第二十話「頼れるのはやっぱり」
この間、私は確かに心に言っていた。中学生で恋愛する気はないと。
「えっとー……初めまして、5組の青山定彰です」
そしてそんな思いを抱く私の目の前に立つ定彰少年は、何を考えて私に自己紹介してきたのだろうか。
何故このようなことになったかというと、話は数分前に遡る。有真ちゃんの手紙にもあったように、火曜日の放課後、私は彼女に手を引かれ足早に校門まで連れてこられた。そこに立っていたのは一人の男子生徒で、有真ちゃんはちょっと待っててと私に言って男子の元へ走って行った。何を話しているのか知らんが、有真ちゃんが大分強引気味な様子は伝わった。あとすごく楽しそうなのも。
「いいからっ、この間言ってたまんまに喋ればいいんだよっ」
「言ってたままって、だからさ、いきなりすぎだし…っ」
有真ちゃんが強めの口調で男子に何か言って、今度は私の方に彼を連れてきた。
そしてドンッとなかなかに良い音がする程彼の背中を押す。うわっと言いながら男子生徒が目の前に出てきた。そして冒頭の話に戻るというわけだ。
「どうも、1組の間門静です…」
向き合う二人の男女って、ベタすぎるだろ。私たちの後ろの方にいる有真ちゃんはニヤニヤと笑っているけど、絶対あの子が仕組んだなこれ。
「そのー…いきなりなんですけど…俺と友達に、なってくれませんか?」
心なしか定彰くんの顔が赤くなっているように見える。その様子からして何となく彼の言わんとしていることは想像がついたが。
友達か、別に友達になるのは構わないけど、わざわざそれを口にしてきたあたりがほんと分かりやすいな。そんなわけで友達はいいけど、それ以上の望みに応えてやる義理はないぞ。
あれ、これって友達になったらどうなるんだ。ていうか異性の友達ってわざわざ口にしてなるものなのかな、そもそも男女に友情は存在する?
「あれ定彰じゃね?」
私が一人で悶々と思考を巡っていたとき、誰かが定彰くんの名前を呼んだ。
見れば数名の男子たち。あの顔ぶれはおそらくサッカー部の連中だろう。考紀くんだっているし。なるほど、定彰くんはサッカー部なのか。
しかし今日は練習がお休みらしく、全員制服姿でこれから帰ろうとしているようだ。
ん?ていうかよく見たら、彼らだけじゃなくてどんどん生徒たちが下駄箱で靴を履き替えて帰路に着こうとしているではないか。
放課後になった途端有真ちゃんに連れられてきたので、丁度今、帰りのピークと重なってきたのだ。
うわぁ、こうやって男女が向き合っているなんて誰もが勘違いするに決まってる。それだけは嫌だ。これ以上変なことで目立ちたくない!
早く定彰くんへ返事を返さなくてはいけないのに、焦りから上手く言葉が出てこない。
ていうかあいつら(サッカー部)はさっさとどっか行けよ!あんたらがこっちを見て面白そうに話すから気になって仕方ないんだよ!考紀くんも一緒になってんじゃないよ全く!
そう思うと、自分が知る相手でもある彼に向かってついつい視線を投げてしまう。
するとその視線の先に見知った顔が通るのが見えた。あれは…っ。
「私で良かったらお友達になります。それじゃあちょっと帰りを急ぐのでっ、あ、有真ちゃんもさようなら…!」
小声で定彰くんにそう言って軽く頭を下げ、次にその後ろにいる有真ちゃんにも声をかけてその場を足早に去る。
サッカー部の連中を通り過ぎ、向かう先にいるのは―――
「お兄ちゃんっ、一緒に帰ろうー」
「あれ、お前さっき向こうでなんか話してなかった?」
「うん、でも終わったから」
次兄と一緒なら変な噂も立たないし、何より3年生に1年が何も言えるはずない。
良かったー、身内がそばにいてくれて。なんとかあの場をやり過ごすことができホッとするばかりだ。