第十六話「基本的に女子の味方です」

授業も始まり、遂に本格的に中学生生活がスタートしたという感じのこの頃。
今のところ私は平穏に日々を送れている。このクラスで一番注意する相手の有真ちゃんとも距離は置けているし。
そして中学生にもなれば部活に入る生徒が殆どだが、私は敢えて帰宅部を選択した。ちなみに一回目の人生のときには卓球部に入り、バリバリの運動部員をしていた。両親にはできれば運動部に入るよう言われていたし、小さい頃やったことのある卓球なら自分でもできるんじゃないかと思ったのだ。
しかし入ってみて良い思いをしたことは正直一回もない。見学のときには優しかった顧問の先生も、入部した途端性格が変わったかのように厳しくなった。それは勿論運動部なら必要なことかもしれないが、当時の私は普段の学校でも上手く生きることができなかったため、あの部は余計に自分を苛めるばかり。そこそこ良い成績を収めることができたが、別段誇れるような結果でもなかったから受験にも役立たなかった。平日と休日も奪われて、元々勉強することを知らなかった私には学業にも支障が出て、今思えばあんなに苦しい思いをした割に、得たものは何もなかったのだ。
以上の経験から、二回目の人生では部活動には入らないことにした。そもそも私は小学校から今現在も合気道とピアノを習っており、合気道は県内3位、ピアノではコンクールに出させて頂けるようにもなった。双方の実力ともに申し分ない結果は出てきているので、部活動で爪痕を残さなくても良いと判断したのだ。また、学校の成績も良かった私に両親も習い事を続けるのであれば、部活動はやらなくていいと許可をくれた。
朝部活もないから、ゆっくり余裕を持って学校に登校できる。前は朝早くから一人で歩いていた道も、隣には大好きな親友がいて一緒に歩けるのだ。

「あー疲れたー」
「お疲れ、そしておはよう」
「いいよなぁ静は朝ゆっくりできて」

朝から私に愚痴ってきたのは藤本玄吉。亮介くんの前で、優香ちゃんの隣の席の少年、同じ班のメンバーの一人である。小柄でひょうきんな彼だが、こう見えて実は社長の息子というお坊ちゃまなのだから世の中何があるか分からない。
元吉と亮介くんは陸上部に入部して、今日も朝の練習をしてきたらしい。

「腹減ったー」
「おい、大智。お前今から腹減っててどうすんだよ、給食までに死ぬ気か」
「朝からすげぇ走らされたんだよー」

彼らの後に続いて来たのは、背の高い大柄な男子、松里大智である。
実は大智くんとは小学校の頃に一度だけ会ったことがあるのだ。彼が小学校時代に柔道を習っていたことから、私の父親と練習する機会がありそのときに。と言ってもお互い顔を合わせただけで何も話さなかったので、彼の方は私を覚えていないようだった。今はサッカーに夢中なようで、サッカー部に入って元吉くんたちと同じく朝練帰り。

そうした彼ら三人と、私と楓ちゃんと優香ちゃんの女子三人が中学最初の班構成だ。
これは一年生の一学期までの、おそらく三年間において最初で最後の班構成になる。私がどうして彼らのことをそれほど覚えているかというと、単純に言うと、一番楽しい班だったから。
男子三人はクラス内での中心メンバーが見事に揃っていて、とにかく彼らは馬鹿みたいにユニークな性格をしていた。そのバカ騒ぎに巻き込まれるのが私たち女子でいつも何かで笑っていた気がする。だから他の班よりどこか注目の的になっていたし。

そして中学に入学してまだ日が浅い私たちに、遂に最初の行事がやってきた。一か月後に迫るクラス対抗のバレーボール大会である。まぁひとまずチームプレーでクラスの団結力をより深めようというのが目的だろうけど。
男女混合チームなので、教室の班構成通りにチームが組まれたのだ。

今日の体育の授業でもそれに備えて練習になった。しかし私たちのクラスにはバレー部員が女子に一人しかおらずクラス全体の実力は一番下、優勝を狙うのは厳しいのが現実だ。だというのに…。

「チーム戦で一位になりゃいい!」
「どうせクラス順位は最下位だろうしな」

私たちの班の男子は諦めが悪いようで。まぁクラス対抗の場合、チーム戦で上位にいるチームが一番多いクラスが優勝になるが、鼻から優勝狙いではなくただチームで一位を狙いたいらしい。つまり試合に勝って戦いに負ける、ということ。

「俺らならいけるら!俺と玄吉に亮でカバーすればなんとかなるし、静も結構強いし!」
「楓たちもパスはできるしなぁ!イケんじゃね?!俺ら!」

大智くんが一番やる気に満ちている。男の子って本当に勝負事好きだよなぁ。
確かにクラスでもトップクラスの運動神経の持ち主の三人に、それなりに動ける女子たちなら、負けばかりはないと思うが、一位を狙うとなるのはそう簡単な話ではない。
他のクラスにはバレー部員が数名いるところもあるのだ。男女混合となれば男子バレーと女子バレーの生徒が一緒のチームを組んでいるかもしれないし。
それなのに私まであてにしてくるとは。私はそもそも球技があまり得意じゃないんだよ。前回の人生でも私はクラス対抗バレーで散々な思いをした覚えがある。バレーは特にチームプレーが命なので、できない人がいると足手まといになるだけなのだ。無駄にプライドが高かった私は自分のせいで負けるのが許せなかった、私にそんな思いをさせる大会まで憎んだぐらいに。でも今、二回目の人生を送っている自分は身体能力が以前の自分と比べると全然違っていた。ボールがゆっくり動いているように見えた、というのは大袈裟かもしれないが、幼少期から武道をしているためか洞察力や瞬発力が鍛えられたみたいだった。視野と反応力が普通の女子より上回っているようで、だから小学校時代も運動は頭一つ分抜けていたのだと思う。おかげさまで身体が軽いから自分の意のままに動けるしね。でも、まさかそれが球技にも活かせるとは思わなかったな。

「静、お前、楓たちのフォロー入ってやってな」
「……はいはい」

大智くんが私を指さして言う。なるほど、男子はなんとか点を取りにいくから女子のフォローは私に任せると。いや、任せっきりじゃねーか。相変わらずの彼らに苦笑いで応えておく。

「ごめんね、ウチあんまバレーできなくて…」
「いやいや優香ちゃん大丈夫だよ、バレーはボール落とさなきゃいいんだから。それに優香ちゃんのパスはレシーブしやすいもん」

2人でレシーブ練習をしていたとき、優香ちゃんが私にそう言ってきた。勿論、優香ちゃんが謝るようなことは何一つなくて、寧ろ、一生懸命練習する姿は立派だと思う。
楓ちゃんは別のところでサーブ練習をしている。あの子はやっぱり一人黙々と練習する方が性に合っているようで、とても集中した顔つきをしていた。
各々の苦手分野を練習してはいるが、やっぱり上達するまでに時間はかかる。正直言って、普段の体育の授業だけでは練習量も限られるので恐らくこれ以上彼女たちに実力がつくのは難しいだろう。優香ちゃんもそれを見越しているのか、気を遣ってくれているようだし。チームで足を引っ張ることの辛さは私も身をもって経験したことがある。

だからこそ、そんなに気に病むことはないと伝えたい。
私にだって考えはある。

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