第十四話「中学へ」

中学校に入学して翌日。桜舞い散る今、なんて季語を使ってみたいところだが、格好つけはよそう。
私は1年1組の教室へと、同じく1組となった同小の由美ちゃんと一緒に向かった。小学校で6年間1組だったのに、中学校三年間も1組になるなんて変な縁だねーなんて笑いあいながら。
由美ちゃんとは親友を通じて小学校時代も仲よくさせてもらっていた。女の私が言うのは失礼かもしれないがちょっとぽっちゃりしてて、でも純日本人なのにハーフみたいな顔立ちがとても可愛らしい子だ。
同じクラスメイトだったメンバーは7組に分けられ、一クラスに男子3人、女子も3人しかいないのだ。ちなみに一組は私と由美ちゃん、楓ちゃん。知っている人間があまりにもい少ない、このアウェー状態にほとんどの子が緊張しているだろう。
一回このクラスを経験したことのある自分は、勿論誰がいるとか、ましてや一応初めましての相手の名前も知っているぐらいだ。まぁうろ覚えの子も数人いるけれど。

「今日何すんのかなー。まだ授業らしいことやんないみたいだけど」
「きっとまた説明とかじゃないかな」

それから教室に着いてそれぞれ自分の席に座った。私は前方の席で、名簿順からいつもの如く楓ちゃんは私の後ろの席になった。彼女はまだ来ていないようだが。
そういえば由美ちゃんが昨日話した限りではまだ他に友達ができていない、と不安がっていたが大丈夫だろうか。ふと由美ちゃんの方へ視線を送ると、丁度クラスの子が話しかけているのが見えた。どうやら大丈夫そうだ。
これなら私が声をかける必要もなさそうなので、私は私で始業まで時間をつぶすことにした。ひとまずこれから使うであろう教科書でも机の中に入れておくか。

「なぁなぁ、間門って“しずか”って読むの?名前」

しかし、鞄に手をかけようとしたところで隣の席の男子に話しかけられた。この学校、というかクラスごと違ってくることはあるが、席を男女くっつけているのだ。そのため話すとなると、それなりに距離が近くなる。

「ううん。“しず”って読むの。まぁ、しずかって読む方が一般的だもんね」
「へー、可愛い名前だな」
「…どうも。キミは……松坂、亮介くんだっけ」
「え、俺のこと知ってんの!?」
「いや、だって机にネームプレート貼られてるから」
「あ、そっか」

勿論ネームプレートを見たなんて嘘だけど。一回目の人生のときも、クラスで一番最初に話しかけてきた異性が彼だったからよく覚えている。ただ、声をかけられるのが入学翌日というのが記憶と若干違うため気にはなるところだが。
亮介くんは茶色のように色素の薄いクルクルした天然パーマが特徴の男子だ。由美ちゃんみたいにハーフっぽい顔立ちをしていて、女子にも結構人気があったような。まぁでも普通に面白くて根は良いやつだから、私も嫌いではなかったと思う。今見たいに自分から話しかけてくれるし。

「静ってどの辺に住んでんの?」
「長光寺の近く」
「え、そうなの?じゃあ帰る方向一緒だな」
「キミもあっち方面なんだ」

まぁ一緒に帰ることは一生ないけどな。彼の質問に適当に返事をしつつ、静は鞄から教科書を取り出し机の中に仕舞っていく。不味いなぁ、なんだか亮介くんの追求が強い。まだ入学して間もないうちは彼とは知人程度の関係で済ましておきたいのだ。後々面倒なことになってしまう前に。これは前回の人生の経験から、まず最初に回避しておきたいことだから。さてどうしようかと考えていたとき、丁度後ろの席の椅子が動く音がした。
振り返ってみると今登校してきたばかりの楓ちゃんが。おはよう、と挨拶を交わし、私はこれ幸いとばかりに彼女に亮介くんを押し付けることにした。

「亮介くん、この子は宮崎楓ちゃん。私と同じ小学校出身です」
「あ、どうも」
「おはようございます」

対面したばかりで突然のことに二人とも若干戸惑っているのか、何だか気恥ずかしそうに挨拶を交わす。そして私は彼女を亮介くんに紹介し、お手洗いを理由に早速その場から退散した。


はぁああああ、やばい、溜息出そう。まだ登校してちょっとしか経ってないのに、既に疲労感が。これから起こる苦労を思うとさらに辛い。トイレの個室に入り、用を足すわけでもなく、ドアに背を向け寄り掛かった。
別に学校が嫌いなわけでもない、クラスに馴染めるかどうか不安もない。そもそも人間関係に期待は全くしていないし、まともな先生がいないことも知っている。私としては中学なんて高校受験のための勉強の結果さえ残せればいい場所と思っているぐらいだ。
ただその勉強にできるだけ集中できるように、余計な障害は排除しておきたいだけ。女の子同士の辛辣な駆け引きとか、異性との交際とか、部活動とか、そんな青春漫画みたいなシナリオこちらから願い下げだ。しかしそんな願いとは裏腹に、死亡フラグってのはどこにでもあるもので。
例えば今さっきの亮介くんでさえ私の平穏な生活を脅かす要因の一つだ。彼、というより彼と小学校で仲良しグループという意味の分からないグループを作っていた、山橋有真ちゃんが問題なのだ。ハッキリ言ってキチガイ女。
有真ちゃんは1組の女ボスという立ち位置になる子で、一回目の人生での私の中学校生活の半分は彼女によって毒されたといっても過言ではない。そう、それこそ一回目の人生のときに、入学して間もないうちは友達を作るのに必死で、亮介くんが話しかけてくれたときは嬉しかったものだから私も彼と仲良くしようと話しかけたりしていた。しかし、それを見ていた有真ちゃんが「うちらのグループの仲間なのに、なんで他の女子が仲良くなろうとするの」と意味不明の理由で怒ってしまい、彼女の嫌がらせの標的にされたのだ。
とにかく嫌がらせのやり口はあの李衣菜ちゃんを上回る子で、もうとにかく関わりたくない。まぁ同じ教室にいる以上、関わらないなんてことは不可能なのだけれど。

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