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私がまだ海外を渡り歩いていた時期、夏休みにアメリカにいるダンスの先生に呼び出されたことがあった。先生のもとにいけばそこにいたのは韓国からダンス留学にきている男の子で、私はその男の子の通訳として呼び出されたと直ぐに分かった。
世界的に有名なダンサーの先生がどうしてわざわざ、まだダンスを始めて間もない子の指導をしているのか、その時の私は彼のことをあまり知らなかったから不思議には思った。でも、教え子の私が一々詮索するのは良くないから、心のうちに閉まっておいたのだ。
男の子には元々別の通訳の人がつく予定だったけれど、その人が仕事の都合で予定が合わず、最初の一週間だけ私が代わりにつくことになったのだ。
一週間という短い期間、先生の指導を通訳しながらその子のダンス練習を手伝ったり、時間があれば街の中を案内したりもした。私より五つも年上の彼は、人見知りが激しいのかあまり自分から話す方じゃなかったが、とても純粋で可愛らしい人だった。
――――そう、思っていた。
あの目を見るまでは。
世界トップレベルのこのスタジオには、自分のスキルを磨くため、教えを乞いに世界各国から生徒がやってくる。
韓国から来ていた彼との一週間を終えて、彼につく予定の本来の通訳の方と交代したとき、スタジオの一室で私は同年代のダンサーの子を指導していた。おかしいと思ったのはその頃からだった。
『それじゃあ休憩に入りましょうか』
スタジオ外には自販機がある。小休憩に入ったところで飲み物でも買いに行こうと思って、扉の方へ足を向けたときだ。
扉のガラス越しに彼がいたのだ。
じっとこちらを見つめてくる彼は結局、ほんの数秒そこにいただけで、何も言わず、踵を返して扉から離れていった。
そして私は、彼が扉から離れるまで、ずっと身体が固まったままだった。
射貫くような視線が、あの柔らかい笑みを見せていた彼からは想像もつかないような、いわれのない恐怖を感じさせたからだ。
それからも、いくつもあるスタジオで私と彼は時折すれ違ったりしていたけれど、彼は一度も笑みを見せることなく、ふと気づいた時には、ただじっとこちらに視線を向けていた。
嫌われてしまったのだろうか。
自分の行動を振り返ってみるが、自分が鈍いせいか思いつくことは何も出てこなかったし、理由を聞いてみようにもタイミングが悪かったり、そこまで踏み込んで話ができるほど親交が深かったわけではないから、彼が韓国へ戻るまで、結局分からず仕舞いになったままだ。
その後、彼が先生のスタジオを訪れることはなかったし、私も中学進学と共に日本へ拠点を戻したことで、私たちが再会する機会はなかった。嫌われているようだし、彼も私にはもう会いたくないだろう。だからあの夏は、私のなかで次第に風化されていったのだ。ところが、
“画面越し“に映る彼は、世界的なトップアイドルとなっていた。骨格がはっきりとして大人びた顔つき、声も少しだけ低くなっていた気がするから、キャリアだけでなく男性としても成長していた彼がそこにはいたのだ。
そこでようやく私は、彼がどうしてあの夏アメリカにやってきたのか分かったのだ。ダンス留学をしてまで自分を磨こうとした人だから、その向上心はきっと計り知れないだろう。
『僕にだって好きな子ならいますよ ずっと待ち受けにしているんです』
ただ、彼のあの言葉、そして携帯に映っていた画像は最初信じられなかったのだ。私は嫌われていた筈。だってあの夏だって彼は一度もそんな素振りを見せなかった―――それに、“あの日の夜”も彼は、