右手にジンから渡されたメモ用紙、左手に買い物バッグを持ったジョングクはモール内で困り果てていた。
 ジョングクがジンから頼まれたのはいつもの買い出し――ではなく、ジョングクの斜め後ろに静かに立つハルの私物を買うことだった。

 メモ用紙に書かれていたものは「替えの服一着と新しい下着 適当に見繕ってやって」。

 JK「(服はともかく……し、した、下着って…えぇええ)」

 一応ハルにもメモの内容は見せてみたが、彼女は相変わらず何の反応も見せなかった。やっぱりここは自分が先頭を切って動くしかないのだろうか。

 とはいえ、流石に女性下着を男が選んでいたら周りから変な目で見られるかもしれない。何故、ジンがこんな難解なものを頼んできたのかは謎だが、帰ったら一言文句を言っても構わない筈だと思うジョングクであった。

 JK「……ハルさん、あの、俺、ここで待ってるんで…」
 『………』
 JK「…ハァ…」

 思わず重い溜息が零れていた時だった。横から歩いてきた若い女性グループが声を弾ませながら、こちらに近づいてきたのは。

 女A「あのぅ〜、すみません。ちょっとお聞きしてもいいですか?」
 JK「…え、はい」
 女B「駐車場の行き方分かんなくなっちゃってー」

 道に迷ったという女性たちが声をかけてきたのだが、彼女たちはジョングクの傍に立っていたハルのことなど目に映っていないのか、慣れた動きでジョングクの両隣に近寄り挟むようにしていた。

 両隣から囲まれているような感覚に居心地が悪く感じたジョングクは、女性たちにさっさと立ち去って欲しかったため、駐車場への行き方を的確に無駄なく教えることにした。それに両隣にいる女性より、自分の後ろにいるであろう少女の方がジョングクにはずっと大事に思えたから。
 しかし、ジョングクの願いとは裏腹に女性たちは想像以上に面倒くさかった。

 JK「――それで右に曲がったら直ぐに駐車場見えてきます」
 女B「うーん、ちょっと分かんなかったんでもう一度、え、ていうかお兄さん一緒に来てくれませんかぁ」
 女A「途中で何か奢るんで〜。何なら買い物一緒に回りません?」
 JK「……」

 女たちの妙に甲高い声に思わず眉をしかめそうになった。ジョングクはこういう女性が大の苦手だ。
 自分で努力してみようという意思を感じられないし、初対面にもかかわらずこうやって無理やりパーソナルスペースに入ってくるのも気持ち悪かった。

 女A「どうですかー?」
 JK「いや、俺…」

 段々と距離を縮めようとしてくる女たちから逃げたい思いから、後ろにいるであろうハルの方に顔を向けた。

 JK「え!?」
 女A・B「?」

 しかし後ろを振り向いて早々、驚きのあまり自分でもびっくりするぐらいデカい声が出てしまった。
 何故ならそこにいる筈の少女が、忽然と姿を消していたから。

 ジョングクは慌てて周りを見渡すが近くにハルらしき姿は見当たらない。
もしかすると自分が女性たちを離すのにモタモタし過ぎて、彼女は痺れを切らして帰ってしまったのではないか。いや、それとも一人で買いに行ったのか。でも一体どこへ?

 女A「あのー、それでどうですか?」
 JK「俺、連れがいるんで!!」
 女B「あ、ちょっと!」

 女たちが何かを言ってきた気がするが、今のジョングクにはそんなこと心底どうでも良い。
 たった一人の少女を探すことで既に頭はいっぱいだったのだ。

 彼女はスマホを所持していないから連絡のつきようがない。ただ、もし店に帰っていればきっとジンの方からこちらに電話がかかってくるだろう。いっそ店に帰っていてくれればそれでいい。
 でも、こんな大勢の人が行き交うモール内など慣れていないであろうハルが一人でいたとして、迷っていたら、変な奴に絡まれていたら、など様々なケースが頭を過る。

 とりあえずこのモール内一帯を見ていこうと走っていたジョングクだったが、彼女は意外にも簡単に見つけることができたのである。

 ***

 女性用下着を扱う店の前、ベンチに座るハルの姿があった。
 最初メモを見せても反応がなかったから、今日の目的を理解しているかも怪しかったが、やはりちゃんと理解はしてくれていたようだ。

 JK「ハ、ハルさん、良かった…」
 『………』
 JK「あ、店…入りたいんですよね?」

 もしかするとジョングクが来るのをずっと待っていたのか。あの場からいなくなったのも、彼女なりに考えての行動だったのかもしれない。
 それでもやはりベンチから動く気配がないのを見て、思い至った結論は、彼女は一人でこういう店に入るのを単に苦手と感じているかもしれないということだった。

 ジンは「周りに興味関心がないだけ」と言っていたが、それは正確には違うようだ。
 恐らく彼女は、ジョングクや常連客のように見知った人間であれば、自分に害を為さないと分かるといっそ興味関心がなくなり、
 反対に全く知らない人間には恐怖や苦手意識という“関心”がつくのだろう。

 JK「じゃあ、お店入りましょうか。俺もついていくんで」

 だからジョングクはせめて彼女の助けになれるよう、傍に付いて献身的にサポートすることにした。
 逆ナン女たちへの扱いが嘘のように、自分の隣に立つ少女を支えるのであった。

 JK「すいません。えっと、妹にサイズの合うものを買いたいんですけど」
 店員「ありがとうございます。妹様が今お使いになっているサイズの方は…」
 JK「あー…いえ、その、ついでにそれも測ってもらっていいですか?」
 店員「かしこまりました。では、あちらの方で採寸させて頂きますね」
 JK「お願いします」

 そしてジョングクが上手いこと言葉を並べることで事なきは得た。
 しかし、店員に採寸されに行くときも、ハルが少しだけジョングクの方に視線をやっていたことから、彼女のなかで自分はそれなりに頼られていると分かってきたジョングクは、なんだか無償に嬉しくなって笑みが零れるのを必死で抑えていたらしい。

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