爆弾

 それからも間宮さんは時々、僕たちが練習しているところへ顔を出しては、指導者になったり、善を茶化したりと、僕たちの放課後はいつの間にか三人でいることが多くなっていた。
 そして文化祭までちょうど残り一か月というところで、事件は起きたのだ。

 給食が終わったあとの昼休み、僕と善は同じクラスだから最近の音楽を語ったり、ダンスについて話したり、いつも二人だけで過ごしていた。まぁというより僕たちは、お互い他に友達がいないからだけど。
 けどその日、突然教室がざわつき出したかと思えば、僕たちの目の前に立っていたのはまさかの間宮さんだったのだ。

 「え?」
 「な、お前なにしとんねん」
 『昨日言ってたプレイリストのお届けです。あ、ここにハンコください』
 「あー、それはおおきに。遠路はるばる配達ごくろーさん、ってアホか!サインなんかいらんやろ!」
 『おぉ、これぞ本物のノリ突っ込み』

 至極真面目な顔でCDを差し出す間宮さん。この子は顔が整い過ぎて笑ってないと逆に怖い。ていうか先輩の教室に堂々と入ってくるとか、自分がいかに注目を浴びているか分かっているんだろうか?
 ここで敬語を使っているあたりは、一応先輩の前ということは理解しているようだけど。

 『今日は日直で遅れそうなので、先に渡しておこうかなって。優しい後輩でしょう?』
 「てかお前、もしかして普通に入ってきたんか?」
 『はい。あ、ノックした方が良かったです?“コンコン”、よしこれでオッケーですね』
 「口で言ってどないすんねん!」
 『任務は終えたので間宮宅急はこれでお暇しますね。授業寝ないようガンバですよ、ちなみに自分は無理そうなんで保健室に行きます』
 「サボる気満々やん」

 相変わらず意味不明なことを言っている間宮さん。先輩の教室に入ってきても崩れないそのスタンスは一体どこからくるんだろう。
 すると、そんな僕たちのもとへ近づいてきたのは、クラスメイトの男子たち。嫌な予感がした僕は、もっと早く間宮を教室へ帰してやれば良かったと後悔した。

 「キミ、間宮ちゃんだよね?何々、こいつらと知り合い?」
 「聖ぃ〜俺らにも紹介してよ」
 「……間宮さん、そろそろ教室に戻った方がいいよ」
 「はぁ?何、急に。俺らに紹介してくれたって良くね?え、もしかして二人付き合ってんの?」
 「ほら早く、」

 間宮さんの背を押して廊下に連れていこうとすれば、今度は別の奴らが前を塞いでくる。こいつら、いつもなら僕らのことなんて無視するくせに。噂の転入生が来たと思って、きっと馬鹿なことを考えているに違いない。

 「なぁ聞いてんだけど。付き合ってんの?」
 「えーマジで?それはなくね?」

 うるさい。

 「間宮ちゃん知ってる?こいつらの噂」

 黙れ。

 「おいお前らなんや急に!」
 「関西人は黙ってろよ」
 「まじキモいんだけど。あ、それともヤキモチですかー?愛しの聖くんが取られたとかぁ?」
 「やっぱ噂はマジもんじゃんー、きっしょー」

 …やめろ。

 「こいつらいつも一緒にいるっしょ?それって実はさ、」

 「やめろ!!」

 自分のどこから出た声なのかは分からない。でも僕の声でクラスの騒がしさは一気に失われ、一瞬の静寂が訪れた。
 しかし僕の目の前にいた男は、いきなり襟元を掴んできたかと思えばさっきまでの阿保みたいな声とは違い、脅すように言ってきた。

 「お前、ホモのくせしてなに盾ついてんの?」
 「……ッ」
 「あ、げ!触っちった!汚っ、ホモ菌がうつる!」
 「ギャハハハ!さっさと洗わねぇと!」

 下卑た笑いが耳につんざく。こいつらが何を言おうと、今まで気にしてこないようにしてきた。馬鹿の言うことなんて、いちいち気にしてたらキリがない。
 ―――でも、

 「間宮ちゃんもさ、こんな奴らといたら汚くなるよー?やめときなって」

 彼女にだけは聞かれたくなかった。それも、こいつらの前では絶対に。

 ああ、終わった。
 昨日まで一緒にダンスして、笑いながら帰っていたのが、もうできないと思うと無性に悔しかった。善と僕、そして間宮さん。三人でいた時間はまだ少ないけど、僕たちは多分、ピースみたいに合っていたのだ。

 僕が黙って下を向いている間、周りは俺たちを見下し、そして間宮さんは―――

 『それで?皆さん、昼休憩終わりますよ?そろそろ次の授業の準備した方が良いんじゃないですか?』

 いつもと変わらず、あっけらかんとした態度でいた。

 「お、お前…」
 『そういえば楓太さん。言い忘れてたんですけど、自分が保健室行く理由、他の先生には言わないでくださいね』
 「…あ、うん」

 なんだこの子は。さっきのことなんて本当にどうでもいいのか、当たり前のように僕に話しかけてきたし。

 「え、ちょっと間宮ちゃん。話聞いてた?」
 『はい。これでも耳は良いんで』
 「いやだからさ、」
 『大丈夫ですよ。そちらの先輩たちの知識が足りなくても、日本はまだまだ理解に乏しい国ですからねぇ。こればかりは時間が経つしかないですよ』
 「…は?」
 『あ、ちなみに自分が先輩たちと仲良くさせてもらっているのは、今度の文化祭の準備のためです』

 そして間宮さんは僕と善、それぞれの肩に手を置くと、

 『自分たち、文化祭でダンス披露するんで。良ければ応援お願いします』

 とんでもない爆弾を落としていったのである。

ALICE+