第四話「小学校入学式」

年月を経て、遂に自分は長かった園児生活を終え無事小学校へと入学することになった。
勿論義務教育が始まる以前から、小学校の勉強に向けてもう抜かりはない。
子供用ドリルを祖母に買ってもらい毎日勉強していた。まぁ、英語に関しては正直結構自信がある。(基本的な会話ならできるし)
もちろんガリ勉だと思われないよう大人が見ている前ではやらず、あくまで隠れてだが。
園児たちと一緒にいるときは読書が専らだ。母も相当な読書好きなため、遺伝だと思われているらしく、いつの間にか本好き少女という肩書を貰っていた。

さらに、この頃になってくると男子、女子、それぞれのパーソナルスペースができてくる。
今までは男子も女子も性別関係なく遊んでいた子が殆どだったが、今では、女子は女子、男子は男子で固まりになっている光景がよく見られる。
彼らのそんな成長を見ていると、こうやって子供は大人になっていくのかとつい園児らしからぬことを考えてしまう自分がいた。

そして入学式。
昨日の夜から母は嬉しそうに何度も子供用のフォーマルスーツを見ていたのを知っている。恐らく、愛娘の晴れ舞台を一番嬉しく思っているのだろう。
梯子レースのワンピースにシンプルな黒のボレロを合わせたアンサンブル。
ボレロにつける、左胸元の白いリボンがポイントらしかった。
ウエストの切り替え部分の梯子レースが更に華やかな印象になっている。
自分としてはもう少し地味目でも良かったのだが、母の強い押しがあったため、このようになったのだ。
いくら子供の身体とはいえ、こんなに女の子らしい服装を着ることもあまりない。
保育園は皆決まった服を着ていたので、今まで私服も殆ど着ることはなかった。
鏡の前に立つ女の子にが自分本人であるというのに、どうも違和感しか感じられないのはやはり中身は20歳の大人だからだろうか。

「静ちゃーんいくよー」
「はーい」

父の運転する車に親子三人で乗り、自分は約20年ぶりに、卒業した筈の小学校へと入学するのであった。
学校につくともう既にあちこちで入学式を迎えるであろう親子が記念写真やら、挨拶やらを交わしてる。自分も両親と並んで校門前での記念写真が撮れるタイミングを待っていた。
するとそこに自分のよく知っている女の子がいることに気づいた。
といっても、今の自分が一方的に知っているだけで向こうは自分のことなど全く知らないし、そもそも二回目の人生では初めての対面となる。
そう。あの少しボーイッシュな髪型の少女こそ、自分が家族と同じくらい大切に思う親友なのだ。
一回目の人生では、小・中・高と一緒の学校に通い大学こそ離れていいたが、20歳を迎えても尚自分の一番の友人でいてくれたのだ。
二回目の人生、初めて見る親友の姿に驚きと嬉しさが同時に湧いてくる。

しかし如何せん、まだ今の自分と彼女は赤の他人同士。こちらからいきなり仲良さげに話しかけるわけにはいかない。そもそも一回目の人生のとき、自分が彼女とどうやって会って、どうやって仲良くなっていったかなど全く覚えてすらいない。
家が近所同士だったから自然と仲良くなったのかもしれないが、根本的なきっかけは一体何だったのだろうか。
今の自分はどうやって話しかけたらいいのか、難解な問題が立ち塞がっていた。

「あら、こんにちは。古藤(ことう)さん」
「今日は良い天気になってよかったですね、絶好の入学式日和で」

母が見知った女性に声をかけられていた。
そのひとは例の幼馴染の男の子の母親で、お互いの子供の歳が同じことから自分の母とはママ友同士でもあるのだ。

「女の子いいわね〜、とってもかわいい」
「ちょっと高めのスーツなんですけどねー、入学式以外にも礼服として使えそうだったから」
「確かに使いまわしできた方がいいものね」

幼馴染の家は全員男兄弟のためか、娘の自分が着ている式服を羨ましそうに見ていた。

「うちの子はみーんなお下がりだから、全然楽しみがないのよー」
「でもその方が助かったりするじゃないー」

ママ友トークをぼうっと聞いていると、自分たちの前の親子が写真を撮り終えたようで、やっと待ち時間が終わったようだった。

「あ、私撮るわよ」
「いいの?じゃあ、お願いしようかしら」

古藤さんが母の持っていたデジカメを代わりに受け取り、写真撮影を買って出てくれた。
数枚ほど撮ったあと、ようやく解放されたかと思えば今度は自分の母が切り出した。

「せっかくだから、うちの蛍と古藤さんの子一緒に撮りましょうよ」
「いいわね〜、おーい、孝紀、こっち来てー」

何故そうなる!?
確かに幼馴染の家とは家族ぐるみで仲がいいが、まさか彼と一緒に撮られることになるとは。一回目の人生では、そんな写真アルバムにはなかったぞ!?

「ほら!早く並んで並んで!」
「二人ともこっち向いてー」

蝶よ、花よと育てられてきた自分は今までも写真をたくさん撮られてきたので、笑顔を見せることには慣れてきた、、、と思っていたが、今の自分がちゃんと笑えているか不安でしかない。



「皆さん、入学おめでとうございます。これから皆は――」

優しそうな声を出しながら、先生が黒板の前に立っていた。
確かこの先生は一年間だけお世話になる人だ。おっと、早速お決まりの人生ネタバレ。
そして机に視線を落として見れば、右上に「まかど しず」と書かれた縦長の紙が貼ってある。
これ昔も見たことある。なるほど、まだ漢字の知らない彼ら(小学一年生)のために平仮名で大きめに書かれていたのか。こうすればクラスメイトの名前を覚えられると。
まぁ、前回の人生で漢字2級まで取得した自分はそんな冷めたことを考えてしまうわけで。
うーん、しかし親友となるはずの衣美ちゃんとは大分席が離れてしまった。まぁ名簿順に並べばそうなるか。私は名簿番号後ろから数えれば早いし、衣美ちゃんは前から数えた方が早い。まぁこれからゆっくり仲良くなればいいんだし。
私たちが通う小学校は元々人数が少ないが、中でも私たちの世代は最も少なく男女合わせて30人の1クラスしかない。6年間ずっと同じクラスなので、まぁ仲はまぁまぁ良かった覚えがある。いや、でも勿論たくさんの嫌な思い出はあったし、あまりよくない出来事もあった。
保育園児時代は小学校よりもっと少ない人数だったため、結構マイペースに過ごせていたがこれからはそうもいかない。何故なら、保育園児の頃はただの猿だった彼らも進化し、人間になってくる。思考も生まれ貪欲も重なり、卑怯な人間も出てくる。これからはさらに慎重に動かねば。
そんな私はさながら地雷の埋まる草原を匍匐前進する兵隊。そう戦争なのだ。これから我らが歩む人生は。お手々仲良くなんていってらんねーぞ、小学生。

「………いや、流石に入学式に考えることじゃないよな…」
「どうしたの?静ちゃん」
「なんでもないよ」

帰り際、駐車場までの道のりを母と手を繋ぐ。
ここまで(小学校)まできたんだ、いや、これからがスタートなんだ。今までの学力とこれからの知識を糧に静は頑張るよお母さん。

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