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先日、僕と桐山さんが現場に出向いて捜査したと聞いて、別の先輩から小言を言われてしまった。「お前たちはパソコンと向き合って捜査していろ」と。要は、被害者Yさんを誹謗中傷した書き込みから、犯人と思われる人物はいないか探せということだ。その先輩は桐山先輩を嫌っていると噂のある人で、暗に邪魔だと言われているようなものだった。僕まで巻き込まれてしまっているような気もするけど…。
確かに最初に与えられた仕事はそれかもしれないが、
「そんなもんはサイバー犯罪対策課にでもやらせておけばいい」
「まぁそれもそうなんですけどね…」
「それより、もう一度病院へ行こう。もしかしたら家族の人に話を聞けるかもしれない」
「えぇー…また抜け出して捜査ですか?」
「この事件に興味が出てきた。なんだか一筋縄ではいかない気がするんだよ、勘だけど」
今ではのめり込むように事件を捜査しようとする桐山さんを、新人の僕が止められる筈もなかった。
***
被害者のご家族にも勿論事情聴取は受けて貰っている。しかし、犯行が起きる前から彼女の周囲で何か不審な点はなかったか聞いてみるも、一緒に住んでいた家族も思い当たる節は思いつかないということだった。
特に間宮さんに至っては、家族にさえ悩みを打ち明ける様子もなかったらしい。彼女から恐怖や不安といった感情は一度も感じられなかったと。
これまで聞いてきた彼女の性格上、身内に心配をかけたくないと思ったのだろう。
「まぁアポなしで都合よく会えるわけはないよねぇ」
「そりゃそうですよ。ほら、他の先輩方に見られる前に帰りましょうっ」
「うーん………あ、」
「?」
「あの子、この前も見た憶えがある」
桐山さんが指さした方向は病院の中庭。中庭には入院患者が息抜きできるような整えられた芝生や花で彩られており、入院患者とその親族や知人などが一緒に話をしている様子が多々見られる。
そんななか、一人ベンチに座って顔を上に向けている少年がいたのだ。
「ご家族の誰かのお見舞いに来ているんじゃないんですか?」
「どう見ても学生だよ?いくら見舞いとはいえ、今日は平日。学校も行かずに一人で来ているし、しかも……彼が見上げている方向、あれは多分“彼女”が眠っている病室の方だ」
「…すいません、仰っている意味が…」
「………笹田くん、君は馬鹿か?」
「はい?」
「被害者の彼女が眠っている病室は、東棟の4階じゃないか。それに病室の方は今、完全隔離で近くの病室はわざと空けて貰っていて、今、4階の周囲は誰も入院していない。どう見ても彼は、彼女の関係者だよ」
桐山さんは若干呆れながらも長々と説明すると、呆然とする僕を無視して、さっさと歩いて行ってしまった。勿論、ベンチに座っている少年の方へと。
「あ、ちょっと!」
慌てて追いかければ、既に桐山さんは少年に声をかけていたが、少年の方は僕たちが警察だと分かると少しだけ顔を曇らせた。
「キミは間宮百合さんのご家族の子かい?」
「…違います」
「じゃあ友達?」
「……そんなもんです」
「………」
「桐山さん、いきなり質問攻めしては良くないですよ。相手は学生なんですから」
「キミ、学校にも行かず、きっと毎日見舞いに来ているんだろう?でも今は親族以外面会謝絶だから、此処からずっと病室の方を見ていた。…友達にしては随分彼女を心配しているんだね」
「悪いですか」
「いいや、“男女の友達”にしては珍しいと思っただけさ」
桐山さんから顔を逸らしてむっとしたような表情を見せた少年。彼の名前は、橘考紀くんというらしく、間宮さんとは中学校が一緒なのだそう。
「あの、橘くん。君は何か知らないかな。事件の前に間宮さんの周囲で何か変わったことはなかったとか、」
「そんなのありまくりでしょ。どっかのアイドルが百合ちゃんのことネタにしたせいで、次の日から百合ちゃんちには石が投げつけられるわ、落書きされるわ、歩いてたら知らない人に写真を撮られるし……最悪なことしかなかった」
「…そ、そうだよね…」
「警察が何してたのか知らないけど、……今更犯人調べようとか、遅すぎなんじゃないですか。百合ちゃんはもっと前から苦しんでたのに…、もっと早く動いてあげてたら、―――あんなことにならなかったんだよ…っ!」
考紀くんは犯人にも、原因となった例のアイドルにも怒っていた。でも、それと同じく僕たち警察にも怒りを向けていたのだ。
SNSで問題となった時から警察が彼女を保護していたら、犯行予告を仄めかすものを早くに検挙していたら、彼女はこんなことにならなかったかもしれない。
今も眠り続ける友人を想って涙する考紀くんに、僕は何も否定できなかった。
「笹田くん、行こう。」
「え、でも…」
「事件の捜査に戻るよ。私たちは油を売っていられる身じゃないからさ」
桐山さんはそう言ってまた一人でさっさと歩いて行ってしまった。でも、僕はここですんなり追いかけられそうもなく、もう一度考紀くんに向き直る。
「事件を調べようにも…今、間宮さんから話を聞くことはできない。今の僕たちにできることは、なぜ被害に遭ったのか被害者になり代わり、必死でストーリーを考える。被害者のストーリー、加害者のストーリー――それが捜査なんだ。
今更虫のいい話かもしれない。でも約束するから…“必ず事件を解決してみせる”って」
「彼、被害者とは“ただの友達”じゃなさそうだね」
「あぁ、まぁ確かにあんなに心配しているから、親友とかそんな感じなんでしょう」
「いやいや、男女にそんなもんあるわけねーでしょ」
「……は?」
「意外と初心だねぇ笹田くん」
「え、ちょっと…桐山さん?!」