第十九話「恋せよ少年少女」

クラスマッチ以降、私のクラスでの立ち位置はどえらいことになっていた。
一回目の人生で私はそもそも彼らのことを勝手に拒否して、そりゃあある事件で勝手に話題にされたことはあるけど自分じゃ教室の隅で過ごしていた方だと思う。
だが今世において、私、間門静はクラスの中心メンバーの一人、というかそういう人たちに引きずり込まれたというか。だってあの有真ちゃんがこの私に凄い笑顔で話しかけてくるんだよ?移動教室のときに一緒に歩くなんて考えられない。寧ろ一緒に行きたくないんだけど。貴女といるといつどこで地雷を踏むか、考えると恐怖でしかないわ。

「ねぇ、静ちゃん好きな人いる?」
「……はい?」
「好きなタイプでもいいよ!」

今日も理科の授業への移動途中、優香ちゃんと一緒に行くはずが有真ちゃんとそのお友達もセットでついてきた。優香ちゃんはまだ有真ちゃんと知り合って間もないので、彼女の本性を知らないため、普通に彼女を受け入れている。優香ちゃんには早々に分かってもらいたい、女の裏の顔というものを。

「いやー…あ、そういう有真ちゃんはどうなの?」
「有真のはいいのよ!」
「でも大人っぽいし、そういうの詳しそう。ねぇ?」

隣にいる優香ちゃんにも声をかける。できるだけ有真ちゃんと二人だけで会話を進めたくないのだ。有真ちゃんは確かに一回目の人生のとき私に嫌がらせをしてきた性格に難がある子だが、実は、後々2年生あたりから少しずつ性格が丸くなってくる子でもあった。だから3年生のときには苦手ながらも話せてはいた。しかし、今はおそらくまだ性格が捻り曲がった女の子なので、流石に仲良くなるのはまだ先でいたい。そのためにも、会話も端的に済ませておくのが良いのだ。

その後、なんとか有真ちゃんをかわし、理科の実験室での実習中のときにピンク色の紙きれを前の席に座る亮介くんから渡された。あぁこれは中学生特有の授業中の手紙交換か。亮介君が「有真から」と言っていたので思わずグシャリと握り潰しそうになったが。
ピンクの紙には書かれていた内容は―――

“静ちゃんと話したいって人がいるんだけど、会ってもらってもいいかな?ちょっと会って話すだけだから!OKなら返事ください*”

―――見なかったことにしたい。
けれどそういうわけにはいかず、大丈夫ですとだけ書いてもう一度亮介くんに渡す。
断ると後で何を言われるか分かったもんじゃないので、了承するしか他ないのだ。

「なぁ、何書いてあったの?俺見てもいい?」
「いやそれは有真ちゃんに聞いた方がいいと思うけど…」

まぁこういった女子同士の手紙の内容を見ていいなんて本人が言うと思えないので、一応忠告はしておく。しかし恐れ知らずというか馬鹿なのか、亮介くんはバレないように折りたたまれた紙を開く。おい、私はちゃんと言ったからな。

「俺にも見せてよ亮ちゃん」

ついには玄吉まで覗いてしまった。実験室では4人で一つの席を使用するため、玄吉と亮介くん、優香ちゃんと私たちが一緒になった。嗚呼、もう知らないからな、あとで有真ちゃんに言っておこう。誤解が生まれないように。
それからもう一度有真ちゃんの元に渡るよう後ろの席の子へ手紙を渡した。

「いやぁ…やっぱモテるんだな静って」
「え、そうなの?俺全然知らなかった」
「めっちゃ人気だよ、上級生とかも狙ってるって先輩が言ってた」
「優香何部だっけ?」
「女バスー」

キミたち一応今実習中って忘れてないかい?今日は簡単な内容だったからいいけど、ちょっとは授業に集中しなさいよ。一応、前世で理数系の大学に通っていたので実験には慣れていたが、中学生って本当にこういうの興味ないんだなぁ。

「だってこんなに可愛いんだからモテて当然でしょ。うちのクラスの男子も絶対好きなやついるって」
「マジで?!優香知ってんの?ちょっと誰なのか教えてくれよ」
「玄吉にはまだ早いよ」
「はあ!?俺が知ったっていいでしょうがー、なんでケチんだよ優香―」
「逆に静は好きな人いるの?」
「……え、何?」

ごめん。温度計見てたから全然話の内容入ってこなかったわ。

「だから好きな人!いる!?」
「いないよー…まだ私たち中学生でしょうが、恋愛って早いような気が……」
「何おばさんみたいなこと言ってんのッ」

おばさん!?確かにこの世に生まれたときから中身20歳だったし、そこからもう10年以上経ってるから精神年齢は確かにアラサー近いけどさ!?

「今、ウチらの年齢で付き合ってるやつなんて普通だよ!小学校からの人だっているんだから!」

え、そうなの?おいおい、小学生怖いな。産まれて数年しか経ってないのにもう愛を知るのか。それだと彼らからしたら私ってどうなるんだ。

「確か、2組の後藤くんって6年の時に5組の若林と付き合ってたよな?」
「あぁ知ってる。今はどうなんか知らないけど」
「ほら〜」
「へぇ……キミたちの小学校、すごいね」

私たちのクラスじゃカップルなんていなかったけどな。まぁ田舎の中にあるような小さな学校だったし、皆年相応の成長をしていったんだろうな。
しかしこんな早いうちから恋愛してて何が良いんだか。一度20歳まで生きてみたが、生きていて、学業をこなすにあたって恋愛は邪魔でしかないという考えに私は至った。
大学生活を送っていたとき、彼氏と喧嘩して死んだような目をした友人がいたし、彼氏と遊んでいたら課題終わらせる時間がなくなって大変な思いをしていたし、テスト期間に彼氏と別れ話にまでもつれて私生活が滅茶苦茶になった子もいた。
それを見ていて、自分のことで手いっぱいになるのは分かっているのに、どうして他人のために私の時間を削らなきゃいけないんだろうと思ったのだ。家族とは違って、血の繋がらない赤の他人なのだ。ましてや異性なんて根本的に考え方が違ってくることが殆どだ。分かり合えないのに分かり合おうと必死になって何が良いんだろう。そんな時間外労働みたいなことは私にはできない。リスクが高すぎる。
それにまだ精神的にも発達途中の中学生が付き合ったって長続きしないことは目に見えている。彼らはただ恋に恋しているだけなのだ。現実をまだ知らないただの子供だから。
と、まぁ私はこう結論付けているが、前世の私だって普通に恋に恋していた身ではある。好きな男の子だっていたし、好きなってくれる子もいた。果たしてあれが付き合っていたかと聞かれると曖昧なところはあるが、大人になって青春してたなーみたいな経験はあった。
しかしその経験があったからこそ中学生で恋愛なんて必要ないと思っている。だから今世の私はそんな青臭いことをする気は毛頭ない。

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