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『お願いします……!俺が代わりに人質になる…っ、だからユリさんを解放してください…!』
『うるさい!それ以上近づいたら落ちてやる!』
『やめてくださいッ、お願いだから……これ以上は…!』
『この場でこいつを刺したら見逃してやる!そうしないと私はここで飛び降りるぞ!』
――男女が言い合う声が耳に響く。
ここに拉致されて一体どれだけの時間が経っているんだろう。否、そもそもあの時、駐車場で倒れた日からの記憶がない私は、そもそもどれだけの時間が過ぎているのかも知らない。
刺された時が昨日のことのようだけど、どれぐらい眠っていたんだろう
あの子供は無事に学校まで行けただろうか
他に被害者は出なかっただろうか
お母さん、お父さんは…心配しているだろうな
ただでさえ心配させているのに、またこんな状況を作ってしまったなんて
なんて親不孝なんだろう
学校近くで事件を起きたから、きっと周りは不安になっているだろうな
『もういい!お前がこの女を刺さないなら、』
『彼女は関係ない!』
互いに怒鳴りあうように興奮している二人は、私が頭を少しだけ動かしたことに気付いていなかった。
今まで身体が外に向いていたから知らなかったが、いつからあったのか、私の頭近くにはアウトドア用の大きなナイフがあったのだ。
犯人はそれを使って、彼に私を傷つけるよう命令していた。でも、そんなことをしたら彼の培ってきたキャリアは一気に崩れるし、恐らく彼は、そんなことができる人ではない。
けれど彼が動く気配を見せなかったら、きっとこの犯人は感情に任せて飛び降りるだろう。下にいる警察官たちがマットを敷けないような場所を選ぶぐらいだ。最初からその気だったのだろうから。
そう。つまり、このままだと“二人とも”最悪な結果しか見えないのだ。
―――それなら私は、
【あ!人質がナイフで―――】
手に取ったナイフで、勢いよく縄を切った。アウトドア用ということもあり、切れ味が良く、幸い一発で切ることができた。
そして、犯人の女性に繋がっている縄の方を屋上側に放り込むために―――
体力が殆どなかった私が女性を引っ張れるわけもない。だから引力の力を使うため、
「ユリッッ!!」
自分を“落とした”。
我ながら最悪の死に方かもしれない。
こんな目に遭わせた犯人と全ての原因を引き起こした彼、“二人”を助けるために、自分が屋上から落ちるなんて。
(あ、死ぬのかな…)
人が走馬灯を見る理由として、一種の仮説がある。
その理由としては、人は死に直面した危機的状況に陥ると、助かりたい一心でなんとか助かる方法を脳から引き出そうとするため記憶が一斉に蘇る、というもの。
まさに今、それだ。
なんでこんなことになっちゃったんだろう
普通の学生生活を送る筈だったのに
家族にも何も言えないまま、死ぬのか
友達にも、“彼”にも。
でも正直、自分はどうなってもいいって思っていた
昔から誰かに手助けしてもらうのは苦手だったし
自分のため誰かに危険を冒してまで助けてもらうのは、嫌だった
そもそもあんな状況を打破できる人がいるわけがないのだ
『見捨てろ』と言ったのもそのため
この世にスーパーマンなんていない
他人のために命を懸けられる人なんていない
助けられない
そう、
―――誰も 助けてはくれないから
だから
「……っどうして、」
『…ぐっ……』
宙に身体が出た私に手を伸ばしたこの人は、
ビルの壁についていたパイプの突起を片手で掴み、もう片方の腕で私の身体を掴んでいた。
下を見れば河川敷、この距離から落ちたら人間の身体なんてぐちゃぐちゃになってしまうだろう。そんななか私の身体を片腕で支えて、さらに自分の体重もあるから人間二人分を抱える彼。
『ぜったい……助ける、から…ッ!』
人間はスーパーマンにはなれない
超人的な力は持てない
それでも彼は、血をにじませながら突起を掴み、腕が引きちぎれそうなほど痛い筈なのに、
決して私を離さなかった。