第十話「最悪の組み合わせ」

スキー教室。この小学校では毎年5年生の冬に行われる恒例行事だ。
勿論、一回目の人生で経験済みなので知っている。そしてここで私たちの学校と、もう一つ隣町にある学校も同じ日に行われることも。昔は考えもしなかったことだが、おそらく、中学に上がったときに私たちと隣町の学校は一緒の学校に通うことになるので、今から少しでも顔を合わせておこう的な学校側の考えもあったのだろう。
まぁ一緒にといっても行動は別々だし、接する機会はないんだが。
そんなことはともかく私たちは現在、寒い冬山の、真っ白いゲレンデの上に立っていたのであった。

「はーい、じゃあ皆さん班ごとに練習しますからねー」

担当のインストラクターの先生の指示に従って、班ごとに集まる。ちなみに私がこの中で一番仲の良い友人は純奈ちゃんだ。蛍光色のド派手なスキーウェアが眩しいぜ。
皆、先生に分かるように名札はつけているが、とりあえず名前を順に名乗っていく。

「間門静です」
「間門さんね。…あれ、キミ、スノボーもできるの?」
「はい、一応。初心者に近いですけど」

先生が手に持つボードには事前に我々が書いたアンケート用紙が挟まれていた。
スキー経験はあるのか、どれぐらいやっていたか、運動は苦手か得意か、などなど。その子の主観的な情報を得るために。ちなみに班構成をするためにもこの情報は使われているため、班のメンバーのスキーの実力はほぼ一緒だ。おそらく私を除いて。
実はその中の項目の一つ、スキー以外にできることという欄に、私はスノボーもやったことがあると書いたのだ。そもそもスキー自体、保育園児時代から経験がある。元々家族みんなが冬のスポーツが好きだったため、自分の家では冬には毎年このゲレンデに訪れていた。地元じゃここが一番の近場だったし。
しかし人生二回目の私は勿論、スキー経験も同い年の子より上だったので(中身20歳だし)、どうせなら別のものに挑戦してみたいとスケボーを始めたのがきっかけだった。
先生には初心者レベルと伝えたが、5年間はもうスケボー経験があるので、実力もそこそこあると思う。専門の人に教えてもらったこともあるし。
けど最初から過大評価されると後々面倒なので、ここは敢えてレベルを下げておく。

「スキーも加えてどれぐらい経験ある?」
「い…一応、三歳の頃から」
「え、そうなの!?じゃあキミ、上級者の方でいいよ!うん、向こうのチームに入れてもらった方がいい!」
「い、いえっ、できるといっても本当に初心者レベルですから、それに一年ぶりだから身体も追いついてこないかと…」
「いやいやスキーとスノボーできる時点で、他の子より頭一つ抜けているから!」
「えええええぇぇ」

私の内なる願いとは裏腹に、先生は何だか楽しそうに別の班へと私を連れていく。

「杉野先生、この子、こっちの班で見てあげてくれませんか。スノボーもできるらしいんで」
「え、そうなんですか!?それってどっちもできるってこと?」
「ま、まぁ…そんな感じです…」

先生が声をかけたのは茶髪の女性インストラクターだった。20代後半か30台前半ほど比較的若そうな先生で、いかにもアウトドアやってます感満載の人だ。

「全然こっち入ってもらっていいですよ!クラスの先生もよろしいですか!?」
「あ、はい、全然。お任せしますので!」

杉野先生元気だなぁ。しかし最初私を担当していた先生より若そうなのに、この人上級者コース担当なのか。あ、いや、寧ろベテランの方が初心者に教えるのが上手なパターンもあるな。ていうか、クラス担任!もっと気構えろよ!何全部お任せしちゃってんだ!

「じゃあこっちに並んでね」
「はい……」

大人の人たちに言われて反抗できる小学生がどこにいようか。まぁ、いるかもしれないけど、私としては、素直で優しい女子生徒の皮をこんなところで剥がすわけにいかない。
確かに初心者コースは本当に基礎の基礎から始めるので退屈かもしれないが、私としてはメンバーが一番良い印象があったから選んだのだ。前回の人生でも同じコースで同じメンバーの子たちだっため、最も安定したスキー教室になると踏んでいたのに。
…今加えられた班は一番関わりたくない班だ。まず、楓ちゃんがいること。それから考紀くんに百江ちゃん、幸一くん。そして最も避けたかった人物が李衣菜ちゃんだ。
先に述べた4人は言わずもがな、百江ちゃんは単体でならウェルカム状態だったけど、考紀くんがセットとなると話は別だ。変に気を遣って彼女に心配かけないようにしないといけないし。
だかその4人も李衣菜ちゃんと比べればまだ可愛い方だった。彼女は私の一回目の小学生時代で最も忌み嫌っていた人物。
李衣菜ちゃんは私たちが3年生のときに転入してきた子で、はっきり言ってクラス内では今なんでコイツうちに来たんだよぐらいに嫌われているのだ。
その原因としてまず、女子へのいじめ。いじめと言っても彼女一人が行うちんけな嫌味というか嫌がらせが多く、それに対して男子の輪へと入ろうとするよく分からない子だった。典型的なぶりっ子というわけではないが、言葉がキツいところもあるし、自分の気に入らない子にはとことん冷たく当たり、団体行動もあまり読めない、私からすればどんな我儘姫だといった印象を持つ。今のところ私は直接被害に遭ったことはない(というかすごい避けてたし)、けれど先日の放課後、偶然下駄箱へ向かう途中で聞こえた言葉に声が出なかった。

