JN「ヤー。驚いて声出なくなるのは分かるけど、倒れちゃうのは僕も初めてだよ」
 JK「す、すみません」
 JN「キミはほんと純粋なんだね」

 あの時、ショックのあまり床に倒れてしまったジョングク。それを介抱したジンによってようやく落ち着きを取り戻していたところだ。

 JN「まぁジョングクも落ち着いてきたことだし、僕そろそろ二度寝するから、テヒョンにもハルを暴れさせないよう言っておいてね」
 JK「分かりました…」

 眠たそうにあくびをしながら寝室に戻っていったジンを見送ると、ジョングクは後ろのダイニングテーブルに顔を向けた。そこには今しがたジンに釘を刺されていた二人が。
 寝起きのハルの方は、食事担当のジョングクが倒れたことにより、お皿に乗せたただの食パン一枚を無表情で食していた。そして当たり前のようにその隣を陣取っているのはテヒョン。

 TH「今日は俺休み取ってあるからデートしようね」
 『……』
 TH「この間、美味しいスペイン料理見つけたんだよ。ハル、まだ食べたことないでしょ?」
 『……』
 TH「それとねお土産もたくさん買ってきたんだ。絶対ハルに似合うだろうなーって思いながら選んだんだよ?」

 テヒョンの話を聞いているのかいないのか、それとも寝起きでぼーっとしているだけなのか、どちらにしろハルは変わらず無反応である。そんな彼女をテヒョンも嬉しそうに見つめているから、二人の様子にジョングクはさらに分からなくなった。

 TH「お、ここ跳ねてる。ふふっ、あー…ほんと可愛いなぁ」
 JK「…ッ」

 寝癖がついたハルの髪を楽しそうに触るテヒョンに、ついにジョングクはいてもたってもいられず、ガタンと勢いよく椅子から立ち上がった。
 そして洗面台から櫛を取ってくると今度はハルの方に歩み寄り、彼女の長い黒髪を慣れた手つきで梳きはじめた。

 JK「…俺、やるんで」
 TH「……」

 おもむろに現れたジョングクが櫛で梳かしはじめると、テヒョンはさきほどまでの笑顔から一変、じっとジョングクの方に視線を向け出したのだった。
 まるで何かを探るような視線は、ジョングクには痛いほど刺さってくる。

 TH「……ジョングクくんさぁ」
 JK「…はい」
 TH「ハルのこと好き?」
 JK「っっ!!??」

 今度は突然何を言い出すんだこの人は、ジョングクは信じられないものでも見るかのような表情でテヒョンに顔をやった。

 JK「な、なんですかいきなり…!?」
 TH「え、違うの?てっきりヤキモチ焼いて来たのかと思った」
 JK「いや、俺は、その、ハルさんの……世話係なんで」
 TH「ふぅーん。じゃあさ、俺今日ハルとデートするけど、いい?」
 JK「…っ、良いんじゃないですかね…別に」

 彼女が誰と一緒にいようとプライベートなことまでは踏み込めないし、自分はそこまでハルと距離を縮めているようには思えない。
 だからテヒョンがハルをデートに誘おうと、ジョングクは関係ない話なのだ。
 そう、

 ―――関係ない、筈だった。

 TH「ジョングクくんって、顔に出るタイプだねって言われたことない?」
 JK「顔に…?あんま言われたことないですけど」
 TH「えーうそだー。まぁ、それはそれで面白いけど」

 テヒョンが何を言いたいのかイマイチ理解できなかったが、ジョングクは気を紛らわすかのようにハルの髪を梳かしていった。

 JK「(よし、できた)」
 『………』
 TH「準備できた?じゃあそろそろ行こうか」
 JK「え、ちょっと…」
 TH「なに?」
 JK「…いや、別に…」

 ハルの腕を引っ張ってデートに連れていこうとするテヒョン。しかしジョングクのなかではやはり腑に落ちないところがあるらしく、本人も無意識のうちに制止の声をあげてしまっていたのだ。
 するとそれを見たテヒョンがどう勘違いしたのか、

 TH「あーそっか!ハル、パジャマ着替えないと!このままでも可愛いけど、今日はこれを着替えて―――」
 JK「なっ!?テヒョンさん!?」

 ハルが着ていたアルパカのキャラクターが描かれたパジャマのボタンに手をかけようとしていたのだ。おそらく、パジャマ姿じゃ外には出られないと考えたのだろうが、それにしたって女子の寝間着を脱がそうとするなど言語道断だった。
 そして勿論、それは彼女本人によって制裁は下されたわけだが。

 ガタン!!ドタン!!
 まずは腹を足蹴りされ床に倒れれば、今度は椅子も上から落ちてきた。朝と同じような光景の出来上がりだ。

 TH「あいてててー」
 JK「……テヒョンさん、そろそろ学習しないとソレまじでヤバい奴ですよ」

 ジョングクの心からの言葉も彼に届くことは当分なさそうだった。

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