第十七話「フラグ回収」
遂にやってきた決戦の時。私も準備は間に合った。今日は優勝する気は特にないが、チームメイトの女の子が困っていたら助けられるぐらいには動けると思う。フォローしろって言われていますしねぇ。
一試合12点先取して2セットを先に取った方が勝ち。チーム数が多いので早く回していくための変則ルールだ。
女子たちの中には二つ縛りや編み込みで髪をまとめて可愛らしくしている子もいる。中には先生に注意を受ける子もいたが。中学生になってお洒落に気を遣うのも分かる、でも今日はあくまでスポーツをする日。
私は稽古のときと同様、普段は降ろしている髪をシンプルにやや高めの位置でひとまとめにした。まぁ私は顔が良いからこれで十分だし、なんて考え口が裂けても言えんけど。
そういえば二回目の人生になって、私が神様から与えられたものはこの顔だけでなく、髪の毛の質も違うのだ。以前は毎朝アイロンしていた程にひどい癖毛だったのだが、何故か今は生まれながらにサラサラのストレートヘアになっていた。心なしか艶も良い。未だに触っていて本当に自分の髪の毛か疑いたくなる。手入れは心がけているが、朝に寝ぐせなんて殆どないし、行きつけの美容室でも毎回褒めていただける。うーん摩訶不思議。
クラスの朝礼が終わったら体育館へ移動。
そういえば他のクラスと一日一緒に過ごすのは入学以来初めてだ。時々行われる全校朝礼であったり、学年集会なんかで顔を合わせることはあってもそれ以外は特に関わらない。
はっ!つまり私も時間が合えば、親友とイチャコラできるわけだ。
朝一緒に登校したときにクラスマッチって憂鬱だなーと今日の日を心底残念がっていた我が親友を探すために、辺りを見回すがまだ体育館には来ていないようだった。
そして親友を探すために私が四方に視線をやるので、周りにいる男子生徒とチラホラ目が合う。いや、お前らじゃない。私が会いたいのは芳子ちゃん。
結局そのあと直ぐに友達と指定された場所に荷物を置きに行った。今日は一日体育館なので、貴重品だったり水分補給などは見えるところに置いておくことになっている。ちなみに給食も今日は出ないのでお弁当も。
お弁当の中身の一つ、ハンバーグは私が昨日祖母と作ったものだ。それ以外の具材は今朝母が詰めてくれていたけど、まだ中身は見ていない。お弁当を食べられるのは実に久しぶりなのでちょっとわくわくする。
そうして私がお弁当のことなんて呑気に考えていたからなのか。階段の踊り場を通る際に、向こうからやってくる数名の男子の一人の肩に軽くぶつかってしまった。
「あ、すみませ…」
「こっちこそゴメンね」
最後の方で言葉が出てこなかったのは勘弁してもらいたい。
いや、だって不意に顔を合わせたら誰だって驚くでしょうよ。それが前回の人生で中三のときに色々あった男の子だったら尚のこと。
私も反射的に直ぐ顔を逸らしたから別に変な行動はしていないと思うけど、変に緊張が走ってしまった。これでも何度も合気道の大会に出ているから精神は結構鍛えられた方だと思うけど、まだまだ修行は足りなかったようだ。
その後通り過ぎた男子たちは、私がぶつかった相手の男の子に小突いてニヤニヤと話していたあたり、またしょうもない話をしているんだろうな。
分かってはいた。この学校で三年間過ごすのだから、何時かは顔を合わせることがあるって。にしたってフラグ回収早すぎないか。一回目の人生のときじゃ彼と知り合うのは確か二年の後期だった筈。やっぱり少しはズレが生じるものなのか?
その後、学年主任の先生のありがたーいお言葉を頂き、準備運動をして早速試合が行われることになった。コートは4つあるので順々に終わってから入っていく仕様だ。私たちはまだもう少し先なので、ひとまず自分たちのクラスのチームを応援しに行くことになった。優香ちゃんと一緒に行動して目的の場所に向かう。
あ、どうやら有真ちゃんたちのチームのようだ。これは一生懸命応援せねば。相手チームは……うん、どうしてそうなった。
相手側コートのチームには自分が今日一度ぶつかった男子生徒がいた。嫌だなぁ、さっきのこともあるしつい目線がいってしまう。なんて思った矢先にまた目が合ったし。
やめよう意識するのは。意識するからダメなんだ。いっそのこと有真ちゃんたちを応援して、有真ちゃんたちにぶっ倒してもらおう。それがいい。
「男子たち、静来たらすごい気合入ったね」
「えー…し、試合が始まるからじゃないかなー…」
優香ちゃんが面白そうに言ってきた。なんでそんなに楽しそうなのこの子。全く人の気も知らないで。
ふと隣のコートの方へ見やれば、自分の見知った人間が話せる距離にいたことに気づいた。
「おはよう、考紀くん」
「あ、おう」
幼馴染の彼もまた同じように自分のクラスメイトを応援しに来ていたようだ。
そういえば入学以来初めて喋るな。彼は2組なので、隣のクラスではあるが直接会うことも今までなかったし。
「俺ら一回戦で当たるよな」
「あ、そうなの?」
「え、確かそうだったけど。トーナメント表見てないの?」
「見たけど……対戦相手までは覚えてない」
「おいー見ろよー」
「まぁいいや。お手柔らかにお願いします」
何だ。知っている人間ならやりやすいな。これならさっさと試合終わらせてゆっくりできそう。
「ねぇねぇ、」
「?」
不意に私の横にいた優香ちゃんが腕をつついてきた。あれ、またなんか楽しそうな顔だぞこれ。
「今の人、友達?」
「うん。……え、友達、なのかな?」
改めて問われると答えに悩む。小学校時代なら異性の中でもそれなりに話したほうだと思うけど、別にそこまで親しいとは思ってないし。ただ赤ん坊の頃からの付き合いというか。
「…まぁ、ざっくり言うとただの幼馴染ですね」
「幼馴染なの!?」
「うん、でもそれだけだよ。世間話話す程度だし」
あ、でもたまに宿題手伝ってもらったりもしたから、勉強仲間ともいえるな。いや、でも今の私は彼より頭良いからな。同レベルには思われるのは何となく癪だ。うん、やっぱり幼馴染という名の知人といったところだろう。
「幼馴染なんだ〜ふーん」
「………何を考えているか知らないけど、本当にただの幼馴染だからね」
「今でもお喋りしてるのに?」
「いや、喋るって…挨拶交わすぐらいだし」
なんだこの新しい玩具でも見つけたかのような笑みは。どうした優香ちゃん、何を見つけたというのだ。女子ってほんとに分からないな、自分女子だけど。