第十三話「春の頃」

季節はぶっ飛び、我々はついに小学6年生の2月。もうあと数か月で中学生になるのだ。
なんてこった。ついに始まるのか、あの魔の中学生活が。そう思うと、たとえ中身が20歳の私でも緊張がはしる。しかし、一回目の人生でたくさん学んだんだ。この先の人生が上手くいくように準備だって死に物狂いでやってきた。そうしていつの間にか文武両道の完璧美少女へと進化したのだから。

「静ちゃんどうかしたー?」
「え、…あ、なんでもないよ」

親友に声をかけらてようやく我に返った。そうだった、今は皆ランドセルを背負って学校を出て二列になって集団下校…ではなく、私たちは中学校へと向かっていたのだ。
中学に上がるにあたって、新しい学校について知るために私たちはクラス全員で春から通う中学校を見学しに向かうのだ。普段ならこの時間帯は5時間目の授業を行っているが、今日は中学と共同になって行うもので、勿論隣町の小学校も一緒だ。
一回目の人生で通ったことがあるし校舎の中さえもよく覚えているのだが、よく覚えているからこそどうしても気が滅入ってしまう。しかし、人に言われるほど顔に出ていたとは。

「そういやねー、この間のテレビでなー………」

親友の言葉に耳を傾ける。私より背が低い親友は、まだ成長途中なのかというぐらいに可愛い。天然さんだからか、これから行くとこなどあまり興味がないのか、昨日見たテレビの話をし始める。そんなところがたまらなく愛おしい。そのおかげで、さきほどまでの気持ちの悪さがやっと落ち着き始めた。

それから暫くして中学校へとたどり着いた。私たちの小学校から中学校までの距離は結構あり、よくもまぁ小学生にこんだけ歩かせたものだと愚痴が零れそうになる。対して、もう一つの学校は中学校から見えるぐらいに近い距離なのだから、この差は一体なんだと訴えてやりたいぐらいだ。

「じゃあ、皆靴を履き替えてー」

先頭にいた先生が皆に声をかけた。私と親友は後方にいるので、前方のいる子たちが先に靴を履き替えてくれないと動けない。何故なら来客用の玄関にはスペースがそんなにないのだから。そうしてハプニングは早速起きたのであった。
「え、ちょ、先生たちどっち行った!?」
「何、先行っちゃったの!?」

なんと前方にいた先生と数名の生徒たちが先に靴を履き替えたかと思うと、さっさと校舎内を進んで行ってしまったらしい。その間に靴を履き替えようといそいそしていた私たち後方がそれに気づくはずもなく。

「確か体育館で話聞くって言ってたよ」
「体育館はどこだ!?」

誰かに聞こうにも先生たちどころか、中学校の生徒さえも見当たらない状況。完全に迷子状態の皆は軽くパニックだ。…仕方ない。

「あー…あの、私お兄ちゃんに聞いたことがあるから…多分分かるよ、こっちに曲がればいいと思う」
「そっか〜静ちゃんのお兄ちゃん中学生だもんね」

後ろから指示を出して皆をまとめる。良かった、何とかなりそうだ。しかし、これはきっと先生にはあとで皆から抗議がいきそうだな。まぁ置いていく先生が悪いんだろうけど。そして私の記憶通り、右の曲がり角を曲がれば直ぐに体育館らしき建物が目に見えた。皆が小走りで向かって中に入ると、たくさんの目がこちらを振り向いた。既にもう一つの学校は到着していたらしく、その人数の多さに改めて驚かされた。確か私が覚えている限りでは200人近くはいる気がした。隣町の小学校でも7クラスという最も人数が多い学年だとかで。それとは反対に私たちは一クラスしかなく、最も少ない学年と言われているのだ。対照的すぎるだろ。
なんだか私たちが一番最後だったようで、これは早く行かないと空気が悪くなりそうだったので皆小走りでクラスメイトたちのところへ向かった。

向かう途中、ある人と目が合った気がする。私が最も関わりたくないと思う人物と。



「それでは、今から実際に中学生がどんな風に勉強しているか見学しに行きます。生徒たちの授業の様子を見させてもらうので、皆さん静かに移動してください」

中学校の先生の説明が終わり、早速校舎の中を見せてもらうと同時に授業風景も見学できるらしい。もしかすれば、私の次兄の様子も見れるかもしれない。可愛い妹が見に来てくれるのだ、泣いて喜ぶだろうな。
クラスごとの移動になるようだが私たちはどうせ一クラスしかないので、いつも通り全員での移動だ。

