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ジョングクがハル専属の世話係になってから、二人は常に一緒に行動するようになった。と言っても、ハルの周りをジョングクがウロウロして何かしらサポートしていると言った方が正しいかもしれないが。
そして今日もジョングクは朝から、ハルの食事を作るため早めに起きて準備をしていた。ジンによる“ハルをキッチンに入れるべからず”という、謎のキッチン出禁を喰らっている彼女の食事は、今では主にジョングクが担当している。
夜はマスターであるジンによるまかないがあるけれど、ジンが昼まで寝ているときや不在のときがあるため、自然とそうなっていったのだ。
JK「(昨日の残りものもあるし、今日は手軽でいっか)」
そうして着替えを終えたジョングクが自室から出ようとしたときである。
“ソレ”は平穏だった二人の間に地雷原のように、突然現れたのであった。
【ドタドタッ、ドタンッッ!!ガタァンッ!!】
JK「!!!??」
右隣の部屋、つまりハルが寝ているであろう寝室から聞こえてきたのは、何かが倒れたような音と何かを壁に打ち付けるような音。
静寂な朝にはとても似つかわしくないようなその大きな音は建物中に響き渡り、何事かと驚いたジョングクは彼女の身に何かあったのではないかと、急いで隣の部屋に駆けこんだ。
JK「ハルさん!!大丈夫で………す、か…」
「いてててて…」
彼女の部屋に入ったジョングクの目に映ったものとは――
ベッドに入っているハルが何かを投げたかのように腕を振り落としている姿と、壁にもたれかかるようにして倒れている上半身裸の男、その男の傍には恐らくハルが投げたであろうベッドサイドテーブルが床に落ちていた。
JK「な、な、なんだこれは……」
JN「あーもう〜…テヒョナー、ほんと朝からやめてよねー。こっちは寝始めたばっかなのにさぁ」
すると騒ぎを聞きつけたであろうジンも部屋に入ってきた。彼はまだ半分閉じている目をこすりながら、寝癖もつけたままだ。しかも全く動じていないどころか、その口調振りからすると、これは日常茶飯事のようにも聞こえてくる。
ジョングクだけが状況を呑み込めないでいると、今度はテヒョンと呼ばれた上半身裸男が立ち上がって平気そうに言葉を発した。
TH「だってやっと出張から帰ってこれたから、早くハルに会いたくなってさ」
JN「それはいいけど時と場合を考えてくれよ。ていうかキミほんと頑丈だよね、いっつもハルにぶちのめされてるのに」
TH「ええ?そう?ハルのこれは一種の愛情表現じゃん。だから全然平気だし、可愛いよね〜。日本語で言うところの“ツンデレ”だよ」
JN「僕にはもうツンしか見えないよ」
JK「あ、あの…ジンさん。この人は一体…」
TH「あれ?初めて見る顔だ。あ。もしかしてキミ、例の新入りくん?わーイケメンだね」
テヒョンはそう言が、ジョングクからしてみれば、目の前の芸術品のような男の方が何倍もかっこいいと思った。
しかし今のジョングクはそれよりももっと気になることがあったのだ。
JK「…な、何で…上…裸なんですか」
TH「え、なんでって男が女の子のベッドですることなんて一つしかなくない?」
JK「!?」
あっけらかんとしたテヒョンの言葉に驚きのあまり目を見開いてしまった。するとジョングクは脱兎の如く、ハルのいるベッドまで近づいて彼女の(ジンのおさがりだというアルパカのキャラクターが散りばめられた)パジャマを凝視すると、
JK「(良かった…ちゃんとボタン閉められてる)」
謎の安否確認をして一人安心したように胸を撫でおろしていたとか。
JN「ジョングクくん、こいつはテヒョンって言って僕の知り合いなんだけど、歩く18禁とか呼ばれてるから気を付けてね」
JK「!!??」
TH「ちょっとヒョン。あんま誤解生ませるようなこと言わないでよ」
JN「いやお前その恰好じゃ全然説得力ないんだわ」
TH「ジョングクくんだっけ?キム・テヒョンです。よろしくね。ちなみにハルの未来の旦那になる予定の男なんで」
JK「!!!???」
JN「ちょっ、え、ジョングクくん!?」
今度もまた部屋中に誰かが倒れ込む音が響いた。
ジンがその対処に追われているなか、ベッドにいたハルだけは再び夢の中に入っていったのである。