人がいっぱいだ。それに建物も高い、こうして見上げなければいけないほど。幸いなことに目当てのバス停は病院から歩ける距離にあった。大都会の中で自分はちゃんと向かえるだろうかと内心不安もあったが、教えられた目印を探すため周囲の光景に目をやりながら歩く。

(あ…、あそこだ…)

やがて目的であるバス停が見えてきた。バス出発時間まであと数分。そうして着いてからほんの少し待っていれば、時間ぴったりにバスがやってくる。流石仕事にきっちりの日本人だ。

 チケットを運転手に見せたあとバスに乗車し、指定された座席に座り、数分後、運転手が乗り込んでから漸くバスが出発した。よく見ると前後左右ともに、自分以外の他の乗車客が見当たらない。やはり地方の田舎ということもあり、乗車客が殆どいないようだ。しかしそれも今の自分にとっては都合が良かった。今はできるだけ人とあまり関わりたくない。

 長野までの長旅は長いようで、短いようにも感じられる距離だった。その間、自分は休むことなくずっと動く景色を見つめていた。そして、母親から聞かされていた停留所に着いたことが分かり、降りる準備をする。と言っても荷物は事前に家族が持って帰ってくれていたので、自分はショルダーバック一つだけなので確認することは少ないが。

 再び外に出たとき、景色はまた一変して見えた。東京ではそびえ立つビルに囲まれていたが、今は高い山々に囲まれ緑が多い印象だ。
 母親の話では、着いたら先ずタクシー乗り場まで行くように言われていたので、近くにあるタクシー乗り場へと向かうことにした。二台ほどのタクシーが並んで停まっており、タクシーの傍に運転手らしき人物が立っている。すると男性運転手が自分の方を見て、声をかけてきたのだ。

 「冬埼さん、ですか?」
 「…あ、…はい…」
 「ご家族からご連絡を頂いています。家までお送りしますので、どうぞ」

 どうやら母の気遣いで既にタクシーを手配してくれていたらしい。バスと違い、タクシーだと客と運転手の距離が近いから、変装したところで直ぐに自分のことはバレてしまうだろうから、事前にこちらの事情を伝えていてくれたみたいだ。

 家まではここから二十分ほどの距離だ。二カ月しか離れていなかったのに、なんだかとても久しぶりな気がする。
そういえば母によると、今日は実家の方で地区の春祭りが行われるとのことだ。祭りの獅子は家の前を通るため、地区の春祭りのときは実家の周りには地元の人たちで溢れる。退院の日と行事が被ってしまったのは偶然で、こればかりは仕方がない。しかし、勿論対策をしていないわけではなく、できるだけ人だかりの少ない間に実家に帰れるよう時間を考えてある。

―――筈だったのだが。

「……無理そうですか?」
「すいません、渋滞で予定時間より遅れてしまって…」

 予想外の渋滞でタクシーは遅れてしまったようだ。元々今日はバスの方も渋滞や交通整備などで到着が遅れていたため、既にこちらの予定は大きく狂っていた。こればかりはベテランタクシー運転手さんでも、予定時間に間に合わせることは難しかっただろう。しかしいくら遅れたとは言え、家に繋がる道の交通規制がもうかかっているとは。
 祭りの日、家の前を獅子神輿が通るためには車が通らないよう交通規制がかかる。そのため、この交通規制がかかる前に家に着くようにしたかったのだが、結局間に合わせることはできなかった。

 「事情を言ってみて、入れないかどうか警備員に聞いてみます」
 「いえ、大丈夫です…。あの…上の方から回ってもらってもいいですか?」

 下が無理なら、上の方から回ればいけるだろう。あちらはまだ交通規制がかかっていない可能性が高い。運転手にお願いをして上段へと行ってもらうことにした。

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