それから校舎の中をざっと歩き、二年生の授業の様子を見させてもらった。私の次兄も今二年なのだが、残念ながら兄のクラスを見ることはできなかった。しかし一番印象に残ったのは黒板に書かれていた内容。とても見覚えのある数式や教科書、どれも私が一回目の人生のときに習ったことのあるものだった。まぁあの頃は清々しいほどに分からなかったがな。
けれど、黒板の問題を見て改めて自分に自信がついた。実は二回目の人生の計画通り、私は既に中学校の内容にも取り組んでいたのだ。小学校の内容はほとんど低学年のうちに片は付いたので、余裕のあるうちに次の学年の分をやろうと進めていったら、今はもう三年の内容まで手が付けられている。そのおかげか、今黒板にある問題全て頭の中で解くことができた。担当の先生が書きだした答えとも一致したときは、自分の今までの苦労が漸く報われたようにも思えた。一回目の人生で私は、中学校の勉強に全くついていけずクラスで最低点を取ったこともあるほどの馬鹿だったんだ。それが今では同学年の彼らより何歩も先を行けて、たくさんの武器を持ってこの世界(中学校)にも挑めるようになった。
勿論、まだまだ余裕はないから、これからもいつも通りの日常を送ることには変わらないのだが。

授業の様子を見させてもらい、廊下に出る。この後はまた体育館に戻って最後のお言葉的なのを、中学校の先生から頂いて帰れるんだろう。
すると私たちの後方から列をなして歩いてくる集団が見えた。何組かは知らんが、隣町の小学校の生徒たちも同じように体育館を目指しているらしい。廊下が混雑するといけないと担任の先生が彼らを先に行かせようというので、私たちはひとまずその場に留まった。
おーおー、見たことある顔ばかりだ。って当たり前か。一度は同じ中学校生活を送った者たちなのだから。しかし、こうして間近で見るとやっぱダメだ。気持ち悪くなってきた。
彼らの中には私に嫌がらせしてきた女の子もいたし、以前の私に告白してクラス中を騒がせた男の子もいたし、二人だけで帰ったことのある子もいた。
嫌な記憶ばかりが蘇ってくる。

「静ちゃん、顔真っ青だよ。大丈夫?」
「…え、そ、そうかな…」
「うん。先生呼んでくる?」
「いいよ、ちょっと貧血なだけ。今日実はアレの日なんだ」
「あ、そっか…。でも無理しないでね」
「ありがとう」

女の子の日だと嘘をつくと、こちらの気持ちを察してくれたのか友人が気を遣ってくれた。
やばい。相当顔に出ていたようだ。落ち着け、自分。もうあの頃の私じゃない。
間門静には戦える武器と身を守れる盾があるんだ。唯一生まれ持っていたのは、窓に映って見える未だに見惚れるほど、綺麗な顔立ちをした自分。それ以外の頭脳、身体能力、スタイル、どれも人一倍磨いてきた。
女として、人間として、できることはしてきたし、これからもするつもりだ。
一度は死んで、もう一度生まれ落ちた私。今度は死んでから後悔しない、自分のために、家族のために。こんなところで挫けるわけにいかないんだから。



それからあっという間に日にちは過ぎて、卒業式。
体験するのは二回目とはいえ、やっぱり小学校の卒業式って一番泣けてくるなぁ。
嫌いな人間はいたけど、6年間皆クラスメイトだったのだ、クラス内の団結力は強かった方だと思うし、一回目の人生でも好きな思い出が一番多かった気がする。

「静ちゃーん、こっち向いて〜」

両親が嬉しそうにカメラを向けくるので、笑顔で応える。しかし、入学式のときも思ったけど恥ずかしいなーこれ。
紺色のプリーツワンピースの上にグレーショートのボレロジャケット。スカートの裾にはレースがあり、襟にはスカートと同じ紺色の大き目のリボン。入学式同様、母がとても張り切ってしまい、ラブリーといったものをたくさん勧められたが、自分にはとても着られないものばかりで雑誌で偶然見つけたこの服にしたのだ。
確かに他の女子と比べると大人しめのデザインだが、私の上等な顔立ちなら寧ろそれが引き立ってマッチすると思ったのだ。しかもこれなら将来アルバムを見ても黒歴史にならない。うん、完璧すぎる。

両親と並んで校門前での記念写真を撮り終えると、考紀くんのお母さんが近づいてきて、一人の子との写真をお願いされた。あれれ〜見たことある光景だぞ〜?

「じゃあ二人ともいくわよー」

ここに入学したときと同様、考紀くんと並んでの写真撮影。今回は前と違って間に“卒業式”と書かれた看板を二人で挟んだ。彼は最初大分嫌がっていたが、お母さんに言われると断れない質だったらしい。
やっぱり親同士仲が良いとこうなるんだろうかねー。普通はこういうの男女じゃあんま撮んないと思うんだけど、両親の前だし。
それでも私は入学した頃より晴れ晴れとした笑顔でいられたような気がする。

ALICE+