異端者
「僕と善、小4から一緒なんだ。善がうちの近くに引っ越してきて、それからずっと友達で、ダンス誘ったのは僕の方。アイドルの人たちみたいな、あんなかっこいいダンスできたら良いなって。それで…一度は一緒にダンススタジオに入ったんだけど…」
高校に上がってダンスをやろうと思ったけどダンス部がなかったから、近所のダンススタジオに通うことにした僕。でも昔からの気弱な性格と人見知りがあったから入るのに悩んでたとき、善が一緒に入ってくれるって言ってくれたおかげで、初めてダンスに触れることができた。
僕と違って元々運動神経の良かった善はどんどん上手くなっていった。それを羨ましいとは思うことはあってもひがむことはなかった。寧ろ、嬉しかったのだ。最初は僕に連れそう形でダンスを始めた善も、同じようにダンスを好きになっていってくれたから。
善と一緒にダンスの話ができるのも、一緒にダンスができるのが何より楽しかった。
そんなときダンスの先生が変わって、新しい先生がやってきた。
今まで女の先生だったけど、男の先生になったのだ。
その先生は優しくて、面白くて、僕は先生が大好きだった。
でも、この前までランドセルを背負っていた子供の僕は、ある意味無知だったのだ。
この想いがどういうものなのか。
そして、それは世間的には――タブーだということも。
「僕……先生のこと、好きなんだと思う」
「…ふーん。ま、ええんちゃう?楓太、先生とおると楽しそうやもんな」
スタジオで休憩中、善にだけは小声で打ち明けた。僕としては好きな人を打ち明けること自体が恥ずかしかったから、それ以上の意味はなかったのだ。
でも多分善は知っていたから最初は戸惑ってはいたけど、一生懸命受け入れてくれて、何も変わらず傍にいてくれた善を見て、僕は安心してしまっていた。
もっと注意するべきだったのに。世の中、誰が聞いているか分からないんだから。
「なぁなぁ!お前って男好きなの!?」
「……え、」
登校早々にクラスメイトから言われた言葉。僕は鈍器で殴られたかのような感覚に陥った。こっちを珍しいものでも見るかのように笑う、目の前のクラスメイトと、その周りでクスクス笑っている同級生たち。
僕はそこでようやく、“これ”がいけないものなんだと――身をもって知った。
「それってホモって言うんだぜ?気持ちわるー!」
「もしかしてお前がいつも善と一緒にいるのってさ、」
「…善は関係ない!」
僕のせいで善まで疑われてしまう。それだけは嫌だ。
でもそんな僕のもとに駆けつけてくれるのが、この親友の馬鹿みたいに優しいとこなんだ。
「おい!やめろや!お前ら!」
「善!お前、ホモとデキてんの?ってことはお前も?」
「うるさいんじゃボケ!ほら行くで、楓太」
「ヒューヒュー!ホモカップルだ!」
クラスメイトの気味の悪い野次を浴びながらも、善は僕をそこから連れ出してくれた。でもそのせいで、結局善まで余計なものを背負ってしまって、僕は溢れる涙を止められなかった。
「…善、僕と行動しない方がいい」
「何言っとるん。アイツらもっとエスカレートしてくんぞ」
「駄目だよ、善まで……変な目で見られちゃうから」
「……」
「僕は“気持ち悪い”んだって。皆とは違うんだ」
「…楓太は気持ち悪くない」
「男なのに、男を好きっておかしいんだ。なんで…気づけなかったんだろ、僕は馬鹿だ…」
「おかしくもないし、馬鹿でもない。楓太は俺より成績良いやろ」
「いいから離れっててば」
「嫌じゃ」
「…善!」
「そしたらお前、……ほんまに一人になるやろが。
そんなん俺嫌や。…悲しすぎるやろ…」
僕はその時、初めて善が泣いているのを見た。幼稚園で近所の大型犬に追いかけられたときも、小学校で上級生から喧嘩を売られたときも、怖い先生に怒られたときも、善はそれまで一度たりとも泣かなかったから。
それから僕たちは噂の広まったダンススタジオを揃ってやめて、それでも大好きなダンスは続けたかったから、体育館裏で練習するようになった。
クラスメイトたちからは遠巻きに避けられていたけど、善がいたから耐えてこられた。他人に変なことを言われても気にしない。
皆、僕たちのことを変な目で見る。それが当たり前だった。
しかし――そんな当たり前をぶち壊すかのように、彼女は言ったのだ。
『それで?』
『大丈夫ですよ。そちらの先輩たちの知識が足りなくても、日本はまだまだ理解に乏しい国ですからねぇ。こればかりは時間が経つしかないですよ』
戸惑っている様子もなく、寧ろ、あのクラスメイトたちの方がおかしいとばかりに、可哀そうなものでも見るかのように笑っていた。