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奈良県を出て着いた先は、二日間泊まる京都市内にあるホテルだった。
修学旅行で恒例の着物をきた女将さんや仲居さんが出迎えてくれて、それぞれ振り分けられた部屋に行って荷物を置いた。今度はすぐに学校指定のジャージに着替え、また学年で集まって先生のありがたーいお話を聞いたあとは待ちに待った夕食の時間。
学年全員が入れる大きな座敷でいただいた食事は、豪華な日本食で最高の気分でした、はい。
「はー、さっぱりしたー…」
「ていうかお風呂の時間20分しかないって短すぎだよね、女子は色々大変なんだから」
「まぁこれだけの人数いるからねぇ、どんどん回していかないと」
私たち1組は一番最初にお風呂に入ることができたのだが、なにぶん時間が限られているのでお湯にゆっくりつかることもできなかった。こればっかりは修学旅行だから仕方ない。
そして優香ちゃんと一緒に部屋に戻れば、今度は女子たちのドライヤー戦争が勃発していた。お風呂場にもドライヤーはあったが、既に行列をなしていたので部屋のドライヤーにしようと思っていたのに。お風呂場程ではないけどここもまだ使えそうにないな。
「まだー?」「もうちょい待ってー」「もうドライヤー2個とか最悪」
髪の長い女子たちは髪を乾かすのでさえ時間がかかる。私は待っている間に毛先にヘアオイルを塗ることにした。自然乾燥のままだと髪が傷みやすくなってしまうからだ。
そうしてひたすらタオルドライをしていた私の元へ有真ちゃんがやってきた。
「静ちゃんあとで201号室行かない?」
「え、201って…男子部屋じゃなかったっけ」
「なになに、何の話ー?」
傍にいた優香ちゃんまで話に加わってきた。この流れだと完璧修学旅行定番の、男子部屋に女子が遊びにいくアレじゃないか。有真ちゃんは前から結構ぶっ飛んだ子だと思っていたけど、本当に期待を裏切らない子だ。
「だって消灯時間までまだ2時間近くあるんだよ?亮介たちがトランプとか持ってきたって言ってたし、暇つぶしに遊びに行こうよ」
「いいじゃん!ウチも行きたーい。髪乾かしたらソッコー行くね」
確かに私たち1組はどのクラスよりも先にお風呂に入れる分、消灯時間の22時までまだ全然時間がある。今はまだ20時、流石に疲れているとはいえまだ眠るには早いし。
というか都会育ちのちょっと大人な優香ちゃんも完全ノリ気なので、これはもう後には引けないなんとやらだな。
男子は二階、女子は三階と完全に仕切られている。先生たちもお互いに部屋には近づかないように言われているが、その先生たちは今お風呂場の外で見張りをしていたり、明日の準備で忙しいようで、あっさりと目的の部屋へたどり着いた。
「亮介ー、やっほー」
「マジできたのかよ!?俺、冗談だと思ってたんだけど!」
「んなわけないでしょーが、ほらさっさと座れるようにして」
有真ちゃんは物怖じせずズカズカと部屋の中へ入っていった。私は優香ちゃんの背中にピッタリくっついて続く。部屋ではいつもの中心メンバーがトランプやウノを広げていた。
「え、何、優香や静も一緒なの!?」
「どうも〜、お邪魔しまーす」
「ウチらもいるよー」
「七海に瑠実まで!、おいおいこんなに来るって聞いてねーぞ」
そう、私たちだけでなく、あの時近くで話を聞いていた七海ちゃんと瑠実ちゃんも一緒だた。大人しい瑠実ちゃんは私と同じように、七海ちゃんに強制的に連れてこられたようだったけれど。
「おいお前ら物散らかしてんじゃねー!」
「誰だよこのパンツ〜」
「ばっか!それ俺のだよ!玄吉!」
男子たちが片付け終えたところで、私たちも畳の上に座ることにした。するとそこで有真ちゃんが提案とばかりに口を開いたのだ。
