いていたら石を投げられたとか。それってさ、間宮百合さんの家を知っていて、通学路も一緒、二人は家が近所なんじゃないかな。つまり、昔からの仲で幼馴染同士。合ってる?」
「……だったら何ですか」
「彼女のこと好きなんだろう?」
あっさりと言い切った桐山さん。正直、僕は驚いた。
そしてその時、考紀くんが初めて桐山さんの方へ顔を向けた。訝し気な瞳と共に。
「まぁキミの言い方からして、恐らく彼女と交際しているわけじゃなさそうだから、キミの片思いってところだろうね」
考紀くんは否定しなかった。それはつまり肯定を意味しているのだろう。
「でも多分……彼女も君のことを大事に思ってるよ」
「…え、」
「自分で言ってたじゃないか。“百合ちゃんはもっと前から苦しんでたのに”って。それって、彼女をよく見ていたか……あるいは、本人から直接聞いたんじゃないかい?」
「……」
「やっぱりねぇ。…聞いたところ、間宮百合さんは周りには心配かけないよう、実の両親にでさえ不安気な様子を見せなかったみたいじゃないか。それなのに、キミにだけは本音を打ち明けた。
それって相手のことを相当信頼していないとできないことだよ」
「…あんたって、テレパシーでも使えるの?」
「まさか。ただ、一応これでも私の前職は心理学者でね。相手の意図は読めるほうだと自負しているかな」
「………」
「今のキミの気持ちを言い当てようか?恐らく、“うっわ、この人とはあんまり仲良くしたくないわー”ってところだろうね」
「…………」
「何もそんなに離れなくても」
桐山さんが一方的に喋っているだけなのに会話が成立してしまっている。というか桐山さんの前職が心理学者というのは初めて知った。海外ではプロファイリングという、犯罪捜査において犯罪の性質や特徴から行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論することがあるが、だから桐山さんは何倍も優れて見えるんだろうか。
「まぁ…今日キミに聞きたかった本題は別にあるんだ。…ちょっと確認しておきたいことがあってね。
捜査で知ったんだけど、間宮さんは今年だけ年末年始をアメリカで過ごしたそうじゃないか。しかもご両親には一人で行くと言っていたみたいだとか……」
また別の話を持ってくる桐山さん。僕の知らないところで、この人は何を調べていたんだろう。そしてそれがどう事件に関わるというのか。
「……もしかして、キミたち二人一緒じゃなかったかい?」
「…っ、」
「あはは、キミは分かりやすいね」
「なんで、」
「あぁ、これは完全に僕の勘だよ。まぁ色々と考えていくうちの、一つのある推理が浮かんでね。…いや、でもそうか…なるほどねぇ」
一人で何かを思案している桐山さんを見て、考紀くんは心の変化でも生じたのか、そこでようやく重い口を動かし始めたのだ。
「……俺と百合ちゃん。保育園からずっと一緒で、周りにはただの幼馴染って言ってたけど、俺、昔から百合ちゃんが好きで……。
そしたら去年の年末、百合ちゃんにアメリカで年末年始過ごそうって初めて誘われたんだけど、学校で変な噂とか立てられたくなかったから、周りには黙っておこうって、親にも内緒で行ったんだ」
「そこで、何か起きなかったかい?間宮さんが普段はしないような行動をしていたとか」
「桐山さん?何聞いてるんですか?」
何故、中学生の男女の思い出をそんなに根掘り葉掘り聞こうとしているんだこの人は。しかし僕のことなど完全無視の桐山さんは、居たって真面目な顔つきだ。
「…タ…タイムズなんとかってとこでカウントダウン見に行ったら…。……百合ちゃんが、」
「キスしてきたんだ?」
「ちょっ!桐山さん!ほんとに何を聞いてるんです!?」
「笹田君知らないのかい?アメリカの文化で、ニューイヤーには「キスをする」といものがあってね、カウントダウンをして、新年になった瞬間に誰かとキスをする習慣があるんだよ。」
「え、そ、そうなんですか?」
「家族や、パーティーで盛り上がって知らない人となんてこともね。勿論、恋人同士だってあるさ」
「…俺、そんなんがあるって知らなくて、…そん時は凄い驚いたけど、後で百合ちゃんから教えられたから…」
「けど、彼女にはちゃんとした意味があったんじゃないかい?今までだってアメリカには何度も足を運んでいる子なのだろう?それが急にキミを誘うってことは、少なくとも何かしら伝えようとはしていたと………聞いてる?」
「え、あ……うん」
「…桐山さん、せめて空気を呼んであげてください」
「何を?」
「えぇー…」
「まぁでもとにかく、これでようやく分かってきたよ」
「事件の真相ですか…!?」
「いや、犯人が分かったわけじゃないさ。ただ、事件の裏に潜む人物は見えてきたってところかな」
「裏?」
「そう。これはあくまで僕の推理だけどね。でもこれがもし当たっていたら、彼女をあんな目に遭わせた元凶が見えてくる筈だよ」
「一体誰なんだよ…そいつは、」
「逆にキミたちに問いてみようか。…キミたちは愛する人がもし、自分の知らない間に、自分ではない誰かと愛し合っていたら、どうする?」
「どうって言われても…」
「そんなの…嫌に決まってんじゃん」
「そうだろうねぇ。じゃあその時、キミならどんな行動を起こす?その男に怒りをぶつける?彼女を忘れる?それとも……その心を支配するために、―――愛する人を傷つける?
「は?」
「いやいや、おかしいですよそんなの。大切な人をそんな、」
「でもその人物は違ったんだ。
彼は何年も一人の女性を愛し続け、いつかは彼女と一緒になれると信じていた。
―――ニューヨークのタイムズスクエアで、カウントダウン後に口づけを交わす二人組を見るまではね」