散々なデートのせいで食事もままならかったハルのために、ジョングクはキッチンで簡単な料理をすることにした。
 ありあわせのもので作っている間、ジョングクはふとあることを思い出した。

 JK「(そういえばテヒョンさん、ハルさんの好きな食べ物知ってるみたいだけど……俺はなんにも知らないな)」

 ハルのことはなんでも知っているとでも言うようなテヒョン。一方でハルの世話係になったジョングクは彼女の好みなど全く知らなかった。
 というのも一緒に顔をつきあわせて食事をしていても、ハルは何も言わないし表情一つ変えることがないので、美味しいのかどうかすら分からないのだ。

 おそらく付き合いの長さは、自分よりテヒョンの方が長いのだろうけれど、こんなに毎日傍にいる自分は彼女のことを何も知らないようで、なんだか悔しくなった。

 JK「あのー…ジンさん」
 JN「うん」
 JK「ハルさんって、どんな料理が好きなんですかね」
 JN「どしたのさ急に」
 JK「いや、ハルさんって感想とか言ってくれないから、なんか俺の作ったのって美味しいのかマズいのか…」
 JN「ジョングクくん普通に料理できてると思うよ」
 JK「そういうんじゃなくて…ていうか“普通”なんだ」
 JN「まぁでもハル、ジョングクくんの作ったご飯いつも美味しそうに食べてるけどなぁ」
 JK「ホントですか!?」
 JN「う、うん」
 JK「どうやって分かるんですか?!長年の付き合いとか?!」
 JN「おお落ち着いてってば。僕とハル、そんなに長い付き合いじゃないし…えっとね、ハルって好きな食べ物のときはゆっくり食べる癖があるんだよ。
よーく見てると分かってくるから、今度やってごらん」

 ハルは美味しいものは味わって食べたいタイプらしい。
ジン曰く、「あの小さい口でゆっくり食べてると小動物みたいだよね」とのこと。

 それを知ったジョングクは料理の工程はあととして、先ずは早速、彼女の好きな食べ物から知れるようジンに言われた通り観察から入ることにした。

 ***

 JK「ハルさん、ご飯できましたよ」
 TH「うん?ジョングクくんってハルのご飯まで作ってるの?」
 JK「……まだいたんですか」

 ジョングクが出来上がった料理をテーブルまで運ぶと、真っ先にやってきたのはハルではなくテヒョンだった。
 さっきまでそこのソファでハルにちょっかいかけつつぶっ飛ばされるというお決まりのルーティンをしていた男は、ジョングクの嫌味など聞こえていないのかあっけらかんとした態度で椅子に座った。

 TH「ジニヒョンじゃないんだ」
 JK「一応俺がハルさんの世話係なんで。これぐらい毎日やってます」

 敢えて【毎日】を強調していたジョングクだが、テヒョンにこれが効いているかどうかは分からない。

 そしてようやく二人のいるダイニングテーブルにやってきたハル。朝と同じ定位置に座り、目の前に置かれた料理を無言で食べ始めた。
 するとジョングクは早速、彼女の様子を観察し始める。――ところが、

 TH「ねぇねぇ、【あ〜ん】ってやつやってよ」
 『……(片手でテヒョンの顔を制する)』
 TH「じゃあ俺がしてあげるね。ほら。ハル、あ〜ん」
 『……(テヒョンからフォークを取り上げる)』
 TH「もう恥ずかり屋なんだから。じゃあ今度はね、」
JK「テヒョンさん!!」

 またも懲りずにちょっかいをかけているテヒョン。これでは観察をしようにもできない。
 折角、ハルのことを知れるチャンスをどうして邪魔されなければならないんだと、苛ついたジョングクはテヒョンが動けないよう両肩を掴んだ。

 JK「じっとしててください!」
 TH「ちょっと、キミまで俺とハルの仲を邪魔する気?やっぱ狙ってんじゃん」
 JK「そんなの今はどうでもいいでしょ!大体、人が食べてるのにそんなにしつこくちょっかい出してたら、誰だって嫌がりますよっ」
 TH「なにをぅ!」
 JK「大体ねぇ!」
 JN「うおい、喧嘩なら外でやんな!」

 言い合いをしている二人のもとへ現れたのは、店の奥で準備をしていたジンだった。普段は温厚そうなジンの般若のような形相に二人は一瞬で口を閉ざした。

 JN「ったく…ハルは一応僕の知人には手出さないから良いけど、普通だったら二人とも一緒にぶっ飛ばされてたからね」
 JK「…う、…」
 TH「俺はいつものことだから全然ヘーキ」
 JK「…嫌だ…ハルさんには嫌われたくない」
 TH「俺嫌われてんの!?」

 その後結局、ジョングクはハルをゆっくり観察することができず、なんの進展もなく食事の時間は終わってしまったのであった。
 そしてガックリと項垂れたジョングクが片付けの洗い物をしていると、流石に哀れに思ったジンが彼にアドバイスをすることに。

 JN「そんな落ち込まないで、まだチャンスはいくらでもあるじゃないか」
 JK「…はい」
 JN「…ハルの好きな食べ物教えてあげよっか?」
 JK「ジンさん…!!」
 JN「僕も知ってるのは少ないけど、あの子、カニカマが好きなんだよ」
 JK「カニカマ…!!」
 JN「なんか語呂良く叫ばれてる気がするけど、まぁいいや。実は前にね、カニカマのチャーハン出したときにハルったらカニカマだけ箸で取って―――」

 ジンの話など既に耳に入っていないジョングクは、ひたすらカニカマ、カニカマと呟いていた。

 TH「あー良いよねジョングクくんは」
 JK「?」
 TH「だってハルにご飯作ってあげられるってさ、ハルの胃袋掴み放題じゃん」
 JK「…っ?!」
 TH「俺もそう思ってご飯誘ってるんだけどなぁ」
 JK「(俺が……ハルさんの胃袋を…!?)」

 よく世間一般に浸透しているのは【男の心を掴むには、胃袋を掴め】という女性が男性にアプローチするためのものだ。
だが勿論その逆も然り、男性が女性の心を射止めるためにしても可笑しくはない。

 JN「テヒョンア〜、敵に塩振るなんて余裕じゃん」
 TH「良いんですよ。彼、自覚はまだなさそうだし」
 JN「そんな悠長なこと言ってていいのかい?あの二人、ちょっとのきっかけで入る隙すらなくなりそうだけど」
 TH「んー大丈夫でしょ?俺のが金持ってるし地位もあるから」
 JN「(それは“テヒョンお前の価値観”なんだけどなぁ…)」

 弟分の恋路を見守る立場にいるジンは、こればっかりは本人が自分で気付かないと意味がないとしているが、ジョングクの登場によって今後どうなるか内心心配していた。

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