三人の出会い

 「ここのステップはこうやろ?」
 「あ、ほんとに?」
 「こうで、こうなるんよ多分」
 「ワン、ツー、スリー……あれ?でも曲のテンポと合わない気がする」

 放課後、いつものように体育館裏のコンクリートの上でダンスの練習をしていた僕と善。ダンス練習をしようにもスタジオなんかに所属していない僕たちは、室内でできる場所が他にないからこうやって外でやるしかない。
 ここは先生が使う喫煙所の近くだから、他の生徒は先ず近寄ってこないし、建物の大きなガラスで動きを確認できるから、意外と穴場なのだ。そうして昨日の続きからやっていこうとしていた、その時―――

 「そこ、サイドからのシーウォークじゃない?」

 突然上から声が聞こえてきたのだ。

 見上げた先にいたのは、体育館二階裏口の階段に立つ一人の女子生徒。ジャージの色からして僕たちより一つ下の学年。普通なら見知らぬ後輩からいきなりタメ口で声をかけられれば流石に腹立たしい筈なのに、そんなことはどうでも良いと思えるほどに、彼女の美しすぎる顔面に驚いてしまった。

 「それってBIGBANGの曲だよね」

 彼女はそう言って僕たちの方まで降りてきた。女子のわりに背は高いようだ。呆気に取られている僕たちに対し、女子生徒はごく自然と入ってきたと思えば、鞄の上に置かれたパソコンを操作して、

 「ほら、ここの動き。結構分かりづらいんだけど、こんな感じでさ」

 曲に合わせて難なくステップを踏んだのだ。画面に映っていたプロと同じで、無駄な動きが一切なく、しなやかに。ダンスをしている者なら分かる。この子只者じゃないって。

 「ね?」
 「え、…ていうかキミ誰?」
 「間宮百合。この間、転入してきた者です」

 それを聞いてやっと納得がいった。二年間この学校に通っていたら、こんな顔面国宝みたいな子がいれば絶対に顔と名前ぐらいは知っている筈だから。
 この前、一つ下の学年にとんでもない美少女が入ったって、クラスのやつらが阿保みたいに騒いでいたのを耳にしたけど、まさかこんなに早くお目にかかるとは。

 「この曲かっこいいよね。サビのとこは勿論だけど、個人的にはラップが…」
 「いや、あの…」
 「?」
 「僕たち、一応先輩なんだけど…」
 「………え?そ、そうなん、ですか?!」
 「ジャージの線。お前は緑やけど、俺ら赤じゃん」
 「お、おぉお……知らなかった」
 「転入生だし、別にかまへん。やけど俺ら以外やったら目つけられとったかもしれへんから気ぃつけな」
 「あ、はい。ありがとうございます」

 三年の先輩にはそういうの煩い人いないけど、うちの学年の方がめんどくさいのがいる。一番荒れてる学年と先生たちに影で言われているぐらいだ。ヤンキーの女子だっているし、目をつけられると大変だ。
 まぁこの子の場合、容姿だけで目をつけられてる可能性は否めないけど。

 「えっと…それで、先輩たちはダンス部とかですか?」
 「…なんか急に敬語にされると、それはそれで気持ち悪いかも」
 「せやな。やっぱタメでええで」
 「まさかの振り回された…」
 「ちなみに俺らは帰宅部。ダンスはまぁ…趣味みたいなもんや」
 「……へぇ」
 「んなことより、さっきのどうやるんか教えてや。俺らここよう分からへんねん」

 善がそう言ったことで始まった、転入生と僕たちの不思議な関係。
 ダンス上級者らしい彼女に教わりながら進めやダンスは、いつも以上にスムーズで、そしてびっくりするぐらい上手くできるようになった。


 結局、その日は終礼の鐘が鳴るまで三人でダンスをしていた。この鐘が鳴ったらどの部活も帰宅しなければならない決まりだから、強制的に追い出される前に僕たちも帰路につくことにした。

 『じゃあ二人はいつもあそこで練習してたんだ』
 「うん。ここらじゃストリートできる場所もないし、なんだかんだあそこは踊りやすいしね」
 『ふぅん』
 「間宮はどっかのクラブ入っとったんか?」
 『入ってないよ』
 「じゃあ自己流?すご」
 『うーん…なんていうんだろう、ちょっとした修行に行ったというか…プロの人に教わってたといか…』
 「マジ?誰に?僕でも知ってる人?」
 『…おそらく』

 間宮さんが教えてくれたその人物の名前。善は知らなかったようだけど、僕はその名前を聞いて思わず叫びそうになってしまった。
 その人は“キング・オブ・ポップ”とも呼ばれた音楽会の頂点に立つ人にも教えをした、つまり師匠にあたる人で、ダンスの世界じゃ神様とまで言われている人だ。間宮さんは数年前、その人から直々に教えてもらったらしい。
 どうやったらそんな人に教えを乞えるんだ、と疑いたくなるような話だったが、今日見ただけでも彼女の実力はよく分かったし、その歳でプロ並みの実力を持つなら、信じるほかない。

 「でも、それだけ凄い技術持ってるなら、どこかで披露すればいいのに。もったいない」
 『今はゆっくり地元で過ごそうかと思って。それに家族や昔の同級生と過ごすのも楽しいから』
 「なーに大人ぶっとるんや?子供のくせに」
 『そういう善さんこそ、子供でしょうに』
 「はぁ!?お前よりは大人やぞ!?」
 「善、ムキになると説得力なくなるから」
 『そうだそうだ。楓太さんを見習うといい』
 「やっぱお前タメ口禁止!完全に舐め腐っとる!」
 『すいません帰国子女なんで、敬語はちょっと…』
 「さっきバリバリ使っとったやろ!?」

 いつもは僕と善だけだった帰り道も、間宮さんが加わったことで三人になり少し賑やかに感じた。
た。

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