第十五話「新しい環境」
「はい、チーズ」
フラッシュともにパシャリと音がした。今、私たち1組は校庭の桜の下で写真撮影を行っている。始業の後に、学校の一年間の予定や、行事、授業の受け方など学校生活の細かい説明を受けた。それから簡単に自己紹介をして、班もつくられた。とりあえず名簿順でつくられたので、私は楓ちゃんと、そして例の亮介くんに、あと男子2人と女子がもう一人。有真ちゃんと一緒でなかったことが一番の救いだ。
そうして今日のメインが終わったようで、先生の提案で校庭の桜をバックに皆で集合写真を撮ろうということになったのだ。校庭に出てみると私たち以外のクラスもやってきていて、おそらく生徒たちが少しでもクラスに馴染めるよう、学校側の考えなのだろう。写真撮影のあとは30分程校庭を好きに回って良いと言われたし。
私は由美ちゃん、楓ちゃんと一緒に、桜の下にある花びらをのほほんと見ている…のではなく四葉のクローバーあるかなーってしゃがみながら話していた。
まだクラスの女の子たちとそこまで打ち解けていないので、自然と三人一緒になっていたのである。
「ねぇねぇ、静ちゃんっていうんだよね?」
地面に顔を向けていたので頭上から声をかけられ、顔を上げると3人の女子が立っていた。彼女たちはクラスの女子たちだ。そのうちの一人の子は、始業前に由美ちゃんに話しかけていた子で、今私に声をかけてきただろう相手だった。
「あ、美帆子ちゃん」
由美ちゃんが彼女の名前を口にする。美帆子ちゃんという彼女は、女子の中でも背が高く、明るく元気という言葉がぴったりなパッチリ二重の瞳をもつ可愛いらしい子だ。しかもリーダーシップがあって、一回目の人生のときもよく女子をまとめてくれていたのだ。だからだろうか、こうやって別の小学校出身の私たちにも積極的に話しかけてくれる。
「うん、間門静です。よろしくね」
「静ちゃんって、あの、変な気分にさせたらごめんなんだけど、めっちゃくちゃ可愛いね!ウチ、前から話してみたかったんだ!」
「あ、ありがとう」
とても良い笑顔で褒められた。悪い気はしないが、まさかここまでグイグイこられるとは思わなかった。
「目おっきいし、顔ちっちゃいし、なんかモデルとかやっとんの?!」
「いやいや、全然、全く無関係です」
なんでモデル?あり得ないだろ。この私が?確かに、千年に一人とかなんとか言われたぐらいに可愛いよ。今だって時々鏡(に映った自分)を見つめちゃうぐらいだけども。
女子にそこまで過大評価されるとは思わず、少したじろいでしまった。
「そうなんかー。いやーてっきりそうかなーって」
「静ちゃんと楓ちゃんは、ウチらの小学校の自慢やで。美人タッグだもん」
え、そうなの?ちょ、お姉さん初耳だけど。私と楓ちゃん、いつの間にセットで見られるようになってたの。今回の人生じゃ私そこまで楓ちゃんと仲良くしてないよ?別にお互い毛嫌いしているわけじゃないけど、学校以外で彼女と遊んだこともないし。
「いや、私なんか静ちゃんと一緒にしちゃだめだよ。もう天と地ほどの差があるから」
「何言ってんの楓ちゃん!楓ちゃんだって可愛いに決まっとるに!」
女子たちの無限ループのようなこの会話に私は入る勇気がない。自分より相手がどうとか、いつまでマウンティングしてんだよ。
「でも、1組だけじゃなくて他のクラスの男子も狙ってるみたいだから、気をつけなね!」
美帆子ちゃんにそう言われて肩に手をポンと置かれた。気を付けるって何。決闘なら負ける気がしませんよ。これでも合気道6年間続けてきているのだから。
…まぁ、なーんて、流石に私はそこまで気づかないほど馬鹿じゃない。それに視線を四方に向ければ、ちらほらこっちに視線を向けてくる男子もいるし。これでも中身20歳だ、彼らが何を考えているかなんて大体想像がつく。
しかしどうせそこからアクションを起こせる人間なんて早々いないのだ。最近の若い子は特にそういったことには奥手だと、上の方々から渋く言われているぐらいだしな。だから、こちらから何もしない限り別に問題はないだろう。私は名前の通り静かで平穏な時を過ごしたいのだ。
それから美帆子ちゃん以外の女の子たちとも話したりして、私たちは少しずつクラスの中に溶け込め始めることができたであった。女の子たちでお喋りしていると、担任の先生から号令がかかり教室に戻ることに。
今日はあと各班の掃除場所で、それぞれ書かれてある指示通りに掃除をして帰宅だ。
通常の授業は明日から始まり今日はとりあえず説明だけだった。まさか午前中で終わるとは、なんてラッキーなんだ。さっさと掃除終わらせて皆で帰ろうぜ。
「雑巾ってどこまでかければいいんだ?」
「私たちの担当はあそこの白いテープまで。そこから先は2年生の担当だから」
「おぉ、詳しいな、静」
「…た、確か…やり方のとこに書いてあったと思う」
まさか一回目の人生でこの学校の掃除分担全部やったことありますなんて言えるわけもなく、適当にはぐらかしてその場をやり過ごした。
班の中で今のところ話せる人間といったら楓ちゃんに亮介くんぐらいだ。残り3人は勿論私の記憶の中ではよく知っている人物たちなのだが、向こうにとっては初対面の筈なのだから馴れ馴れしく話しかけるわけにいかないし。私もそこまでできた人間じゃないから、自分から声をかけることはできなかった。
もう一人の女子の名前は細川優香ちゃん。私の前の席の子で、この子だけ実は地域の小学校出身ではなく、この春こっちの市に引っ越してきたばかりなのだ。つまり、優香ちゃんは私たち以上にアウェーなこの場で新たな仲間と一緒に過ごしていかなければいけない、という肩書ではあるが、都会から来た子なので元々人付き合いも上手でちょっとおませな子だったと記憶している。一回目の人生のときには確か「ねぇ嵐って知ってる?」と自分の好きなアーティストの話をいきなり持ち掛けてきて、私と友達になろうとしてきてくれた。
掃除を終わらせて教室に戻る。途中、他のクラスの前を通るので私はつい親友の姿を探してしまう。親友は4組なのでちょっと離れてしまったけど、今日だって一緒に帰る約束をしているし、クラスが離れようとできるだけ一緒にいると決めている。
「あ、静ちゃーん」
「芳子ちゃんっ、」
どうやら向こうが気づいてくれたらしい。そして恒例の感動の再会とばかりに抱きしめあうのは女子ならではな気がする。親友は私以上に人見知りが激しい子でとても大人しい方なので、新しい環境にきっと不慣れなことばかりだろう。私は一回目の人生のときに、親友とはクラスが離れてしまったことから段々と親交がなくなって、3年生の冬になるまでまともに喋らなくなるほどだったのだ。それから親友が三年間どうやって中学生活を過ごしていたかを後々に聞いてとてもショックだった。クラスの女子や担任の先生とも上手くいかず、結局嫌な思いばかりをさせてしまっていたから。あの頃、一言声をかけてあげれば良かったと何度悔やんだか。
「放課後校門で待っててね」
「うんー。一緒に帰ろうねー」
だから今度は間違わない。きっと守ってみせる。今の私なら彼女を守れる武器がある。