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―――思えば最初から、桐山さんの言う、不可思議なことは確かに合った。

 『例のライブ配信では、Jが問題発言をした時間帯が向こう時間で21:14』
 『21:14………えっ、このサイト…』
 『これがネットに挙げられたのは、向こう時間で21:10』

 時間軸の合わない、間宮さんに関する個人情報開示のサイト。

 『でも、その後直ぐに第一発見者の方から“女子中学生が倒れている”と119番通報があったと、駆けつけた消防から証言が出ています』
 『直ぐってどれぐらいだったんだい?彼女との通話が途切れてからの通報とは』
 『えーっと…確か、2,3分後だったそうです』

 『だからあの日も、いつもの時間に駐車場まで行ったんだが……まさかあんな現場を見ちまうだなんて……とんだ災難だよ。管理人としてやっちゃいけねぇことをやった罰かねぇ……』
 『その猫、いつから駐車場に現れるようになったんですか?』
 『あー……確か、今年に入ってからだな。仕事初めの5日かそこらだ』
 『事件のあった日、猫も現場に?』
 『いや、確かいなかったような気がする。まぁでも俺もあまり周りが見えちゃいなかったけどな、正直…血だらけのあの子見たらそれどころじゃなかったよ…』

 犯行時刻と同時刻に、毎日現れていた猫。
 そして示し合わせたように第一発見者となってしまった管理人。
 それらはまるで、“刺された彼女を直ぐに助けられるよう”、事前に準備されていたかのようで。

 『…タ…タイムズなんとかってとこでカウントダウン見に行ったら…。……百合ちゃんが、』

 『けど、彼女にはちゃんとした意味があったんじゃないかい?今までだってアメリカには何度も足を運んでいる子なのだろう?それが急にキミを誘うってことは、少なくとも何かしら伝えようとはしていたと……』

 『4年間ひたすら想い続けていた彼が、今年になって急にそれを打ち明けた。
 
―――……何故、彼は突然そんなことを?』


 “その心を支配するために、―――愛する人を傷つける?”


 ***

 「ま…まさか、そんな…っ…だったら“彼”はどうやって、」
 「笹田くん。これはあくまで憶測に過ぎない話だ。証拠もなにもないのだからね」
 「でも、…危険なことには変わりません。もし、間宮さんが目を覚ましたとき、彼が近くに来たら…」
 「あのさ、二人とも一体何の話をしているんスか。俺にも分かるように教えてよ…っ」
 「…ごめんよ。橘くん、捜査は原則守秘義務があってね。ここから先は一般人のキミを巻き込むわけには―――」


 バチンッ!!
 
 どこかで聞こえた大きな破裂音のようなもの。それは突然だった。
 そしてフッと消えた病院の光。

 「え、これって…」
 「停電だね。笹田君、一応我々も様子を見に行こう」
 「は、はい…っ」

 今はまだ夕方。日暮れではない分、電気が消えても何とか視界には困らない程度だ。停電の理由は主に発電所に原因があったり、落雷や災害、その他の理由で電線が切れてしまったりした場合が殆どだ。そして医療器具を使う病院では、機械がないと生きていけない患者もいるため、直ぐに自家発電に切り替わるようになっている。
 だから桐山さんと病院の受付口まで向かっていく間には、自家発電によって電気がついていた。

 「良かったですね」
 「けど普通は早々あり得ないことだよ。余程のことがない限りは…」

 停電となっていた時間は1分もなかったかもしれない。それでも受付口には人だかりができていた。

 「おい、一体何があったんだい」
 「今、原因を調べておりますので、」
 「うちの人は大丈夫なんです?」
 「ですからそれも…」

 通院している者や、入院している患者の親族たちが軽くパニックを起こしており、職員の方へ詰め寄せていたのだ。するとその中には見たことのある人物も見えた。

 「桐山さん、あの人って確か間宮さんの警備についてた人ですよね?」
 「……っ、まさか」

 桐山さんが珍しく動揺した表情を見せたかと思うと、

 「おい、君!」
 「え?貴方は確か…捜査一課の、」
 「間宮百合さんの警備はどうした…っ」
 「勿論付いていますよ。停電が起きたと聞いたので様子を見に私が動いて、残ったもう一人に今、――「馬鹿野郎!!」

 初めて聞いた桐山さんの怒声。そして今度は焦ったように走り出したのだ。

 「桐山さん!?」

 階段を駆け上がっていく桐山さんに僕も慌てて追いかけ、いつの間にか、僕たちは東棟の4階まで足を進めていたのである。

 そこでようやく僕は事の次第に頭が追い付いてきた。突然の停電に驚いたのは、通院患者や入院患者の親族だけではない。それはここで一人眠っている少女の警備についていた職員も同じ。
 確かに一人でも病室に残しておくのは賢明な判断だったかもしれない。でも、ソレはきっとそこにさえ付け入ろうとしてくるのだ。

 「くそ…っ、」
 「やられた…!!」

 遅かった。

 僕と桐山さんが来た時には既に、病室のベッドには、其処に眠っている筈の少女は―――どこにもいなかった。

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