「なー、なんで李衣菜、俺らと帰るん?女子とは帰らんのか?」
「なんでよー!いいじゃん!ウチはあいつら(女子)が嫌いなの!!」

お、おーっと。とんでもねーもん聞いてしまったぞー。
女子が女子を嫌うって別に珍しくもないけど、そんなにハッキリ口にするほど嫌っているのは初めて見たぞ。しかも若干笑いながら楽しそうに答えていたのが余計恐怖した。良かった下駄箱通る前に聞けて。ここでばったり鉢合わせしたときには、明日から私の平穏な日々はないと言っても過言ではない。しかし、この話は未だ誰にも私は話していない。私は極力静かに平穏な暮らしをしたいのだ。誰が好き好んで火種を撒こうか。

そんなわけで今クラスの女子全員にはめっぽう嫌われている李衣菜ちゃん。
クラスの輪を乱す彼女を一部の男子でさえ嫌っている様子が最近うかがえるほどだ。
とにかく彼女とは関わりたくない。だからこの班に入るのは避けたかったというのに、何故。

結局、上級者コースの班に加わることになった私は、杉野先生に言われスノボーで滑ることを提案された。

「でも、これスキー教室ですよね…」
「スキーは大分上手いんでしょう?スノボより経験あるらしいし、どうせならできない方を上達させた方が得じゃない!」
太陽のようにキラキラした笑顔で言う先生に私はもう何も言えなかった。
それから準備運動と基礎的な動きを練習した我々に先生は、またも爆弾を軽く落としたのである。

「それじゃあこれからリフトに乗って、上に行くからね。2人一組でペアになってねー」

うげ、マジか。先生は一人で、残った私たち生徒は6人。リフトに乗れるのは2人だけなので確かにそういう流れになるけどさ、

「こう、行こうぜー」
「おう」

男子二人はさっさと一緒になってリフトへと向かっていった。おい、そこぉ!もっと班で話し合うとか考えろよな!残った女子4人はどう見ても困ってるじゃんか!
私は正直、李衣菜ちゃん以外ならどちらでもいい。頂上まで約5分。その間二人だけで過ごすなんて、李衣菜ちゃんと何をどう話したらいいんだ。あ、寧ろ喋らないとか?それはそれで気まずすぎるわ。
しかしそう思っているのは何も私だけではない。きっと百江ちゃんと楓ちゃんも思っていることだろう。李衣菜ちゃんとは乗りたくない!と。
仕方ない…ここはグッパーで決めるか。そう思って私が口を開こうとしたときだった。

「モモちゃん、一緒に乗ろー!」
「え、…う、うん……」

ご愁傷様です。心優しい百江ちゃんが魔女に腕を引っ張られ、グイグイとリフトへと連れていかれていった。その姿はこれから地獄の門へと向かうかのような…、百江ちゃんが一瞬悲痛そうな顔を浮かべていたのを見て私はそう感じた。
そんな感じで件の李衣菜ちゃんは私たちには目もくれず、百江ちゃんを選んだのであった。
残されたのは私と楓ちゃん。自然な流れで私たち二人はリフトへと乗り込んだ。

上まで約5分。その間に私たちは他愛ない話をしていた。元々、楓ちゃんとは前回の人生では仲が良かった方なので、苦手意識はあっても、一緒にいることに抵抗はなかった。
しかし、私としては楓ちゃんより気になったのが李衣菜ちゃんの動きだ。私たちに視線を向けず百江ちゃんに向かったあたり、おそらく彼女は私と楓ちゃんが特に嫌いなんだろう。私が一回目の人生を送ったときも、李衣菜ちゃんがクラス内でも一番に嫌っていた相手が楓ちゃんだというのは知っていた。くだらない嘘をついてまで先生に言いつけて、間接的に楓ちゃんに誹謗中傷を働いたことが最も記憶に残っている。
勿論、そのあと直ぐにクラスメイトたちがそれはおかしいと先生に真実を告げ、李衣菜ちゃんが楓ちゃんに謝罪を述べたのだが。今振り返っても漫画か、という出来事だった。
最悪なことに人間同じことはするもので、二回目の人生を送ってみれば、先月その馬鹿げた騒動が起きたばかり。つまり先ず間違いなく、李衣菜ちゃんと楓ちゃんは確執があるのだ。だから楓ちゃんを誘うことはないと思っていたのだが、まるで私まで毛嫌いされているような雰囲気がしたのは気のせいだろうか。

「静ちゃん、滑るの得意なんだね」
「う、うーん……そんなに期待されるようなものじゃないけどね」
「あのさ、あとで私にも教えてくれない?」
「スキー?」
「ううん、スノボー。前からやってみたかったんだ」
「いいけど…今日はとりあえずスキー教室だから、時間があったらね」

楓ちゃんはどうやらスキーよりスノボーに興味があるらしい。
私が施設から借りた黒いスノボーを見てどんな風に滑るとか、技はなにがあるのかとか、彼女のはしゃぎっぷりにこの子もまだ小学生なんだなぁとちょっと安心した。

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