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修学旅行の夜に生徒たちが大人しく就寝するかどうかは、人によるな。
消灯時間を過ぎ生徒たちが寝静まり返っているなか、公開告白騒動後、七海ちゃんは友達の瑠実ちゃんと一緒の布団に入って何やらお話し中だし、私も隣の布団に入っていた筈の優香ちゃんがいつの間にかこっちにきていた。
「あの人のこと好きでしょ」
「それは……わかんない」
「静、あの時告るんじゃないかと思った」
「そんな恐ろしいことしないよ、亮介くんじゃあるまいし」
一応、部屋の中では寝ている子もいるのであくまで小声でヒソヒソと話す。
「てか、分かんないって何なの」
「いや、だから、これは…好き、なのか……どうなんだろう、みたいな」
「それ好きでしょ」
「そんなバッサリ切らなくても」
私の女友達の中で優香ちゃんは唯一、自分の気持ちを言える相手な気がする。
心から信頼しているわけではないが、おそらく私の中で頼れるお姉さんみたいな立ち位置だからだと思う。七海ちゃんや有真ちゃんあたりは、なんだかしらんが応援する男子を私に凄く押してくるから、素直に言い出すことができないのだ。
他の子は口が軽い子もいるから直ぐ周りに知れ渡るし。
「だって…幼馴染だよ?赤ちゃんのときから見てきた人を、異性として意識するって………こそばゆくない?」
「こそばゆいって、そんなおばさんみたいなこと言わないで」
悪かったな、おばさんで。
「皆修学旅行だから気持ちが上がっちゃうだけだって。もっと冷静になれー…。将来絶対黒歴史になるのが目に見える」
「そんなの関係ないって!静はあの人のこと好きだよ、絶対!だってさっきのとき、もう凄い可愛かったよ」
「考紀君が?」
「なんで!静だよ!恋する乙女って顔してた。あれわざと?」
「んなわけないよっ、どうして私がそんな顔をしなきゃいけないの」
正直あの時の自分がどうしていたのか、記憶がもう曖昧だ。それほどまでに自分が自分でなくなっていたんだろうな。しかし、恋する乙女って…もし本当にそんな顔してたら………穴があったら入りたいぐらいだ。
「明日、ウチらの班とあの人の班が行くとこって被ってないの?」
「……知らない」
「もし被ってたら、ちょっと二人だけで話してみたら?」
「な、なんで?嫌だよ絶対にイヤ」
「さっき戻るときにさ、あの人何回も静の方見てたよ。なんか話したそうな顔してた、多分」
「いいよもうこういうの。私は普通に京都観光したい、はい終わり、もう寝るよー」
強制的に話を終わらせて布団の中に潜る。優香ちゃんが何か言っているのが聞こえたが、あくまで寝たふりをしてそのまま眠りに落ちたようだ。
そうして翌日の朝になって、自分でも寝られるか心配だったが存外気持ちよく疲れが取れていた。顔を整えて早速下に降りて朝食を頂く。昨日の夕食と同じ座敷にお膳が置かれていた。しかし流石ホテルは量が多い。元々朝はそんなに食べられない方なので全部食べられる気が全くしない。でも、先生は残さず食べろっていうし鬼か。
とりあえず食べられそうなものから手をつけよう。うん、お出しが美味しい。
「静、静」
「うん?」
「あっち見てて」
隣の優香ちゃんに言われた通り、斜め右側に目を向けたら2組の方にいる考紀くんが見えた。しかも向こうも丁度こっちを向いたもんだから、バチッと目が合ってしまったではないか。お互い慌てて目を逸らした。
「ッ、優香ちゃん…!?」
「あの人静のことチラチラ見てたから」
サラッとそう言って白飯を食べている。その姿にハァとため息をついて、そして右側ではなく別の方に顔を上げたら、今度は勇司くんがこっちを見ていたし。…食べ辛いわ!!
*
二日目の今日は班行動。班員の子たちとは気兼ねなく話せる仲なので、ようやく自分の落ち着いた時間がきたように感じる。
ただし瑠実ちゃんだけは昨日のことがあって、いつも通りの様子ではなかったけど。
それでも本人が気にしないで、と言っているから私たちも今日は楽しむつもりでいようと思った。
今日観に行くところは、班員一人ずつの希望に沿った場所だ。私たち女子は最近の幕末ブームで新選組ゆかりの場所が中心だが、まずは男子が行きたいと言っていた場所へ担当のタクシーさんの案内で向かった。
「白峰神社…」
「確かスポーツの神様がいるんだよね?」
「あぁ、なるほど…」
班長はバスケ部、雄介くんは野球部、宏典くんは陸上部。見事に全員運動部だ。
三人とも真剣にお参りをしていた。私たちもそれに倣ってお参りをする。
境内の中をよく見ると、Jリーグ選手やバレーボール選手から奉納されたボールが数多くあるのが見えた。男子たちは選手の名前を見て盛り上がっていた。
売り場には様々なものがあって、お守りだけでなくリストバンドやタオルまで売られている。けどどれも球技に関するものばかりで、自分の分はいいかなと思った。欲しいお守りは他でも買うつもりだし。
色々あるなぁと見ていると、闘魂と書かれたお守りにバックはサッカーをしている絵が印象的だった。赤・白・青の三種類の色がある。
サッカーか…、いや、でもなぁ。うちの班と同じようにきっと運動部に所属している男子は皆ここを訪れるだろう。今は私たちしかいないけど、時間帯がバラバラなだけだ。
「静、それ買うの?」
「え、あぁ、私はいいよ」
「まぁ女子よりは運動部にいる男子の方が欲しいものだよね、宮垣たちも買ってるし」
あーどうしよう、買ってもなぁ…。もし同じの買ってたら無駄になるし。あ、その場合は私が持って入ればいいのか。別にお守りだから持っていて損はないし…。
「あの、これ…お会計お願いします」
青色の闘魂守を一つ買った。