第八話「波乱の始まり?」

放課後、下駄箱にあったのは小さい手紙。
正確には紙を上手に畳んで手紙風にされたもので、下駄箱に置かれているというそれがどうも意味深にしか思えなかった。
裏にも差出人は書かれていなかったため、誰からかは不明だがまぁ予想は大体つく。
恐らく例の三人のうち誰かだろう。

「はぁ……」
「静ちゃん、静ちゃん!」
「わっ!」

溜息をついていると突然横から純奈ちゃんが現れた。
相も変わらず元気いっぱいなのは良いことだ。しかし、このタイミングでの彼女の出現はあまり良い気はしない。

「今日から三人で順番に一人ずつ静ちゃんと一緒に下校するからね!」
「……今なんと?」
「初日はとりあえず理音くん!はい!」

人の話を聞きゃしねぇよ。まるで動物のように目の前に差し出された理音くん。
クラスの男子の中でも2番目に背が小さい彼は、成長真っただ中の私の目の前では年下の少年のようだ。
確かに家が真向かい同士なのだから一緒に帰ることに何ら問題は生じないが、ついさっきの間に私に好意があると純奈ちゃんを介して明かされたばかり。意識するなと言う方が無理がある。
それがなければ普通にルンタッタッターと帰れたかもしれない。

「いいからいいから!はいはい!靴履いて!また明日ね〜!」

結局、純奈ちゃんの言葉に流されるがまま、私と理音くんは二人で帰路を歩くことに。

「…………」
「…………」

いやだんまりかい!!確かにそりゃあ気まずいけど、これから30分もかかる帰り道をずっとこれ?!流石に息が詰まって窒息死するわ!前回の人生では20歳までしか生きられなかったから、今回はできるだけ長生きしようと願っていたのに、もう先が見えないとかありですか。
などとお先真っ暗状態だった自分に訪れたのは、もしかすると救世主であったかもしれない。

「なに、二人珍しい組み合わせじゃん」
「……あ、幸一くんに考紀くん」

Wコウか。お前らもほんと仲良いな。
後ろからやってきたのは、クラスメイトの幸一くんと幼馴染の考紀くんだった。
二人は名前が似ていることと、クラスでも中心メンバーのためかよく一緒にいるところを見る。どちらかというと口数の少ない考紀くんに対し、口数が多いというかこいつよく喋るなーというのが幸一くんの印象だ。

「まぁ、かくかくしかじかですね」
「さっき純奈ちゃんがすっごい騒いでたに?」
「うん、察してくれたまえ。君が絡んではダメな案件だから」
「は?ほんと静ちゃんって、難しいことばっかりだよな」

全く相変わらず女子に対しては威嚇の構えだなお前は。隣にいる考紀くんを見習えよ。
この間、稽古帰りにばったり会った時以来だぞ、対話するのは。
………ん?稽古?……それだ!!

「あ、わ…私、そういえば今日稽古があるんだったー…。ちょっと早めに帰らなきゃいけないから、申し訳ないけれど…ま…またの機会に……」

突然の思い付きだったためか、自分の大根役者っぷりには目を瞑った。

「稽古って何?間門、何か習ってんの?」
「う、うん…合気道を少々……」
「え?それってこの間、きん……――「あーっ…!考紀くん!そういえば君に大事な用があったんですよっ、授業中に麦島くんから預かったんだけどね…あ、でも何だか人に見せたら困る代物だそうなので、ちょっと向こうに移動しましょうか。ね、はい。では行きましょう」

かなり強引に彼の腕を引っ張って彼らと少し離れた場所へと誘導する。この時ばかりは武道をやっていて良かった自分と褒めたぐらいだ。

「こうー!俺、先行ってるわー!」
「おーう、分かったー」

帰り道が途中まで同じため、幸一くんは考紀くんに伝言を残してさっさと歩いていった。
その後ろ姿に目配せしつつ小声で幼馴染に伝える。

「話を合わせて…っ」
「は?」
「いいから理由は聞かずに、とにかく私に話を合わせて下さい」
「なんかあったの理音と?」
「……お願い、ちょっとだけ手を貸して」
「…っ!?」

彼の服の袖口を引っ張り上目遣いで頼み込む。ふっ、こうなったら恥を捨て多少強引に彼を味方につけ上手く使っていくしかない。我ながら石ころ程度の良心が痛んでいるが、ここは一人異性の仲間を作っておくほうが得策とみた。

「とにかく詳しいことは後で話すから。そうですね、私の家だと方向的に理音くんに見つかる可能性が高いし、キミの家にしましょう。ひとまず私が先に古藤宅前ぐらいまで走るので、時間差で合流するということで。あ、勿論、幸一くんにはこのこと内密に。いいですか?」

やや早口で喋ってしまったが、地頭の良い彼なら理解が追いつくだろう。
若干戸惑いつつも彼が首を縦に振ったところで「じゃあそういうことで」と言い、次に理音くんへと声をかけた。

「本当にごめんなさい。それでは私はこれで。また明日ね」

理音くんには申し訳ないが、そっちが勝手に決めたことだ。私にも都合というものがあるのだから、これぐらいは了承してもらえるだろう。
ひとまず二人に別れを告げ、足早にその場を離れ、先を行く考一くんにばれないようやや遠回りになるが別ルートで向かうことにした。普段から鍛錬しているため、体力には自信がある。小走りで彼の家までの距離など、今の自分には造作もなかった。

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