恋バナ


 「お、よっしゃイチゴ入っとる」
 『善さん苺好きなの?』
 「当たり前やん」
 「善はフルーツ大好きだもんね。顔に似合わずスイーツ好きだし」
 「顔に似合わず!?楓太さん、さっきから毒舌じゃありませんかね?」
 善が切なそうに楓太に抗議している間、百合は悪戯でも思いついたのか、楽しそうに善のお弁当箱へと手を伸ばした。
 彼が大好きだと言う苺を取ると、近くにいた女子の先輩に声をかけて、無事協力を得ることができたようだ。
 全ての準備が揃ったところで、百合は楓太に詰め寄っている善の肩を叩いて彼の注意を引いた。

 『…(もぐもぐ)』
 「なんやねん急に。何をそんなうまそう、に………」

 何も言わず顎を動かしている百合を怪訝そうに見ていた善は、その視線を再び弁当箱へ戻したと思えば、

 「お、お前……」
 『(もぐもぐ)』
 「……食うたんか…?」
 『(もぐもぐ)』
 「俺の……俺の大好物の…苺……」
 『…(ゴクン)』

 「返さんかぁあああああい!!」

 善が叫ぶとともに、百合は立ち上がりテントからグラウンドの方へ走った。しかし直ぐにそれを追いかける善。
 笑顔で逃げる百合。必死に追いかける善。
 突如始まった二人のグラウンドでの追いかけっこに、昼食を取っていた生徒たちも含め、皆の視線が一気に向けられていた。それは、ただの追いかけっこにしても、追いかけられている側の身体能力が常人じゃなかったからだ。

 忍者のように素早く走っていると思えば、バク転などのアクロバットを使いこなして華麗に避けたりして、ただの追いかけっこの筈が、まるで映画のアクションシーンのようだ。
 善は至って真剣なのに対して、百合の方は完全におもちゃで遊ぶ子供のように楽しそうだった。

 百合の動きを見ていた観客から驚きや賞賛の声が上がるなか、教師陣のテントから走ってきた体育委員顧問の教師が介入してきたことで、二人の追いかけっこは強制的に終わりを迎えることに。

 「お前のせいでまた怒られた!てかなんで俺が怒られるん!?被害者俺なんに!」
 『なにが?』
 「苺食うてたやろが!」
 『食べてないよ』
 「は?嘘こくなや、ったく」
 『嘘じゃないもん。見せてあげる』

 そう言って先ほどのテントに戻った百合は、例の女子の先輩に声をかけると、女子生徒は楽しそうに自分が持っていた小さなタッパーを空けた。するとそこには善の大好きな苺が。

 「じゃ〜ん。善のはここにありました〜。あ、安心して、これ元々空だったから。いつも最後ここに弁当箱のごみ入れるために入ってただけ」
 「…な…なんやねん…」
 『私、別に食べたなんて言ってなかったよ』
 「お、お前……鬼か…」
 『追いかけっこ楽しかったね』
 「とりあえず後で一発殴らせろ」
 「何言ってんの!こんな顔面国宝殴ったら捕まるよ?」
 「お前らはこいつに騙されとるんや…こいつは鬼…いや、悪魔やぞ」
 「ねぇねぇ百合ちゃんって好きな人とかいないの?」
 「彼氏いるー?」
 「…この世界に俺の味方はおらんのか、うう…」
 「ドンマイ善」
 「楓太ァ…」

 完全に百合に遊ばれた善が悲しみに打ちひしがれているなか、いつの間にか百合の周りでは興味津々な女子生徒たちが恋バナに花を咲かせていた。

 『彼氏って恋人のことですか?』
 「そう。帰国子女なんだよね。向こうで付き合ってた人とかいない?」
 『それはいないですね』
 「えーそうなの?でも百合ちゃんなら直ぐ彼氏できるって」
 「そうそう。結構狙ってる奴多いし、そのうち絶対告られるよ」
 『でもデートしないとどんな人か分からないですから』
 「え、やばい。可愛いんだけど百合ちゃん」
 「意外と乙女だぁ」
 『?』
 「百合ちゃんとデートできそうな奴うちのクラスいるかな〜(笑)」
 「ちなみに理想のデート像とかあるの?」
 「あ、それ聞きたい!」
 『理想は特にないですけど…でも、この前も美味しいレストランに連れてってもらいましたね。予約してくれてるとちょっと嬉しいです』
 「!?待って!百合ちゃん彼氏いるんじゃん!」
 『いませんよ?』
 「え、だって今、連れてってもらったって!」
 『デートをする友達の話ですけど…』
 「……ちょっとごめん、どういうこと?」
 『これは恐らく、文化の違いもあると思うんですけど、』

 心底意味が分からないという表情で百合を見ている先輩たち。
 それもその筈だ。これはアメリカで過ごす時間が長かった百合と、日本育ちの彼女たちとの恋愛観の違いによるものなのだから。

 『そもそも向こう(アメリカ)では、告白という概念もありません。付き合う前にお試し期間を設けて、恋人同士になれるか相手との相性を図るんです。日本でいう友達以上恋人未満っていう感じですかね』
 「…な、なんか大人な感じ…」
 「お試し期間って何するの?」
 『それこそデートです。普通にボディータッチもしますし、キスもします』
 「……ヤバい。想像の何倍も百合ちゃんが大人だった」
 「キスするのに恋人じゃないって、考え方が全然違う…」
 「じゃあ百合ちゃんには今そのお試し期間の人がいるんだ」
 『はい』
 「でも告白がないって…それって逆にどうやって「付き合う」って状態になるの?」
 『よくあるのは自分の友達や家族に紹介したら場合で、あとはお互いに別の相手がいなかったら、話を切り出して関係をはっきりさせることもありますね』
 「複数いるの?!浮気じゃん!」
 『相手が複数いるのは別に普通ですよ。私も実際、数人の方とDatingさせてもらってますから』
 「……うそん」
 「海外ってすごい…」
 「ち、ちなみに…どんな人?」
 『一人はイギリス系の方で、もう二人は韓国の方たちです。でも、イギリス系の方は多分もう別の相手ができたんだと思いますよ。最近は全くデートのお誘いがないですから』
 「あ、そっか。百合ちゃんに相手がいるように、向こうにも相手がいることもあるのか…」
 「ねぇねぇ!今のとこ、百合ちゃんはその二人のどっちと付き合いたいとかあるの?」
 『まだあんまり…。でも、今度またデートに連れていってもらえるそうなので……まぁ追々ですかね』
 「やばーい!え、それも今度話してね!」
「百合ちゃんクールだし、恋人いないっていうからてっきり恋愛とか興味ないのかと思ってたからめっちゃ意外!可愛い〜」

 女子たちが楽しそうに盛り上がっているなか、その近くで必死に聞き耳を立てる者もいれば、何故か肩を落とす者、顔を赤らめている者など、様々な反応をした生徒たちがいたらしい。

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