「せっかくだから男女混合で座ろ!はい順番に、優香ちゃんここで七海ちゃんは……」
丁度人数的に男女交互に座れるらしい。有真ちゃんに言われた通りに座った先は、、、まさかの勇司くんの隣だった。
「そんじゃあ何からやる?」「ババ抜き!」「人数多すぎんだろ、俊足で終わるわ」
「ウノの方がいいんじゃね?」「王様ゲームは!?」
皆が何するか相談している間、私は硬直してしまっていた。いや、だって絶対これ仕組まれたもん。最初から全て仕組まれていたのだ、ここに私が来て、そしてここに座ることまで。いくら皆と一緒に遊ぶとはいえ、近距離でおられたんじゃ意識しない方が無理な話。修学旅行で浮足立っている彼らの空気にやられて彼が暴走しないことを祈るばかりだ。
「あ、あの…私ちょっと喉乾いたから廊下の自販機でジュース買ってきます。優香ちゃんたちは?欲しいものあったらついでに買ってくるよ」
「ほんと?!じゃあゴメン、スポドリお願いしようかな。お金あとでも大丈夫?」
「うん、あとの皆は?」
飲み物が欲しい人、いらない人バラバラだったがとりあえず私を含めて4人分買ってくれば良いようだ。皆には悪いが、この場から少しでも離れられるようにさっさと部屋を出ることにした。
廊下の真ん中に設置されている自販機にお金を入れる。それと同時にふーっと大きなため息をついてしまった。まあ戻ったら、最悪眠いとかなんとか理由つけて帰ればいいし、そんなに難しい問題じゃないか。
「間門さん、俺も持ってくの手伝うよ」
訂正。問題大有りでした。何故か部屋から勇司くんまでやってきて、飲み物を運ぶのを手伝いたいと言ってきた。たった4本だから重くもないし、さっさと持っていける案件なのですが。しかしせっかく来てくれたのに断るのも失礼なので、笑顔でありがとうと答えるしかないだろうが。彼とは少しでも距離を置きたいというのに。誰かー!もう一人来てくれー。
「あれ…え、なんでここ(2階)いんの?」
「考紀くん…ッ」
予想外すぎる。そして漫画みたいな鉢合わせに驚いた。今まさにお風呂上がったばかりと思われる、私の幼馴染とそのお友達がそこにいたんだから。
「いやー…さっき友達に誘われて、亮介くんたちの部屋に遊びに来てたんだよね。今は飲み物買いに来てるところ」
そういえば前にも彼とは自販機の前で鉢合わせたことがあるな。その時は考紀くんの後ろに今みたいに友達がいて、あのときはもっとたくさんいたし、勇司くんに至ってはそっちサイドにいたはずだ。同じサッカークラブに所属していたし。
「勇司も?」
「うん。今は間門さんの付き添いっていうか…」
「あ、そうなの?へぇー…」
何だろうなこの微妙な空気。二人ともおなじクラブ出身で、今も同じ部活動の仲間だよね?
最後の一本を買ったところで、勇司くん3本、私は自分のジュースを手に部屋に戻る流れになった。そう、ここで考紀くんとバイバイしたあとはまたこの人とあの変な時間を過ごさにゃいけなくて。あの重たいような場所に。
「あの、さ…良かったら、考紀君も一緒に部屋で遊ばない?」
「え、?いいの?」
「うん、大丈夫だよ、人数多い方が楽しいと思うし」
するりと口からこぼれていく言葉に内心では自分も驚いていた。
私の横にいる勇司くんが一瞬私の方を見た気がするけど、気づかないふりをした。私はこのとき、考紀くんを誘ったのは、この学校という生活でも彼と私が幼少期からの知り合いという事実が変わらないからだ。小学校のときと同じで、何となく身内に頼むような感覚で彼にちょっと助けてもらう、そんな考えから起きたことだと、そう思っていたのだ。
だから別に深い考えは別にないんだけど……この席順はどうにかならないの。
考紀くんとそのお友達を連れて、勇司くんと一緒に男子部屋へと戻ってみれば結果的に予想と違う方向へことが運んだ。
左隣に考紀くん、右隣に勇司くんというカオスな状況に。