第十八話「ヒーローとは名ばかりの」
あれから私たちの班は見事に試合を勝ち進んでいき、ついに決勝戦にまで上り詰めてしまった。結局予想通り、1組の私たち以外のチームは全滅になってしまったが、唯一生き残った我々がここで勝ったとすれば最下位は免れるかもしれないのだ。
「がんばれー!!」「集中しろぉお!」「玄吉ふざけるなよー!」「なんで俺だけー!?」
クラス全員の声援が横から聞こえてくる。こんなに注目されるのは大会やコンクール以来だ。私たちの相手は優勝候補と呼ばれているチームで、なんと現役バレー部が3人いるらしい。この際、チートすぎんだろという突っ込みはもう閉まっておいた。
試合開始の笛が鳴ってから、皆必死に食らいつこうとしているが、なかなか私たちの方に試合の流れが転ばず。1セットは取り返したが、ラストのこのセットで先に点を取らないと負けが決まってしまう。そんな中で相手が特に狙ってくるのが優香ちゃんだった。
このチームでは実力が下の優香ちゃんに狙いを定めて、彼女にばかりボールを持っていこうとするのだ。優香ちゃんも慣れない試合についていくのがやっとのようで、正直見ていて可哀そうだった。
自分がボールを落としてしまったら相手に点が入ってしまう、そのことが錘になってどんどんボールを取るのが恐怖になってしまう。その気持ちを痛いほど私は知っている。
一点取り返してもまた直ぐ取り返されて、点差は縮まらない。
「優香!」
「…ッ、」
「私取りますッ」
迷わずフォローに入った。優香ちゃんに当たったボールが地に落ちる前に走って、そのまま身体を倒してボールを拾い上げる。これで二回ボールを投げたことになる。しかし不安定なまま上げてしまったので、ボールは場外へ飛んで行ってしまった。誰かが拾わなければ。
「げんきちー!!」
「うぉりゃあああああ!!」
私がそう叫ぶと同時に一番近くにいた玄吉が奇妙な掛け声とともに身体ごと突っ込み、見事ボールを拾ってそのまま宙高く飛ばしてくれた。そしてボールは相手側のコートの端っこへ、落ちた。
ピッという笛によって審判が私たちの方へ手を挙げる。こちらの点だ。
「げ、…げんきちぃ〜…ッ」
「俺はやればできる男だからな…!!」
私は思わず感極まってしまい身体を横に倒したまま名前を呼ぶと、玄吉は仰向けに倒れながらも顔はこちらへ向けていてグッと親指を突き上げていた。床に寝っ転がりならお互いの健闘を称えあうという、普通に考えたら可笑しな光景だが、私たちの奇跡なプレーを誰か思い出してほしい。
その後、楓ちゃんが心配しながら起き上がらせてくれた。今のプレーで何だか私たちの絆も深まった気がする。
「ありがとううう静っ…!!」
「これぐらい任せて。バレーの試合はこれぐらい普通だしね」
「うん…!でも、私迷惑ばっかかけちゃってるから…」
優香ちゃんが半泣き状態の様子で私に謝罪してきたけど、何を言っているんだいチームプレーなんだからこれぐらいやって当然だよ、なんてクサい台詞は私には似合わないので、とりあえずこれだけ伝えておくことにした。
「大丈夫。もう試合は終わらせるから、待ってて」
あれ、これ大分恥ずかしい台詞じゃないか。クサい台詞とか言いながら、普通に言っちゃってるよー自分。…まぁでもいいか。さっきの皆の連携プレーを見て、この私が何もしないわけにいかなくなってしまったのだから。
見ていなさい、少年少女。私の友達泣かせるとどうなるか思い知らせてやろう。
今回のバレーボール大会のルールの中には、現役のバレー部員が相手コートにサーブをするときにジャンプサーブをしてはいけないというものがあった。できるだけ試合が公平になるようにというわけだ。
だから、何が言いたいかというと、現役のバレー部員でもなければ運動部でもない、ただの帰宅部がジャンプサーブをしても違反にはならないのである。
ダンッ、ダンッ、ボールを床に叩く音が体育館に響き渡る。
ピーッという笛の音が聞こえると、一度深呼吸をし、そしてボールを軽く頭上へと上げて掌でトンッとコートへ向けて打った。ボールは相手コート端へ飛び、まさかそのままコート外へ落ちてしまうか、とも思ってしまう瞬間、フワッと重力に従って落ちた。コート内へと。そして今度は、
うおぉおおおおお!!!という地響きが起きたかと思うほどに煩い歓声が上がった。
「かっけぇええ!」「しずぅううう!!」「っっ!?」
優香ちゃんたちが私の元へと駆け寄ってくる。まさかサービスエースを取るとは思わなかったらしく、わんわんと喜んでくれた。いや、私も勿論嬉しいのだけど、ちょ、女の子2人の抱きしめる力が何気に強かった…ッ。
そのあとは宣言通り、残り3点を全てサーブだけで制してみせた。いくら現役バレー部の生徒でも、中学一年生の子ならまだまだレシーブ経験は浅い。ボールが取れなければ試合は続かないので、サーブで制してしまえばいいと思ったのだ。
実はこのフローターサーブは、同じ合気道教室に通う元バレー選手に教わったもので。
大学までバレーをやっていたという社会人のお姉さんに、今度バレー大会があると言ったらこの技を伝授してくれたのだ。正直言って習得できるか自信はなかったが、今世の私は本当にチートなのか、3週間ほどで難なくサーブが打てるようになっていたのであった。
これを使うのは本当にピンチのときだけと決めていたので、最後にこれで締めくくることができて良かった。お姉さんには今度菓子折りを持っていこう。
「静、バレーやってたの?」
「いいえ全く」
「はぁ!?嘘つけサーブ打ってたじゃん!」
「それだけだよ。フローターだけね。あとは皆と同じ初心者」
まぁ確かに、普通はただの帰宅部のなせる技じゃあないものね。自分でもよく分からない浮遊感に包まれているように感じる、が、現実なんだよなぁ。
「もうヒーローみたいだったよっ」
「うん、マジで格好良かった!」
女子二人は私をヒーローだと言うが、そんなに持ち上げられると…逆になぁ。
というかいつも静かで平穏な暮らしをと言っていた割に、たまにこうやって自分でも驚くようなことをしちゃうとは。こういう自分の後先考えない性格は、一回人生送っていても変わらないのだろうか。